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風を掬う者(先行版) 作者:愚者x2
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壱章/人斬り/挿話弐拾弐/闇の中の男達

蟋蟀の鳴き声が闇に溶け込んでいく。
隠岐剣術道場の丁度真ん中辺りに、
一人の男が座していた。
隠岐虎太郎である。
明かりは一切点けていない。
闇の中で己の闇を見つめているかのようだ。
隠岐流剣術は元々暗殺剣である。
こうして外の闇と内の闇と闘うのも、
大切な鍛練の一つなのであった。
しかし、この鍛練は、
隠岐流直系の者だけが行っている。
外から隠岐流を学びに来る門下生が帰った後、
直系の者だけがやっているのである。
以前は虎太郎の後に虎次郎、
虎三郎も順にこの鍛練を行っていた。
しかし、今はもうその二人はいない。
虎太郎だけがこうして毎日、
闇の中に身を置いているのであった。
「何時からいた?」
突然、虎太郎が闇に問うた。
「さぁな、」
闇が答えた。
「こんな時間に何用だ?」
「虎三郎は惜しい事したな」
「ああ、」
表情一つ変えずに虎太郎が応えた。
「俺は虎次郎と虎三郎を斬った奴を知ってるぜ」
「ほほう、」
虎太郎はまだ表情にも姿勢にも変化はなかった。
「知りたいか?」
「教えてくれるのか?」
「俺に勝ったら教えてやるぜ」
「なるほど。お前らしいな、天竜」
そう言いながら虎太郎は立ち上がり、
背後の闇へと向き直った。
そして虎太郎が向き直った先の壁に、
天竜は背を預け虎太郎に向かって、
微笑んでいるようにも見て取れた。
「明かりを点けようか?」
虎太郎が天竜に問うた。
「いや、このままで構わねぇよ。
俺も闇には慣れてるぜ」
「ほほう」
「うちは元々忍者の家系だったんでね」
「なるほど。
私に気付かれずに道場に入って来れたのも、
忍術の為せる技って事かな」
「忍術って言う程のもんでもねぇけどな」
「しかし、忍者ってわりには、
目立ち過ぎるんじゃねぇのかい!?」
「うるせぇ!
でかくなっちまったもんは仕方がねぇだろ」
「よくもそんなにも育ったもんだよ」
「それよりもよぅ、」
「なんだ?」
「早く気付いてくれて助かったぜ。
お前が朝まで気付かなかったら、
どうしようかと思ったよ」
「そうすればよかったかな」
虎太郎がそう返した途端、
「はははははは、」
「ふふふふふふ、」
二人は合わせるように声を出して笑い出した。
数瞬の間笑い合った後、虎太郎が天竜を促す。
「さて、そろそろ始めようか」
「いいぜ」
天竜はそう応えながら、背を壁から剥がし、
数歩虎太郎の方へと近付いた。
剣の間合いにはまだ、
数歩程距離を詰めなければならない。
その距離で二人はどちらからともなく、
互いに剣を抜き構えた。
二人は闇に飲み込まれ、闇が静寂に包まれる。
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