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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Killer of Killers

作者: 剣崎 宗二

「いってきまーす」


 S県、M市。

 大都市ではないものの、大都市からそれ程離れてはいない小規模な市である。

 大都市ではないが故に、それ程明確な『事件』という物が起こりにくい、それがこの市の特徴であった。

 ――だが、何事にも、『例外』と言う物は、存在するものだ。


「おはよー、陽子ちゃん!」

 後ろから、誰かにポンッと肩を叩かれる。叩かれた方――朝日陽子が振り向けば、そこに居たのはツインテールの茶髪の少女。

「もー、絵里ったら、また髪を染めたの? 怒られるよ? 鬼の霧島の」

「大丈夫だって。毎度毎度、怒鳴るだけで結局何にもしないんだから」

 ぺろっ、と可愛らしく舌を出すツインテールの少女。


「それより聞いた?」

「ん、何?」

「二組の朝坂さん、もう一週間も登校してないってさ」

「へーえ。単に旅行に行ったとか、‥‥二組の事情は知らないけど、いじめられて登校拒否とか。そういうのじゃないの?」

「それがね、無断欠勤らしいのよ。しかもあの組の友達によると、友達が一杯居て、直前まで問題があるようには見えなかったらしいのよ」

「二組の人が嘘をついてる可能性もあるんじゃないかな?」

「んー、かもしれないねぇ」

 二人の少女は、そのまま校門を通っていく。


「おい高村!」

「やばっ!?」

 びくっと、ツインテールの少女が反応する。

「何でしょう、霧島先生」

 引きつった笑顔を浮かべたまま、呼ばれた少女が振り返る。


「髪を染めるのは校則で禁止されているはずだぞ!」

「あ、すみません、落とすの忘れてました!」

 ぺろっと舌を出し、苦笑いのような表情を作るツインテールの少女。

「毎度同じような言い訳を‥‥これで何度目だと思っているんだ! 大体な――」


「すみません先生」

「ん、どうした朝日」

 友人が自分で招いた――そう言える事態。ため息をつきながら、陽子は助け舟を出す。

「このままでは遅刻してしまいます。校則も重要ですけど、校則を守る為に別の校則を破ってしまっては本末転倒ではないでしょうか」

「ぐぬ‥‥仕方ない。高村!」

「はいっ!?」

「次に会うまでには、絶対に落としておけよ」

「分かりました!」

 可能な限りの真面目っぽい声を出し、ビシッと敬礼。

 脱兎の如く、高村絵里は校舎へと駆け出していく。

 その後を。歯軋りしながらそちらの方を睨む先生を横目で見ながら、陽子もまた、校舎へと歩いていく。


「おはよー」

 挨拶してくる同級生に、軽く手を振って返した。

 陽子のその目線は、一人の男子生徒に向けられた。


「‥‥あれ、三条君、登校してたの?」

 ひそひそと絵里に聞く。

「ね、珍しいよね‥‥二週間ぶり、かな?」


 窓際に座り、窓の外にやるその男子生徒は、どこのクラスにもいるような‥‥そう、友達も居らず、よく休む。そんな生徒だ。

 そのような生徒が、往々にして身に纏う『近づき難い』雰囲気。そのせいか、誰も彼に話しかけようとする者はいない。


「あ、やっば!? 宿題忘れた!! お願い陽子ちゃん、写させて!!」

 絵里の叫びに、陽子は視線をその生徒から離す。

 今日も一日、生活が始まるのだ。―-あの男子の事は、直ぐに忘れてしまうような、極普通のイベントなのだろう。



 ――放課後。

 学生たちが、放課後活動を考えるため、最も忙しくなるこの時間。


「ねぇ陽子ちゃん‥‥」

 絵里が、彼女らしからぬ、しおれた声で陽子に話しかける。

「今日放課後に遊びにいかない?」

 振り向いた陽子はにこりと笑って、

「いいわよ」


「もちろんダメだよね‥‥そうだよね‥‥って、ええ!?」

 しょんぼりしていた絵里の顔が、一瞬でぱーっと明るくなる。

「毎度毎度用事がある陽子ちゃんが、一緒に遊んでくれるって!? これはいっぱーい人を集めないと!」

 大声でも張り上げて人を集めそうだった絵里の袖を、陽子は引っ張って止める。

「‥‥あたしが人が多い場所嫌いなの、知ってるでしょ?‥‥一緒にいかないわよ?」

「――冗談よ、冗談」

 愛想笑いをつくり、手を振って取り繕う絵里。


 二人が横に並び、歩いて帰る最中。

 隣で立ち話していた中年女性二人の会話が、彼女らの耳に流れ込んでくる。


「今度殺された子供たちも、男女ワンペアだったらしいわね‥‥」

「殺した死体を抱き合わせてたって話よ。気味が悪いわね‥‥」

 話の気持ち悪さに気分を害したのか、僅かに眉をしかめる陽子。


「これってやっぱり、『Killer of Killers』なのかなぁ?」

 そんな彼女の心中を察してか察してないのか、絵里の出した話題も、またこの事件に関係しているものだった。


「何?それ」

「ん、都市伝説ってゆーか、噂ってゆーか‥‥」

 唇に指を当て、上を見上げる絵里。

「『Killer of Killers』って言う殺人鬼が、いろんな街に出没しているらしいの」

