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二人の心

 病室にて姉ちゃんと二人。話すことが無く気まずい空気が流れている。

 医者、看護師さんの話を聞いたところ姉ちゃんはいつでも退院できるらしい。しかし、そう簡単に隊員はさせられない理由がある。精神の問題だ。

 身体が元気でも精神がズタボロでは意味がない。病院側でも手を尽くしているらしいが、あともう一押しが足りないらしい。そして、その一押しを俺に任せてきた。

 退院できるならはやくした方がいいだろう。だけど、俺は中々姉ちゃんにそのことを言い出せないでいた。そんなに緊張することでは無いはずなのだが、なぜか言い出せない。好きな子に告白する感じだ。正直な話告白などしたことないのだが。

「あのさ」

「ん、何?」

「姉ちゃんはこの事故の事どう思ってるの?」

 ついに口にしてみた。

「……」

 言いたくないのか口籠ってしまう。

「いや、言いたく」

「ごめんね」

 俺の言葉を遮って姉ちゃんが謝ってくる。なぜ謝る。姉ちゃんはこれっぽっちも悪くないはずだ。これは不慮の事故のはずだ。

「姉ちゃんは悪くないって」

「ううん、私が悪いの」

 俯いてしまった。

「真人をそんな体にさせてしまったのは、全部私の責任なの。本当は私の事責めているんでしょ?」

「そんなことないって」

「そんなことあるの! 心の中では私の事を恨んでいるんでしょう。姉ちゃんが免許を取らなかったら。あの日車に乗らなかったら。なんで姉ちゃんだけ無事なんだよ。どうせこんなこと思っているんでしょう!?」

「違う!」

 場所も考えずに叫んでしまった。この病室には俺と姉ちゃんしかいないとはいえここは病院だ。一度頭を冷やして再び話し始める。

「俺はそんなこと思っていない」

「嘘」

「嘘じゃないって」

 なるべく優しい声を出す。

「姉ちゃんは何もかも気負いすぎなんだ。俺さ、こんな姿になった時はさ嫌で嫌でたまらなかったけど、今じゃもう諦めもついたしさ、これからこの姿で生きていくことにも覚悟決めたし」

 嘘だ。まるっきり嘘ついている。諦めがついているわけがないじゃないか。この姿で生きていくことにも覚悟決めたわけでもない。すべてでたらめだ。今でもこんな姿は嫌だ。この姿で生きていくなんて考えられない。周りからはもしかしたら奇怪な目で見られるかもしれない。

「だからさ、俺のことは心配しないでいいよ」

 知らないうちに涙が零れ落ちていた。涙が止まらない。

「真人?」

「姉ちゃんが責任を感じる気持ちもわかるよ。でもさ、人の事とか考える前に自分の事を考えないと。姉ちゃんはもういつでも退院できるんだよ。俺の事は心配しないでいいからさとっとと彼氏でも作って幸せな家庭でも築いてよ」

 いつの間にか夢中になって話していた。自分でこの口を止めることはできなかった。

「正直さ、鬱陶しいんだよそういうの。過ぎたことなんだからいつまでも引きずってもしょうがないじゃん。自分の事だけ考えてればいいんだよ。心配してくれるのはありがたいけどさ、迷惑なんだよ」

 ひどいことを言っている。自覚あった。でもやっぱり止めることはできなかった。

「ごめんね、真人」

 姉ちゃんも泣いていた。俺はダメな弟だ。

「そういうのが迷惑なんだよ…!」

「ごめんね、ごめんね」

 俺は無言で車イスに乗り移り病室を出て行った。

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