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第三章 20

 スミレ・F・アイランド--、またの名を原島スミレ。今は亡き彼女が見た未来には、三つの道が示されていた。


 一つはティアナの死だ。ラクスを襲う複数の魔人、その中にいたコロナとの戦いで、ティアナは命を落とすはずだった。ティアナを守るためにその身を捧げようとも、ネクロの前にはスミレも諸共に果てる。逃げることは--、できない。逃げたところでラクスを陥落させた勢いで、ネクロはエスト国を支配下に置くのだ。

 引けば死に、立ち向かえど死ぬ。

 ならばと、スミレは『地球へ帰るための切り札』を使い、その結果、足立義利をガイアへと呼び寄せることとなった。運命を変えるには、別の運命の介入が必要だったのだ。ガイアのモノではない、別の運命だ。

 足立義利の召喚により、スミレはティアナの死を、そしてラクス陥落を回避する未来を得た。

 その代償は、次の未来予知でスミレの前に現れる。


 義利の介入により変革した運命は、トワが見た通りだ。トワの死を切っ掛けにした災悪の誕生。足立義利による人類の虐殺という未来。

 暴走する彼を止めることは誰にも叶わない。一つ、また一つと、彼は着実に国を滅ぼす。そこに住まう人間を、差別も区別もせずに殺す。言葉は通じず、心を通わせることもできず、暴虐の限りを死ぬまで繰り返すのだ。

 そして、それは彼一人で終わりはしない。彼に同調した魔人が徒党を組み、彼と合流し、彼の死後はその意志を継いで、人間は滅ぼされる。

 ティアナの命は、延命はされど死の回避まではできなかった。たった一年と数ヶ月。一人の少女の延命のため、スミレはガイアに滅びの運命を招いてしまったのだ。

 そして、回り始めた運命の歯車を止めることはできない。進み始めた運命を戻すことも、できない。


 だが足立義利の介入により、三つの運命が変わっている。一つはフレア・ヴォルカニアの運命。ティアナに殺され終わるはずだった彼女と、そして同時にもう一つ。ガルド・マニエンの運命だ。二つの運命は、ティアナの死刑とは深く関わりはしない。しかしネクロによる第二第三の襲撃がないのは、二人の働きによるところが大きかった。

 スミレの予知では、ネクロは今、フレアに占領されたウェイスト国にいる。

 運命は、少しづつではあるが変わり始めていたのだ。


 そこへ足立義利が変えた三つ目の運命が--、トワがさらなる変化を生み出す。


 ティアナ・ダンデリオンが運命の起点、足立義利が運命の分岐点であるとすれば、トワは運命の可能性だった。

 トワの行動が、言葉が、心の向く先が、足立義利を大きく動かすのだ。


 第三の運命。

 トワが足立義利に好意を抱くことで生まれた新たな運命だ。スミレがトワに未来を知らせ、トワが義利のために命を捧げる決断をできなければ生まれなかった運命だ。そして同時に、先の見えない運命でもあった。


 ストックの能力で見える未来は、起こる確率の高いモノだけだ。第三の運命では、その分岐が多すぎた。未来を知ったトワにより幾十幾百の分岐をしている。

 スミレは初めて義利と出会う前日に、未来に関する一切の記憶を、断片的に書き記した後にストックへの対価として捨てた。これ以上に運命が変わることを恐れて、運命への介入を自制したのだ。

 スミレが書き記した物は、必要と思われる未来に関する出来事と、自らに宛てた手紙だ。手紙には、こう記されていた。


『足立義利という魔人の少年が、ティアナを魔人から救う。トワという少女が、ティアナの処刑を防いでくれる。自分を信じろ。そして、戦闘以外では未来を見るな。この運命だけが、ティアナを救える唯一の道だ。足立義利と、トワ。運命の子を、信じろ』


 第三の運命が向かう先は、誰にも分かりはしない。

 それでもスミレは全てを賭けた。

 己の命も、記憶も、全てを賭けた。


 ただティアナが生き延びることだけを望んで--。

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