「どんなヤツなの?」

「わかんない」

 思わずずっこけかける。


「何そのありきたりかつ眉唾な話‥‥」

「んー、警察の関係者から流されてきた話だけど、某掲示板ではいろんな街の関係者から『その名前だけは聞いた事ある』って言われてるのよね」

「そもそもあの掲示板自体、信憑性ないでしょ」

「んー、それもそうよね。けど、『あったらかっこいい』って、皆が思ってるから、その噂がここまで広まったんじゃないかな」


「んぐっ!?」

 そこまで考えたと所で、急に後頭部に衝撃を感じ、絵里の意識は、闇へと沈んでいく。



「おはよう。絵里ちゃん」

 絵里が目を開ければ、そこには陽子の姿。

「あれ、陽子ちゃん‥‥あたしどうしたの?」

 手で目を拭こうとする。だが、じゃり、と言う音を立てるだけで、手が動く様子はない。

 ――それもその筈である。絵里の手は、鉄の鎖によって、後ろの柱に繋がれていたからだ。


「あ、あれ?ねぇ陽子ちゃん、これを開けてくれない?そもそもどうして、こういう事になってるの?」

 混乱しながらも、絵里は目の前の少女――特に拘束されておらず、自由に動けるだろう陽子に、自分を自由にしてくれるようお願いする。

 だが、それを彼女が聞き入れる様子はない。寧ろ、うっとりとした表情で、見回すように、絵里の周りを歩く。そして、彼女が移動した所で、部屋の反対側に同様に鎖に繋がれている少年の姿を、絵里は見つける。

 ――三条くん。殆ど登校していない、あの男子生徒。


「ひっ」

 陽子が拾い上げたのは、血の付いた長大な刃物。俗に解体包丁と呼ばれる、巨大な魚類を解体するための道具。

「ま、まさか、それ‥‥」

 一歩。また一歩。陽子が、獲物のその目に捉えた狩人の如く、絵里へと近づいてくる。

 恐怖の表情を浮かべた絵里の目線が、若しも刃物に釘付けになっていなかったのならば、彼女には陽子の目に浮かぶ狂気の光が見えたのかもしれない。


「さぁ、芸術のため、犠牲になってよ」

 ザシュッ。

 絵里の意識は、そこで途切れた。


 ――朝日陽子が高村絵里の『解体』を成し遂げた後。手に付いた血を、絵里の最早形を保っていない制服で拭いてから、陽子はもう一人の獲物――少年、三条空也に向き直る。

 意識を失っているのか、下を向いている彼の表情は、陽子からは見えない。

「まぁ、意識を失っていた方が、幸せかもね」

 振り下ろされる凶刃。

 ザシュッ。


 ――そう、音をあげて、血が吹き出すはずだった。

 だが、代わりにあがったのは、キン、と言う鋭い金属音。

「え?」

 弾き飛んだ解体包丁の先を見ながら、唖然とする陽子。


「――なるほど、あなたの底が見えた」

 顔を上げた少年の顔に浮かんでいたのは、恐怖ではなく微笑み。

 謎を解いた、と言わんばかりの。微笑みであった。


「えっ?えっ!?」

「残念ながら、僕の体は、他とは少し違うんです」

 慌てる陽子を他所に、少年――空也は、縄をまるで紙のように引きちぎり、四肢と首を軽く動かす。その体には、血どころか、傷一つついていない。

 先ほど、全力で振るわれた解体包丁が当たったにも関わらず、である。

「そんな、うそ、こんな事が!?」

 信じられない現象を目の当たりにし、ぺたりと、地に座り込む陽子。

「まぁ、俗っぽい言葉で言えば――ミュータント?超能力者?そんな物です。そもそも――」

 指を一本立てて、解説しようとした空也だったが、陽子の目の焦点が既に彼に合っていない事に気付き、ため息をつき、手を下ろす。

「あなたの手口は、よーく理解しました。――因果応報って言葉、知っていますよね?」 

 今の彼の微笑みは、陽子には、死神のそれに見えただろう。

 ぶるぶると首を振りながら、後ずさる。

 だが、直ぐ後ろには、壁が。

「最も、僕には、包丁なんか、使う必要はありませんけどね」

 空也の手が、陽子の首に掛かり――そして、引きちぎった。


 かくして、S県M市の連続殺人事件。その最後の一件は、犠牲者、朝日陽子と高村絵里という結果にて、幕を閉じる事となる。

 誰も理由を知らないが、その後、同様の手口での殺人事件は起こらなかったのだ。

 男女一組で殺害される事が多かったこの連続事件。最後の一件の犠牲者が両方女性である事を疑問視する捜査関係者も居たが、確固とした証拠は見つからず。

 殺しが途絶えた事で、『接続式男女連続殺人』と名づけられたこの連続事件は迷宮入りする事となる。



 ――『Killer of Killers』

 誤解する人も多いが、それは決して、『殺人者の中の殺人者』ではない。

 ――その真は、『殺人者を殺す殺人者』なのである。

毎回アニメや漫画で殺人事件やらホラー(シザ○マン)を見る度に、よく思うのですが。

「若しも追われる(狙われる)側が超人であったのならば、どうなるのか?」


そのコンセプトを具現化したのが、この一作となります。

割と趣味を全開にして書き下ろしたのみですので、推敲が足らない所も多くあると思いますが、そこは笑って許していただけるとありがたいです。

では、また機会があれば。

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