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棍棒と腰蓑の紳士

私たちはサラサさんに古参のゴブリンさんや1階で働く若いモンスターを呼び出してもらい、転送施設に併設されている訓練場に来ていた。


ちなみに今回、親衛隊から模擬戦に出るのは古参のゴブリンさんの事を知らないマーキュリーさんになった。


不特定多数の人に人化を見られたくないマーキュリーさんは訓練場に着いて早々に竜化していた。


流石にゴブリンがエンシェントドラゴンに勝てないだろうなーと思っていると……


1人のゴブリンさんが私たちの前に現れた。


「こちらが古参のゴブリン、ガーグさんです。」

ガーグさんは私たちの前に跪き、

「お呼び頂きありがとうございます。ワタシの用なゴブリンがミリア様の親衛隊員と模擬戦をさせて頂けるなんて光栄の至りです。」


挨拶してくれた。


手には棍棒、腰蓑をつけた緑の肌、見た目普通の弱いゴブリンさんだった。


そしてそれを遠巻きに眺めている若いゴブリンやコボルト、狼、トレントといったモンスター達がいた。

「ガーグさん、楽にしてください。すぐに模擬戦といきたいのですが、装備は……」

「このままで結構です。」


「そうですか……それでは両者離れてください。」


お互いがどちらともなく10m程距離をとると、向かい合った。


私が右手を上げてから

「はじめ!」


右手を振り下ろしながら掛け声をかけた瞬間

ガーグさんの姿が掻き消えた。

そして、いつの間にかマーキュリーさんの眼前で棍棒を振り抜いていた。


「流石に私の力ではどのような武器でも竜の鱗を砕くことはできません。なので、頭を揺らさせていただきました。」

と、武器を下げてマーキュリーさんから2歩、3歩と離れるガーグさん。

マーキュリーさんがズズゥンと音を立てて倒れてしまった。


「10分位で目が覚めるとおもいますが、マーキュリー殿が意識を失ってしまったからには私の勝ちでよろしいですかな?ミリア様?」


あまりの一瞬での勝負に……みんな、ポカーンとしてしまいました。


わたしが

「勝者、ガーグ」

と宣言すると、


「「「ガーグさん、すげー!」」」


と、若いモンスター達がガーグさんに向かって駆け寄り、


「ガーグさんマジぱねーっす!」

「どうやったらあんなに強くなれるんすか?」

「ぱねーっす!ぱねーっす」

ガーグさんはあっという間に囲まれてしまった。


「強さに憧れる若いモンスター達にはあの強さはさぞまぶしかろう。」


「そうよねー。ガーグは仕事人っぽくてかっこいいからねぇ。」


と、サクヤとマスラさんがはなしています。


「ガーグさん、若いモンスターさんたちにお話をしてあげてくれませんか?あなたの強さは若いモンスターさんたちにはいい刺激だと思うのです。」

と、私がガーグさんは

「かしこまりました。」

と一礼し、若いモンスターさんたちに話し始めた。


ぞくぞくっと私の『危険察知』が反応を示しています……なぜに?


「皆、私たち塔のモンスターは死んでも蘇り、一定以上歳も取りません。だからこそ私は技を身につけたのです。この職場は確かに塔で一番弱いと蔑まれ、やられてはまたやられに行くという塔の中でも一番大変と言っていい職場です。」


と、ガーグさんが若いモンスター達に語っています。


「だがそれがいいのです。

君たちはまだわからないかもしれない!

可愛い、年若い冒険者が、おどおどと私に向かって来て、剣を突き立ててくる!

1階の規約では初心者からは10回攻撃を受けてから死んだ振りをして消えることになっているでしょう?

可愛い冒険者から10回も攻撃を受けられるのですよ?

私は死んだふりをして戻り、再度転送されて何回も何回もその冒険者の前に立ちますよ?素知らぬ顔してね?

そしたら『あ、またゴブリンだ!』と、御褒美を……いえ、攻撃をしに来る、冒険者……あぁ!なんという!なんという〜!

