第三章 33 終幕
プランの悲鳴に始まり、義利とアシュリーが約束を交わしたその日、一つの別れが訪れようとしていた。
契約者を失ったストックが、新たな契約者を探しに行くと言ったのだ。
悪魔と違い、自然から吸収できる魔力だけでも存在を保つことができる。
とはいえ、それだけでは充実した生活を送ることはかなわない。
だからストックは、新たな契約者を求めていた。
「……ストック。僕じゃ、ダメかな?」
義利が言う。
新たな契約者として名乗り出てようとしていた。
そんな義利の申し出を、彼は首を横に振って断る。
「ゴメン。ココの人とは契約できないんだ」
その口ぶりから、義利は事情をうかがい知った。
彼もまた、スミレとの契約に縛られているのだ。
深くを聞くのは野暮だろう。
そう思い、義利は一言、別れの言葉を告る。
「……またね」
ストックは言葉ではなく、背中越しに手を振って返す。
その場にいる誰もが、彼を引き留められなかった。
ティアナやプランは突然の別れに困惑しつつ、涙を堪えてストックの背を見送る。
振り返ることなく進み、ラクス市街の人ごみに紛れた彼は、小さく噴き出した。
「またね、かぁ……」
つぶやき程度の小さな声は、賑やかさの中でかき消される。
誰に聞かれることもなく、ストックはもう一度、声を出した。
「そうだね。また会おう」
天使・ストック。
未来を知る彼は、そうして行方をくらませた。




