ショック
「ちょ、姉ちゃん!!」
精神が不安定なのか頭を抱えて叫んでいる。ひとまず落ち着かせねば。いくらこの部屋が俺と姉ちゃんだけだとはいえ、これはまずいだろ。
俺は枕元のナースコールを押し、ベッドから降りた。
「っ!!」
そうだ、俺には左足がないんだよ。今まであったものがないんだ、うまく立てるはずがない。床に倒れてしまう。匍匐前進の要領で姉ちゃんのベッドに近づき、右手を使いなんとかベッドに座り、抱きしめる要領で右手を姉ちゃんの背中に回す。姉ちゃんもそれに素直に身を任せてくれて俺の胸に顔をうずめる。
「真人、ごめんねぇぇ。ごめんねぇぇ」
「落ち着いて。深呼吸」
背中をさすっていると、看護師の人が少々急いだ面持ちでやってきた。
「ど、どうしました?」
俺は事情を説明する。説明するとわかってくれたらしく、姉ちゃんを落ち着かせるのを手伝ってくれた。さすがプロだな。こう、うまく説明できないがうまかった。
姉ちゃんが落ち着き、また寝たところで俺に
「たぶん事故を起こした時のショックが大きいようです。あと、真人君のその姿を見たときにまたショックを受けて、同じことをしてしまうかもしれません。でも、お姉さんの隣にいてあげてね。それが一番いい対処法だから」
と、説明してくれた。
その後、俺に肩を貸してくれ、ベッドに戻してくれた。意外と力あるんだな。いや、技術があるのか。
ってかさ、あの看護師さんももうちょっと他のいいことなかったのかね。俺の姿見てショック受けるとか。そりゃあ、俺も自分の姿見てショック受けたよ?でもさ、これが現実だしね。「まあ、しょうがないか?」みたいな感じで現実を見なきゃいけないからな。実際そんな簡単でもないし、軽くもないんだけどさ。
それにしてもな。俺はこれからどうしたらいいんだろうか。とか、考えていたら親と医師が帰ってきた。そして、岡本医師はさきほどと同じ場所に座り、俺の方を向いた。
「何を話してきたんですか?」
「ああ、君に義足と義手、そして義眼をつけようと思ってね。目はしょうがないとして、今まであった左手と左足が無くなってしまったらまともに生活などできないだろう?」
そりゃ、そうだ。左足の重要さをついさっき知ったばっかりだもんな。
「で、どうだ?」
「どうだ?とは」
「いや、つけるかつけないかだ」
「つけますよ。つい先ほどその重要さを知ったところなのでね」
「わかった。まあ、君に伝えるのはこれぐらいだけどな」
岡本医師は屈託のない笑顔をこちらに向けてくる。
「入院ってどれくらいかなんとなくでもいいので教えてくれませんか?」
「そうだな」
ちょいときつい質問だったかな?岡本医師が考えている。
「いろいろと検査もしたり、リハビリもあるからな。短くて2,3か月とかかな?まあ、半年まではいかないだろう。君がリハビリをサボらない限りね」
そう言い、言いたいことをすべて言い終わったのか立ち上がり、親と一言二言会話した後、部屋を出て行った。
「じゃあ、父さんたちも帰るぞ。必要な着替えはもうしまってある。これからも少しずつ持ってくるから」
ん、帰るのか。てっきり姉ちゃんのことでも気遣って泊まっていくのかと思った。
「それじゃあね」
そして、あっさりと帰って行った。
気が付いたら日が沈んでいる。どうやら俺が目覚めたのもけっこう遅かったみたいだな。昼とか思っていたが、見当違いみたいだ。
さて、夕飯まで横になってるとしますか。