…………熱くなりすぎました……ですが永いことやっていれば、しっかりと良いところに攻撃を受ける為に見切りはうまくなり、こちらから攻撃する時にどさくさにまぎれてしっかりとボディタッチするために素早さ、器用さも上がりました。

私は1階こそ最高の職場だと思ってますよ?」


「ガーグさん、何がいいのかわからない……」


と、若いモンスター達が正直に言ってくれた。


「…………わかりませんか?そこのオオカミの君!想像してみなさい!そこのサクヤ様に攻撃を受ける。ほとんどダメージはないが痛そうに下がったりする。サクヤ様が嬉しそうににやにやする!それを見た君はどうですか!?」


「…………うーん。……ちょっとドキドキするかも……」

「それです!こちらから攻撃する場合はどうですか!?」


「え!えぇと……アマガミする?」

「ばか!ちげえよ!噛んだふりして舐める!ですよねガーグさん!」


あぁ!1人堕ちた!

そしてサクヤがしっぽを逆立てて逃げた!

「ふむ、コボルトの君、なかなかいい答えです。ですが人には人の楽しみ方があります。アマガミもいいものですよ?

他にも……トレントの君!普段どんな攻撃をしていますか?」


「は、はい!木の実を飛ばしてぶつけたり、枝で叩いたりしてます。」

「つまり君は合法的に種付けをしているのですか!?

恐ろしい才能です!実に羨ましい!

今度、私と同じチームの古参のトレントを紹介してあげましょう。さらに楽しい感じになるかもしれません!」

楽しい感じってなんなのさ!?


「あ、ありがとうございます!」


周りから、いいなーと言われて満更でもないトレント君。


「1回休みを利用して、人化し、冒険者のフリをして塔を登ったことがありますが……やはり私はあまり人が来ない上の階より下の階の方がいいと実感しましたよ。上の階に行けば行くほど人は来なくなり、暇を持て余したモンスター達には力や速さはあっても技術がない。ただ、50階のボスが美人のアルラウネだったので、こちらから攻撃できず、負けてしまいましたが……こう見えても私、紳士ですので!」


……こんな紳士いやだよ!


「俺!この仕事続ける!」

「俺もだ!」

「アタイも!」

「僕も!」

と、若いモンスターさんたちはみんな仕事を続ける気にあったみたい……


ヨカッタネ……


「ミリア様、私この人たちをまとめられる気が「ダメです」……」


サラサさんは頑張りなさいよ!

「サラサさん。月1でガーグさんにこういう講演会をやらせなさい。若いモンスターさんたちが残れば仕事はぐっと減るでしょう?その時間を使って後継者を育てたら別の仕事にありつけるように手を回します。頑張ってください。」

と、真顔でサラサさんに全振りします。


「うぅ……頭がグワングワンするのぅ。儂は負けたのじゃな?」


マーキュリーさんが目を覚ました。目を覚ました拍子に人化してしまったけど……


「はぅあ!マーキュリー殿……まさか女子でしたか!私は、私はなんてことを!」

ヒュン!とまたガーグさんは高速で移動して、マーキュリーさんの目の前に現れた。


「誠に申し訳ない!申し訳ない!」


と、マーキュリーさんの手をとって謝罪しはじめた。

「あぁ、模擬戦じゃから、それくらい……」

「マーキュリーに触らないでください!HENTAI!」


マーキュリーの手がものすごく汚された気がした私はガーグさんからマーキュリーの手を奪い取りました!


私はガーグさんからマーキュリーを守る!

「ミリア様!?どうなされたのじゃ?呼び捨てされて嬉しいのじゃが……」

「マーキュリーは何も知らなくていいのです!マスラさん!早く帰りましょう!マスラさんにガーグさんが伝染ったら大変なことになります!」


私とマスラさんとマーキュリーは転移で相談所まで戻った。


サクヤを忘れているのに気がついたのは、相談所にサクヤが自棄酒を飲んで暴れているから回収しに来て欲しいという手紙が届いてからだった。

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