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54話:冒険者の商売

「それでは私は此処で教会に向かいます。皆さん、お気をつけて」

 街に入ると同時、そう言って水穂は一行から離れて行く。

「じゃあ、私達は何処に行くの?」

「まず宝石を売ろう。荷物いっぱいに詰めたからね、これじゃあ何を買ってもバッグに入れられない」

 林檎は言って膨らんだバッグを指差す。本来なら異次元発生術式が仕込まれて中身は四次元空間となっており、一軒家丸々が収まる収納スペースを誇る筈なのだが、それが溢れるほどに黒曜石が詰められていると言う事なのだろう。

「随分入れたよね……黒曜石って幾らで売れるんだろう?」

「さあ? 宝石の相場は知らないし、こいつは魔宝石だから正直幾らかは分からない。でもいくらかでは売れるだろうし、黒曜石は魔力容量の高い宝石だ。こいつのアクセサリーは持ってるだけで魔力運用効率の上昇、魔法攻撃力の底上げ、魔法抵抗力の上がると言う。黒曜石自体も武器としては申し分ない性能だし、鍛冶屋でも装飾屋にでも持って行って加工してもらった方が良いかも知れない。

 で、瑞穂はどうしたら……」

 と、林檎は一向に説明している間に瑞穂は携帯を弄り回していた。林檎に話しを振られても瑞穂は気にせず携帯の操作を続けている。

「……おい、今お前何をしてる?」

 一心不乱と言わんばかりに携帯の操作をしている瑞穂に林檎は声をかけるが当の彼女はまだ携帯を弄り続け、やっと林檎の方へと振り向いた。

「ん、黒曜石の相場とか見てた。後最近のニュースとかね。兎に角此処のマップを見ようよ、アクセサリーショップの事が分かるかもしれない」

「あー、うん。まず真っ先にする事だな、うん。まあ、間違いじゃあ、無い」

 瑞穂の行動に対して林檎は理解はしたが納得しきれないと言った様子で頷いた。と放置してると瑞穂は聞き込みをして回っており、気付けばアクセサリーショップを探し出していた。

「……瑞穂さんって、行動的だよね」

「いや、まあ、うん」

「見た目は凄く大人しい割りに、やる事は過激と言うか強引だよな、あいつ」

「皆、如何したの? 行くよ」

 さっさとやる事を終わらせ、先に行こうとした所で誰も付いて来ていない事に気づいた瑞穂はそんな事を言いながら踵を返して戻ってくる。彼女の手早い行動に呆気を取られていた林檎達は諦めるように瑞穂の後に付いていく。

 そして瑞穂の後についていくと装飾店と言う看板で飾られた一軒家に辿り着いた。瑞穂はガラッと戸を開けて中を見ると素早く林檎達に道を譲る。

 何故? と思って店内を覗いてみると店主は男のようだった。林檎は苦い顔で瑞穂を見ると、当人は凄く涼しい顔で道を譲っている。林檎は諦めた様に溜息をつくと店の中に入っていく。

「ん、らっしゃい! 何の用だい? 宝石の売買にアクセサリー加工、一通りの事はやってるぜ。なんならそこの棚に俺の作品が置いてあるから見てってくれよ」

 と、店に入り込むなり店長と思わしき男性はそんな粋の良い声で林檎達を迎える。美奈は言われたとおり棚に飾ってあるネックレスや腕輪などに目を引かれていく。林檎はそんなものに目もくれずに店主を真っ直ぐ見て。

「此処は宝石の買取とかやってるのか?」

「おうともさ、そこにある宝石鑑定士の資格が示すとおり俺の目利きは都市間連合が証明してくれてんだ、どんなもんか見せてくんな」

 と言って男は親指で店に飾ってある宝石鑑定士の証明書を示す。林檎はちらりと見ると黒曜石を詰めた袋を取り出し。

「じゃあこいつを見てくれ。幾らで買い取る?」

「へっ、口じゃなくて目で示せってか? きっついねえ。どれどれ」

 林檎の冷たい対応に男は軽く調子を削がれた様子だが、林檎が取り出した袋の中身を取り出して舐めるように見る。

「こいつはオブシディアンか……それも魔宝石と……んッ!?」

「どうした?」

 石を一撮みして鑑定していた男は急に眼の色を変える。男の急な真剣な表情に林檎は少し身構える。流石に龍の遺体から入手した石だ。何処かに不備があってもおかしくは無いと林檎は考える。だが。

