メンタルケア
飯を食い終わり、ベッドの横に置いてある電動車イスに移り、食器を規定の場所に置きに行った。
「飲み物何か買って来るか」
そのついでに自販機に寄る。
「アクエリでいいか」
欲しい飲み物のボタンを押す。ガコンと音を立て、飲み物が落ちてくる。さて、戻るか。
「ん、真人くん」
振り向くとそこには俺の担当医となった岡本がいた。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
医師ってこんなに早くからいるもんなのかね?それとも夜勤か?……まあ、俺には関係のないことだ。
「少しいいかな?」
「はい、別にいいですけど」
「そうか。じゃあ、ちょっと行こうか」
岡本医師は俺の後ろに立ち、車イスを押してくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、これでも立派な医者だからね」
この人常に微笑んでいるな。患者を安心させるには一番いい方法なのかもしれないが。なんとなく好きに慣れそうにもない。こういう人は何を考えているかさっぱり見当がつかないからな。
途中、何人とも患者とすれ違ったが岡本は全員に「おはよう」と言う一言を必ず声をかけていた。なんか、すげーな。
「ここでいいかな」
休憩所とでも言うような場所に来た。適当な机に近づき、車イスが入れるようなスペースを作ってくれ、そこに俺を押してくれる。……なんか全部やってもらってむず痒くなってきた。
岡本は俺の向かいの席に座る。
「で、話とは?」
「ああ、君のお姉さんの事なんだけど」
「姉、ですか」
姉ちゃんがどうしたんだ?
「昨日一回目を覚ましたらしいね」
「はい」
「それで発狂したと」
発狂?発狂になるのかね。なんか叫んだだけだと思うが。……あぁ、それを発狂っていうのか。
「それはたぶん事故を起こしてしまったことを思い出してしまい、ああいう結果になったんだと思う。で、次に目を覚ました時は恐らく自分自身を責めてしまうだろう。また発狂するかもしれない。なんでかわかるかい?」
「俺のこの姿を見て」
「その通りだ」
昨日まったく同じようなことを看護師さんに言われたのでね。
「僕たちも精一杯のメンタルケアをする。でも、それだけじゃ足りないと思う。やっぱり君からのケアが一番効果的だと思うんだ」
確かに姉ちゃんのことだ。俺の姿を見ると絶対と断言できるほど自分を責めるだろう。
「君は家族の中で一番お姉さんと一緒にすごし、仲良しだったはずだ。お姉さんのことは君が一番知っていると思う」
あぁ、そうだ。自分でシスコンではないかと何回と疑った時もある。最終的にはシスコンでもいいだろうという開き直りの結論に至ったわけだが。
「このメンタルケアの件について任せてもいいか?」
「まあ、できる範囲でならお手伝いしますよ」
「ああ、助かるよ。さて、僕からの話はおしまいだ。君から何か質問はあるかい?」
「一つだけ。今日これからの予定とかは決まってるんですか?」
「ん、たぶん今週ぐらいは待機だね。義手義足が来たら本格なリハビリが始まるよ」
「わかりました」
「じゃあ、戻ろうか」
また、岡本医師は俺の車イスを押してくれ、そのまま部屋に戻った。