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4.目、見る?

カフェに着き、窓際の向かい合わせにならなくてすむ席を取った。

正面から向き合うのはぜったい緊張してしまう。目を合わせなくてすむ方が安心できる。

お客さんはほかに3組くらいで、すべて女性客だった。


「俺、似つかわしくなくない?」


店内をぐるっと見回しながら、幸山くんは少し困った顔を見せた。花はその言葉でやってしまった!と、考え無しの自分を責めた。


「あ、そうかも……。ごめん、こういう場所しか知らないから」


と謝ると、幸山くんは、


「いいけど。いい体験になるし」


と目を細めた。

男の子同士だったらどういうところにいくんだろう。

やっぱり亜矢にデートでお昼ごはん食べるならどこがいいか聞いておくべきだった!

と花は少し後悔した。


――まあいっか。


幸山くんは、興味深そうに店内を眺めている。



案外楽しそうな様子に安心して、見せようと思って持ってきた小学校時代のアルバムを取りだした。お母さんが花の産まれたときから作ってくれているミニアルバムで、どうでもいいような場面がたくさん写真に残っている。3年生までの分なら、幸山くんも写っている。幸山くんは懐かしがりながら「俺、このとき太ってたなあ」と興味津々で見てくれた。そのうち、


「なんでミートボールって呼ばれてたんだろ?」


と懐かしい話題を振ってきた。


「確かになんでだろう。顔が丸かったからかなあ」


――そのこと、覚えてたんだ……

花にはそれが嬉しかった。

――でも、絶対太ってなかったけどな……。子どもらしくぷくぷくしててかわいかったけど。



そんなことを考えながら、幸山くんが「これは○○くん、こっちは○○だっけ?」と名前を挙げていくのにうなずいたり、訂正したりした。

そのうち、店員のお姉さんがちらっちらっとこちらを見てくるのに気付いた。

メニューはとっくに運ばれていたが、まだ注文していなかったのだ。

幸山くんにそれを指摘すると、


「あぁ!」


と言って、メニューと一緒に花の分の水やお手ふきを渡してくれた。


「普段どれを頼むの?」

「うーん、キッシュプレートかな」

「じゃあ俺もそれにする」

「それだけでいいの?」

「あぁ、バスの中でガム食ってたらおなか結構いっぱい」

「そうなんだ?」




友達と行くときは、たいてい花が注文を取る役だ。

のんびりしているように見えて、意外とまとめ役なのだと自負している。亜矢に言ったら笑われそうだが。今回もそうしようと思って店員さんの方を振り返ると、幸山くんの方から


「すいません」


と手を挙げた。

やってもらっちゃった……などと、花はそんな小さなことにも驚いた。

店員のおねえさんがやってくると、「キッシュプレート2つ」と言って、「これだけでいい?」と確認までされた。


「うん」


なんだか女の子扱いされた気がして、花は落ち着かない気持ちになった。




キッシュを食べている間、ずっとアルバムを見て語った。

かなり昔のことのはずなのに、ふたりとも案外覚えていた。

誕生日会によびあったこと、好きだった担任の先生。

ふだん友だちやお母さんと来るカフェに、幸山くんと並んでいるのが変な感じだった。顔なじみの店員さんにどう思われてるんだろうと思うと、背中がこそばゆい。



お金をかけてわざわざ遠いところを来てもらったので、そこの勘定は花が出すことにした。最初のうちは幸山くんは拒否をした。



「いや、俺が勝手に押しかけたんだし!」


――わたしからしたら「来てもらった」んだし、それくらいさせてよ。


最後は、「ここの割引券持ってる!」と言って強引に納得させた。






カフェを出たあと、またゆっくり歩いて駅に向かった。

途中、幸山くんが不思議な話題を振ってきた。



「俺、目の色が変わったんだよねー」



「変わった、って?」

「うん、なんか色素が薄くなった感じ」

「?」

「今、目が緑色っぽいんだ」

「緑!?」

「見る?」

「うん」


幸山くんがこっちに顔を向けた。のぞき込むと、本当に薄い緑色をしている。

再会してから、ちゃんと目を合わせたのはこれが最初かもしれなかった。


「ほんとだ……」


幸山くんは笑って、ぱっと前を見た。

幸山くんのほほが少し赤くなっているような気がした。




――あほ、あほ、あほ!

花はいきなり変な行動をした幸山くんに対してか、そんなことで動揺する自分に対してか、何に対してイライラしているのか分からないまま心の中で毒づいた。


顔、近かった……


前を見ながら、また奥の方で心臓が動いているのを感じた。

冷たい風が今だけは気持ちよかった。

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