rainy day
『莉緒は…雨って好き?』
家まで送ってもらう、信号待ちの車の中で、悟は私に聞いてきた。
外は、雨。かなり強く降っているようだ。
『…雨は嫌だな。濡れるし、憂鬱だし』
私は答えた。
しばらくして、信号が青に変わり、車は走り出す。
『俺、雨って好きだよ。なんかさ、自分の中にあるイヤな気持ちを全部、洗い流してくれそうな感じがするでしょ』
(へぇ…悟って、以外にも詩人なんだ。)
悟とは高校の同窓会での再会をきっかけに、付き合い始めた。
『高校の時、君の事が好きだったんだ』
…よくあるパターンだ。
当時、クラスメイトだった悟とは、ほとんど話した事がない。
彼は比較的と呼ばれるグループにいたので、私や私の友達のような騒がしいグループと交わる事は、なかった。
それから、卒業して2年振りの再会…悟は素敵な男性になっていた。
私は、大学の先輩との男女関係で《2番目》という、都合のいい女でいる事に疲れ果てていた。
誰でも良かった。この状況から、私を救ってもらえるならば…
だから、悟から差し出された手を、こうして掴んだのかも知れない。
…もう、2番目は嫌だ…
家の前で車が止まった。いつもなら、悟と短いキスをして笑顔で別れるが、今日は、悟からのキスがない。
『悟、どうしたの?まだ一緒にいたい?』
悟は黙ったまま、俯いている。
『どうしたの?具合でも悪いの?』
しばらく黙っていた悟が、意を決したように話始めた。
『……実は、付き合ってる彼女に…莉緒の事がバレて……別れてこい…って言われたんだ。』
一瞬、耳を疑ったが、悟の顔を見れば、本気で言っていることが分かる。
すでに本命がいた悟にとって、私の存在は《2番目》でしかなかった。
(あなたにとって、私は2番目でも、私にとって、あなたが全てだったのよ…)
悲しすぎて、涙なんか出てこない。
外は、泣けない私と反比例するかのように、雨足が強くなっている。
悟の中で引っ掛かっていた、本命への罪悪感も、この雨できれいに洗い流す事ができたのだろうか?
こんな時、2番目は、すがってはいけない。
『今まで、ありがとう』
そう呟くと、私はゆっくりと車を降りた。
振り返らずに、前だけを見て……。
今でも雨は嫌いだ。
濡れるし…憂鬱だし。
車を降りた後で、流した涙を思い出すから……