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海の楽園と失われた旋律~キミノセカイノネイロ~  作者: 柏田士道
第一部 「あの日失った物(者)の対価」(回想)
4/4

2話②「突如現れたあいつ 2」

僕らの間には僅かだったが、その何倍にも感じられるような沈黙が流れた。

僕はついにこの空気に耐えることが出来ず声を発した。


「何故君はこの場所にいるの?普段は閉鎖されているはずなんだけど…」


「私がここに居る理由…?」


「そう、君が此処にいる理由。」


「それは…とても懐かしかったからかな?」


「懐かしい…?」


「うん。懐かしい。」


あれ?何かが可笑しい…。そう言えば彼女は確かに今日、父の仕事の都合で転勤してきたのだと言っていた。それに、ついさっき此処には始めてきたとも…。

普通に考えて仕事の都合で転勤してくるならば少なくともこの土地から離れた場所で暮らしていたはずだ。

彼女の言葉には矛盾が生じていた。


しばらく沈黙が続き会話が途絶えていた。


そういえば、先程から妙に彼女の様子が可笑しい。少し考える仕草をしたかと思えば僕のことを舐めまわすように見て…


(本当に何なんだこいつは…)


次の瞬間、


「あっ!あなたは確か…隣の席にいた人だ!」


「今更!?いや、そこなのか!?」


予想打にしない結論についツッコミをいれてしまった。我ながら不甲斐ない…


「ごめんね…気が付かなくて…」


「いや、別に謝らなくて良いよ…ってそんなことじゃなくて君がここにいる理由を聞いてるんだよ!?」


「さっきも言った通りだよ?懐かしいから」


「懐かしいって君はさっき東京には始めてきたって言っていたのに可笑しくない?」


「そう言えば、確かにそう言ったかもね…ん~一つだけ嘘をついたかな…?」


「嘘?」


「うん、嘘。実は私、二年前に一週間だけここら辺に観光に来てて…ん~観光じゃないね…コンクールの見学かな…?」


「確かに一週間なら来たことが無いのは事実には反するし…ん?二年前のコンクール…?」


果たして、ここら辺で二年前にコンクールをやってた事ってあったかな…あれ、二年前って僕が三年生の頃だったはず…いや心当たりがある。


「それってまさか…世田谷ジュニアバイオリンコンクールだったりする?」


「え!?知ってたの!?そうだよ!私はそのコンクールにいたの。観客として。コンクールの審査って長いでしょ?」


「そうだったのか…それを観る為だけに東京に一週間も滞在したの?他にも観光する所なんて山ほどあるのに…」


これで彼女がここにいたことの辻褄が合う。

何せそのコンクールはこの区民会館のこの場所で開かれたバイオリンコンクールだからだ。とはいっても正直、真剣に全国区を目指すレベルの子供が出るようなコンクールではないのだ。たまに凄いのもいるけど…。


「それもあるけど、一番の理由はそれじゃないかな…それに今回もこっちに戻って来たのもこれに関係する理由。」


「一番の理由ってなにさ、焦らすなよ早く言ってくれないかな?」


「もう、せっかちな人だな~。私が此処に来た一番の理由は二年前に出会った彼に会いに来たの。」


「彼?それとこのコンクールにどんな関係があるの?」


「えっとね…お父さんの知り合いの方が主催してるそのコンクールを見に来ないかって誘われたんだけど、その時に彼をたまたま見かけたの。それで彼のその姿が私の人生を変えたって言うことかな。だから…」


「そういうことか!」


「え!?どう言うこと!?」


僕は彼女の話に割り込んだ。彼女が言っていることは全てわかった。結論はこうだ。


「その彼に恋をしたってことだね!」


僕は彼女に向かって高をくくりながら自慢げに述べた。


「そうじゃなくて…彼の演奏が私の心を動かしたの。自分とは全く違うタイプの彼の演奏はとても素晴らしかったわ!」


「さいですか…」


僕はこの時他人には見せられない顔をしていたと思う。きっとこの時以上に恥ずかしい体験する事はこの身が尽きる時が来たとしても一生経験する事は無いだろう。女子を目の前にして自慢げに答えたが実は違いました。って男子のプライドが総崩れする瞬間を自分で経験するとは。


「でもね…彼の名前は一応覚えてるけど…顔は覚えていないの…」


「へ、へ~その子の名前を教えてよ!」


「んっとね?確か春先聖君だったと思うけど…」


「はい?」


「え?」


彼女は今なんて言った?僕は自分の耳を疑った。確かに今彼女は…

確かに僕はその時、丁度その会場で演奏する側として参加していた。

いやいや…有り得ない。僕はその大会で予選落ちしたんだ。でも予選落ちした理由は、独特な演奏は必要ない、楽譜に対して正直に弾くと言う理由でだったっけ。


「春先聖って言ったよね…?」


「そう言ったけど?」


「それ僕だから」


「ふ~んそっか~…えぇーーーー!」


彼女は素っ頓狂な声を上げた。

それは無理もない。探し求めていた人間が目の前にいてしかも会話をしているのだから。

ここまであからさまに驚かれると逆に申し訳ない気持ちになってしまう。

好きな芸能人が変装していて気が付かないで会話してるのと同じ感覚なのだろうか?いや違う。


「き、君が春先聖君?まさか、こんな直ぐに会えるなんて!しかも学校も同じって私ついてる!」


「そ、そうだな」


彼女のテンションが可笑しい。そこはかとなく可笑しい。学校の時のテンションとは全く相異なっている。こいつ多重人格者か何かか?


「良かった~会って話したい事があったの!」


「な、なんだよ」


「私と一緒に全国目指さない?」


彼女は今度は真剣な眼差しで僕だけを見つめていた。先程では感じられないほど威圧がある。

確かに彼女の美貌こそがそのスパイスになっているとも言えるが完全に自分の思惑通りに誘導するかの如く目線を外させない。しかし僕は物理的に不可能なことに引け目を感じていた。


「いや無理だから…」


「そんな事言わないで、ねっ!明日までに考えておいて!」


「期限短いって!」


ツッコミどころが多過ぎる本当に何なんだコイツは…


「じゃっまた明日学校でね!」


彼女の後ろ姿はとても活気に溢れているように思えたが、それに反して僕の心情は沈みまくった。


「結局、世界の音色について聞けなかったし、いきなり全国目指そうとか言うし意味がわからない。」


後々、春乃姉に聞いたらホールを開放して欲しいって豊島が言ったらしいのだ。

本当に何がしたいのか全くもってわからない。


でも、少し興味深い。

果たして本当に、全国へ行く事が夢ではないのなら…


そう思ってしまったのだ。

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