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[開始]

鍵状の頭部をした者はキーヘッドで、錠前状の頭部をした者はロックヘッドだ。


キーヘッドとロックヘッドの間から子を成すのが、世界における常識である。


それぞれの嗜好こそ存在するが、互いの相性が良好でなければ子を成すにまで至らない。中には無理矢理そうしてしまう事もあるが。


色調の同質化、或いは対象化。キー部分とロック部分のサイズの結合率。キーヘッド、ロックヘッド互いの性格も大事。


そこまで進んでやっと、キーヘッドはロックヘッドの開錠が出来る。錠前の隠れて居た箇所が膨らみ始め、数ヶ月掛けて子が産まれる。


此処に新たなキーヘッドが産まれたのは数十年前の話だ。今ではキーヘッドは立派に成長した。ロックヘッドと結ばれてもおかしくない年季である。


「くだらない」


言葉で表すのだとしたら、そんな意味を持った言葉をそのキーヘッドは発した。目の前にはまだ若々しく、中には美しさを備えたロックヘッド達が歩いている。

たまたま近くを通り掛ったロックヘッドは思わず足を止めてしまう。ヘッド内の振動によって発声に近しい意思疎通が可能だ。

中でもそのキーヘッドが発した音は、年季を重ねるに連れ避けられない振動器官の劣化をまるで知らない様な、極めて透き通ったものなのだから。


続いてかのロックヘッドは、キーヘッドの姿があまりに美しい事に気が付けば、実用性よりも美しさを優先した歩き心地の悪いブーツを地面に縫い止める。

根元を隠す様に帽子を被っている姿は、キーヘッドにおける至って一般的なファッションの一つである。


先端部分が噛み合わなければロックヘッドは引っ掛かりもしない。根元まで使わずともロックヘッドと子を成せるが、致命的な弱点にも成り得る。

だからこそキーヘッドは帽子を用いて根元を隠すのだ。


しかしながらそのキーヘッドと来れば、先端から根元付近まで鈍く輝く白銀のキーを備えていたのである。しかもその表面は流動しているのだ。


キーにおける流動性は、より幅広いロックヘッドとの調整を可能とする。根元付近に流動を備えれば最後の結合については後腐れない。

先端部分に流動性を備えていたならば、それこそ先端が埋まる程度の、要するに遊び相手には全く困らないとされる。そういった点では、そのキーヘッドは完璧で有る。


一般に流動性を備えるキーヘッドは二割程度。その中でヘッドの形状を明確に変化させられるものは四割弱。自在に操って数多くのロックヘッドを満足させられるのはそれこそ少ない。

だが、先端から根元に掛けて完全な流動性を持っているとなれば、自在に操れるとなれば、如何なるロックヘッドとの調整が可能なのだ。何一つ問題は無い。すべてのロックヘッドを相手にしても。


「あの…何が、下らないのでしょうか」

「ふん、『何が下らないのでしょうか』、その答えすら気に食わない。凡庸なロックヘッドらしい答えだ、予想が当たれど何も面白く無い」

「ああ……」


ぶっきらぼうな返答であったが、その態度すらもロックヘッドにとっては極めて魅せられた。美しい声色(以下声色とは振動器官の音を差す)に、完璧な外見、それだけで十分だ。


「こんな俺の様な、相当に譲っても完璧とも取れる相手が世界に居るのにも関わらず、世界には凡庸が溢れかえっているじゃないか」

「そうですね」


無論その凡庸の中にはお前の様なロックヘッドも入っているのだ。確かにキーヘッドの言葉の中にはそんな意図が含まれていたのだろうが、それでも構わず言葉を返す。


「故に俺は未だに結ばれない。凡庸なロックヘッドを相手にするだけで腐ってしまいそうだ……」

「ああ…凡庸な私めの見解で申し訳有りませんが、きっと貴方にも、釣り合う相手が見付かる筈です、きっと世界の何処かで」


結ばれぬキーヘッドとロックヘッドは存在しない。世界単位でそんな言い伝えが存在しているのは確かである。

嘗てこの世界において、キーヘッドもロックヘッドもそれぞれ一対として、完全な相性を備えた者同士で生み出されて居た。

色合いから形状に至るまで、決してばらつきの無い様に。そんな言葉に対してその通りだ!とキーヘッドは堂々と呟く。


「そう、その通りだ。この世界の何処かで、俺に見合った、そして俺の様な完全を待っている……完璧なロックヘッドが存在するのさ、それを探す」


限りなく不可能に近い事だ。世界の中で、何処に居るかどころか、存在するかどうかも知れないロックヘッドを探し出す。

多大な労力と時間を要するのはもとより、何よりも多大な運が必要なのだろう。

だが、あまりに完璧な声が、外見が、言葉に秘められた強い意志には。そんな困難についても、どうとでもなる予感を持たせた。


「お気を付けて」

「ああ、気を付けるさ。凡庸に言われるまでも無い事だ……だが、有難う」


突然の言葉に思わず、全てを明け渡したくなったが。その思いが伝わりもしないのだとも既に理解していた。このキーヘッドには、一切凡庸と結合はしない。

待ち構えて居るのは、似た様なロックヘッド。如何なるキーヘッドをも受け入れられる完璧な外見を備え、声もまた美しく。その上で完璧を求め、キーヘッドを求めている様な――


帽子を目深に被り、流動を続ける先端のみを露出した状態で、キーヘッドは歩く。彼の名はαA1。完全なキーヘッドだ。

R15タグは警告が怖い故の保険です。

鍵を錠前に突っ込んで開く事が本当にR15なのか悩みどころです。今後どうしよう。

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