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420話・新しい旅立ちと旧知の友

「わたしもいく!」

 瑞穂はリンゴの皮を向きながら戯言をほざいている友人――結城浅美を冷たい視線で見ていた。彼女の半身は現在大火傷であり、未だに包帯は取れていない。いや、取らせていない。

 この病院の魔法技術ならこの程度の火傷は直ぐに治癒が出来るだろう。だが、瑞穂は本人の意思を無視してそれを行わなかった。理由は一つ。

 この手の怪我は、大事でもない限り自然治癒に任せるのが一番だ。人間の体と言うものの治癒能力は非常に高く、強力な魔法など使わずとも薬を多少使うくらいでこのくらいのやけどは直ぐに戻る。

 時間は大体一ヶ月。魔法の自然治癒能力を限界まで上げた結果だ。だからだ、瑞穂は浅美に時間をかけて怪我を治す意味を教える。

「駄目だよ浅美さん。浅美さんはただでさえほっとくと勝手に暴れて怪我するんだから。一ヶ月、しっかり反省して。私はもう行くから」

「わたしも行く!」

「看護師さん、この人やかましいんですけどボールギャグと猿轡どっちが良いでしょうか」

「怪我人に対する対応じゃありませんよね、それ」

 看護師は呆れ気味に返す。瑞穂は切り分けたリンゴを皿に盛って浅美の横に置く。

「じゃ、行って来る。看護師さん、お願いします。前にも言ったとおり、この人が何を言い出しても再生魔法で治癒しないでください」

「はい、了解です。その辺りは医師と話し合って既に決定済みですので、ご安心を」

 看護師の言葉に満足そうに頷くと瑞穂は病院を出た。



 約一週間。瑞穂がティンを見失ってから大体そのくらいだろうか。

 瑞穂はある街角に一人で居た。兎にも角にも情報なのだが、問題はそこであった。

「一人で出て来たのは良いけど……どうやって情報を集めるかー……情報屋に手を回しても限界がある、か」

「氷結?」

 ぴくり、と瑞穂は声に引かれて振り向いた。そこには何と言うか、よく分からない格好だった。上着は着物の様な服装で、ズボンはジーンズと、洋風なのか和風なのか全く分からない服装の黒紫の女性が居た。

 瑞穂は、そんな女性に凄く見覚えと聞き覚えがあった。だが、しかし。

(データベースに検索、声チェック、容姿チェック。

 声、容姿共に一致する人物はなし、だがその成長後と言うくくりなら最も一致する人物が存在。でも……彼女は(・・・)此処に(・・・)いる筈が(・・・・)ない(・・)。ならば、どうして?)

「どうかしたのか?」

「……いや、別に」

 瑞穂は浮かんだ疑問を解決する為に目の前の女性が誰なのかを判別する為に、対話を選ぶ。

「それにしても久しぶりだな、氷結」

「うん、久しぶり。卒業以来だっけ」

「そう言えばそうだな。いやはや、学生時代はあれだけ付き添ったと言うのにいざ卒業してしまえば何の音沙汰もないというのは味気がなさ過ぎるな。互い連絡一つさえ交わさないとはな」

「ねえ、貴方」

 瑞穂は普通に対話を楽しもうとする彼女へ、彼女の頭に浮かんだ疑問を投げる。

「さっきから名乗らないけど、貴方誰」

「――おいおい、今更名乗る必要がある間柄か?」

「……ふむ、まあ確かに」

 瑞穂は彼女の言葉に一応の納得を見せる。何故ならば。

(彼女が、本当に彼女通りならね。自己紹介なんていらない)

「どうした、氷結?」

「いや、でも相変わらず名字呼びなんだ」

 声をかけられることによって思考の海から釣り上げられた瑞穂は一旦中断して適当に会話を続けることを選ぶ。

「それはそうだろう。この呼び名は学園時代からのものだしな。卒業したからといって変える理由にはならない」

「まあ、確かにね。そう言う所は変わっていないんだね。ところでさ」

 瑞穂は途中で話を断ち切る。何故ならば。

「貴方、私の記憶通りの人間なら――此処に居る筈が無いのだけど、何故此処に」

「それについて、今話す必要があるか?」

「少なくとも、話せないのなら貴方は私の知る貴方ではなく、全く別の人物と言うことになる。私の知る彼女なら、こんな回りくどい事はしないし、そもそも好まない筈。

 もう一度問う、貴方……誰?」

「では問いを返すが、果たしてお前の言う私は本当に私の事か? 全く別の人物を想像してはいないか? お前がこう問うと言うことは、確証がないと言うことなのだろう? つまり、私が本当に私なのか」

 その答えに対し、瑞穂は不思議と何処か満足げに呟く。

「その答え方をする人間なら、確かに私は一人しか知らないね」

 と切ってから。

「有栖」

 んじゃ、また。

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