見舞い
入院生活にもある程度慣れてきた。この左手左足が無い生活にも慣れてきたと思う。まだまだ人の助けがないとダメだけどな。この頃は何もする気が出ない。毎日病室の天井を見ているだけのような生活だ。入院する前は毎日のようにしていたゲームも今ではどうでもよくなっている。あの頃は一種の中毒みたいにやめられなくなっていたな。なんかバカみたいにも思える。
姉ちゃんも日に日によくなっているようだ。今日もメンタルケアで部屋にいない。恐らく夕方まで戻ってくることは無いだろう。岡本医師曰く「お姉さんのメンタルケアは慎重に行わなければいけない。だからこそゆっくりと時間をかけてやるんだ」ということだった。俺も少し任されている分もあるが何をしたらいいかさっぱりわからん。まあ、いつも通り接していればいいかと結論をだしたがな。
リハビリももう少しで始まるらしい。そのために今は力を蓄えておけとか言われたが何をすればいいのだろうか。むしろ力が有り余っているほどだ。あんなに体育の時間が嫌だった俺がスポーツをしたいとか思うなんてどうかしちまったようだな。
突然ノックされる。少しビビってしまった。そういえば、幼馴染と小学からつるんでいるダチが見舞いに来るとかなんとか聞いた気がするな。今日だったのか。
「あいよ」
「入るぜ」
案の定そのダチだった。
「元気だったか?って、入院しているから元気も何もないか」
毎度毎度よくしゃべるやつだ。でも、俺はこいつが入ってきたときに一瞬だけ顔をしかめたのを見逃さなかった。やっぱり他から見ると不快なものなのかね、この体は。
「あれ?桜は俺の後ろにいたから一緒に入ってきたと思っていたんだが」
「桜なら俺を見て顔色変えて外に出て行ったよ」
桜とは幼馴染の事だ。あいつはグロイ系が苦手だったからな。しょうがないか。ってことは、俺のこれはグロイ部類に入っているということか。なんかショックだ。
「話には聞いていたが本当だったんだな」
「こんなことで嘘つくわけないだろう」
「そりゃそうだけどよ」
まあ、俺もついこの前まで仲良くしていた人間が急にこんな状態になったとしたら嘘だと思ってしまうかもな。
どれくらい話していただろうか。時間はわからないがそれはとても楽しい時間だった。入院している中でもっとも充実していた時間であった。持つべきものは友だな。
話している途中に恐る恐る桜が入ってきた。そして俯いたまま近くの椅子に座る。
「んじゃ、俺は話したいこと話したし邪魔になると悪いから外で待ってるよ」
「おい、待てよ」
俺の静止の言葉すら聞かずに外に出ていってしまった。ってか、邪魔ってなんだよ。
病室の中には気まずい空気が流れている。どうしたらいいのかね。
生きてます