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消失

 次は俺の番。自分でもそうわかっていたし、家族の笑顔を見るためにもリハビリを頑張ろうと考えていた。そう考えていたはずだった。だが、そんな考えがあったのも三週間も前の話である。

 姉ちゃんが退院してから、俺は部屋を移ることになった。普通の共同部屋である。そして、部屋を移ると同時に俺は考えとやる気を前の部屋に置いてきてしまったようだった。

 何をするにもやる気が出ない。といっても、生きるために必要な飯を食べたりなどはごく普通にする。それ以外に関するやる気がすべて無くなってしまった。リハビリもそうだ。義手・義足共に俺用のものがすでに病院にある。要するに、いつでもリハビリはできるし、リハビリが終われば退院だってできるのだ。それは頭の中ではわかっているつもりである。つもりなのだが、やる気が出ない。

 同じ病室には20代から30代ぐらいの人がおり、みなさんリハビリに精を出している。実際俺もやらなきゃいけないはずである。そんな俺を見て、岡本医師は手を焼いているようだ。迷惑をかけて申し訳ない。

 今日もベッドの上で横になって、イヤホンを耳に差し、好きな音楽を聞き、自分の世界に閉じこもる。

「真人くーん。入るよー」

 以前姉ちゃんとちょっとあった時に世話を焼いてくれた看護師さんと今年入ったばかりであろう新人さんと思われる看護師がやってきた。

「今朝決まったんだけどね、これから君の担当の看護師さんは私から、この子になりました」

「今日から担当になった原田です。よろしくね」

「…よろしくお願いします」

 軽く頭を下げる。我ながらぶっきらぼうでかわいくない患者だと思うね。

「どうよ、真人くん。歳の近い若くてかわいいお姉さんが担当になってくれて嬉しかろう?」

「別に」

「またまた照れちゃってー。かわいいんだからー」

 頭をわしわしされる。

 んじゃ、よろしくねー、といい元担当看護師は病室を出ていった。取り残される俺と原田さん。

「ええと、それじゃリハビリ行こうか?」

「え、ああ、…はい」

 無碍な笑顔を見て、断るのに罪悪感が生まれた俺は渋々ながらもリハビリへと向かった。


 お世辞にもリハビリは楽なものではない。サポートしてもらいながらでも、苦しいものである。ましてや、片手片足は自分のものではない。思ったように動かない体にイライラが溜まる。

 弱音と愚痴を何度も押し殺しながらリハビリを終え、病室に戻る。そして、再び自分の世界へ。

 原田さんが夕食を持ってきてくれた。しかし、不思議とお腹は減っておらず、ましてや食べる気にもならず、ほとんど手つかずでトレーを返す。こういう食事も一つ一つ確認され、朝と夕に行われる申し送りとやらで報告されるのだろう。自分の生活を観察されているようで、なんか嫌いである。

 音楽を聞きながら、スマホをいじる。そして、今日という一日も終わる。

 そんな中ふと考えてしまうことがある。なんで俺はここにいるんだろうか。生きている意味があるのだろうかと。

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