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2.もうすぐ12時になるね

3月24日――



朝起きて、いつもと同じ朝だけど何か違う気がした。寝起きのだるさがなくて、わずかな興奮だけが体に残っている。

そうか、今日は幸山くんが会いに来る日なんだ。

昨日布団の中で、熱を感じながら眠りに入ったのだ。




学校は2年生最後の日で、大掃除、終業式、退任・離任式があった。

一年間お世話になった教室を大掃除しながら、同じく美化委員の加奈子とどうでもいい話をしては、いつになく大声で笑った。明日から春休みだと思うと、みんなのテンションも高い。花は他のみんなとは違う理由で興奮していたが、加奈子はそれに気付くことなく上機嫌で話し続けていた。


終業式になり、校長先生の長い話が始まった。

この話が終われば、幸山くんとの待ち合わせの時間がまた迫ってしまう。

話の内容はまったく頭に入らず、たぶんためになる話をしているんだろうな…と思いながら、心ここにあらずの状態で校長先生の口元を見ていた。




講堂の時計の針が10時を指す。

目の悪い花は、もう11時50分なのかと勘違いしてしまい、むだに焦った。幸山くんの乗ったバスが駅に着くのは12時半。あと40分しかこころの準備をする時間がない!

あわてて後ろに立っている加奈子に、


「今ってもう12時になる?」


と確認をした。すると加奈子は、


「は?まだ10時なんですけど」


とバカにした声で返した。


「あ、そうか、ありがとう」

「何、どうしたー花?」

「いや、別に」




花は幸山くんの話を誰にもしていなかった。

いまだに現実感がもてなかったというのもあるし、ただ会いに来るだけで大騒ぎしてたら恥ずかしいという気持ちもあった。

だが加奈子も校長先生の話に飽きていたようで、この初心な友達に何か隠し事があるとみるや容赦なく聞き出そうとした。

この場所では、ごまかして逃げることもできない。仕方なく、小学校のころに転校していった子が今から会いに来るということを明かした。恋バナが大好きな加奈子はめがねを輝かせて「写真が欲しい!」とねだった。


「分かった。プリクラを撮ってくる」


話してもバカにされなかったどころか、花にもそんな相手がいたなんてと感激してくれたことを嬉しく思いながら、そう約束をした。





その話をしてから、加奈子は何かあるたびに時間を言ってきた。

「ほら、今11時前だよ。もうすぐ12時になるねー」だの、

「あー、あと10分で12時だよ!」だの。

10時の段階で焦ってしまっただけに、完全に面白がられている。失敗したと思って花は顔をしかめた。




そしてようやく帰る時間になった。

思ったより早く終わって、12時半には駅につけそうだった。あと少しで対面だと思うと、ポーカーフェースもなかなか難しい。違うクラスの亜矢がいつものように教室の前で待ってくれている。そちらに向かおうとすると、加奈子が悪い笑みを浮かべながら手を振ってくる。そのせいで亜矢にも何かあると感づかれてしまい、一緒に駅に向かっている途中で、結局あらいざらい話すことになってしまった。


「あ〜あ、そんなに分かりやすくなっちゃうんだねえ」

「そんなに変!?」

「ううん、でも珍しい」


亜矢は楽しそうにほほえんだ。


「花にもついに春が来たんだね。朝会ったときに言ってくれれば色々アドバイスできたのに」

「そういうんじゃないってば!小さい頃仲良かった相手なんだって!」

「でもそれってデートでしょ」


デート、と言われてたじろぐと、亜矢は念押しのように「デート」と言った。そうして花のことをじいっと見たあと気が変わったように、


「でもやっぱりアドバイスはやめとくわ。花はありのままでいる方が向こうも喜ぶでしょ」


とだけ言った。そのあと、


「初デートとかわたしももう一回したい〜」


と本気でうらやましがる様子を見せた。





駅に着く前に、駅の隣の百貨店でカバンをコインロッカーに預けた。今日一日は身軽でいたい。

それに終業式の日まで残してしまった教科書やらブランケットやらで、カバンはいつもより重たかったのだ。


そしてトイレに行って身だしなみと気持ちの最終調整。鏡にうつる自分が心なしか紅潮しているが今からこんな状態では先がおもいやられる。はぁ…とため息をついて、花はぐしゃぐしゃな髪をととのえた。今日は春風が強いから、こんな猫っ毛すぐにまたぐしゃぐしゃになりそう。

もうついてこなくていいと言ったのに、亜矢はトイレにまでやってきて、一歩後ろから楽しそうに眺めていた。




駅につき、改札口の前のホールに亜矢と立った。

メールでもう着いたことを知らせ、大きな時計が12時半を指しているのを確認した。バスの予定到着時刻だ。

小さな地方都市の、平日の昼間。

おじいちゃんおばあちゃんか、同じく終業式を終えた高校生らしき人しか歩いていない。

いくら目の悪い花でも、きっと分かるだろう。




そして、駅の北口から何人か流れてきた。

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