「おいおいおい……こいつは……こいつはよ!?」

「どうした、店主。もしかして、粗悪品だとか?」

「はあ!? 何言ってんだ、こいつぁ最高級の黒曜石の魔宝石じゃねえか!?」

 店主の言葉に一向全員が大いに反応する。正に、予想を超えた反応だった。

「この魔力純度、石の精製純度、如何見たって十年そこらで出来るもんじゃねえ、こいつは何億年も動物の腹か何かの中でじっくりと清々したような、間違えようも無く最高品質の魔宝石だぜ……あんたら、こんなの何処で?」

「え、えっと……て、帝都跡に生き物らしき死体があって、そこから採掘した奴だ」

 と、林檎はばつが悪そうに言った。何せ実際は龍に襲われ、そいつを倒し手に入れたとは口が裂けても言えない話だからだ。

 モンスターと呼ばれる化物さえ、出会うには宝くじの一等を当てるほどの幸運を必要とし、その際上級とも言える龍と出会いかったなど世の中が引っ繰り返るほどの大事件だ。むやみに喋ったら冒険者所ではなく、様々な所から龍との遭遇者及び勝者として引っ張りだこだろう。

 一行としてはまだ気ままな旅人で居たかった為、暫く黙っておく事にしたのである。

「ほええー、大昔の人間はデッカイ動物に宝石食わせて体内で精製させるって手法があるって聞いたが、実話だったとは……」

「いや、それは今如何でも良い。店主、それを買うなら幾らだ?」

「……一つ、20万」

「……は? 20万?」

 林檎も、刃燈も、アクセサリーに夢中になってた美奈でさえ、思考を停止して店主へと振り向いた。そしてもう一度問う。

「えっと、一つ、幾らだって?」

「20万en。それで最大三つまで買い取る。つっても、多分他に持っていけばもっと高い値で沢山買ってくれると思うぜ。あー、くそ。もっと売れてりゃ良いのになあ! やべえ、今の俺じゃ三つが限界だ。こいつでアクセサリーが作れりゃ最高だって言うのによ、くそっ!」

 と、店主は顔を覆って背後のカウンターに寄りかかる。林檎は突きつけられた事実を漸く飲み込んで。

「え、えっと、じゃあ」

「じゃあその大きな宝石店って何処?」

 と、そこで店内にだけは決して入ろうとし無かった瑞穂がやっと入って来た。

「ん、ああ地図持ってるかい?」

「いや」

「じゃあちょっくら待ってくれ」

 そう言って店主は店の奥に入って来ると直ぐに出て来た。手には地図が握られている。

「此処が最寄の大きな宝石店だな。此処に行くといいぜ」

「分かった。じゃあ行こう」

 林檎は店主に場所を指し示してもらうと林檎はそのまま踵を返すが。

「ん、おい地図持ってかねえのかい?」

「いいのか? 確かに持ってないから丁度いいが」

「おう、面倒代とでも思ってくれ」

 そう言って店主は林檎に地図を手渡すと店の奥に引きこもった。ちなみに瑞穂は既に逃げている。



 林檎達は地図の案内に従い、一つの大きな宝石店へとやって来ていた。大きな百貨店と言う雰囲気だ。どうやらこの店の一階から二階までが宝石店らしい。

「此処、か」

「大きいねー」

「一先ず、入ろう」

 そう言って刃燈が、そして美奈と林檎、瑞穂と続いて店内に入っていく。

「いらっしゃいませ」

 店に入ってくるや否や、まずは初老の男性が応対する。

「どんなものを御所望でしょうか?」

「……ぁ」

 瑞穂はぱっと、男が目の色を変えたことに気が付いた。周囲はそれを気にせず、林檎が黒曜石を一つ取り出す。

「こいつを見て欲しい。幾らで買い取る?」

「ほう、これは……」

 そう言って男は一瞬、本当に僅かの間だけ目の色を変えた。誰も気付く事無く、直後には鼻で笑うと。

「安物ですな。そこらのガラス製品と変わりない、所詮は冒険者か。この程度の物を嬉々として持ってくるとは」

「な、何っ!?」

「どうしても買い取れと言うのなら……まあ、一つ2000と言う所ですね。まあ、曲がりなりにも黒曜石の魔宝石、この辺りが妥当でしょう」

「おい、待て」

 男の言葉に林檎は自然と言い返していた。

「鑑定士に見せたら、相当な値打ちモノと言っていたが?」

「ほほう、それは良かったですね。恐らくそやつは詐欺師か何かの類だ。鑑定士を名乗ってこれは高いものだと追い返したのでしょう」

「……お前」

「嫌なら他へ持って行くと良いでしょう。尤も、こんな安物を買ってくれる宝石店などこの辺りに此処だけでしょうが」

 嫌味たっぷり、人を下す視線を男は林檎達に叩き付ける。林檎は一歩下がって小声でメンバーに。

「おい、どうする?」

「止めよう、如何考えても客に対する態度じゃない。他に宝石店はあるだろうし」

「いや、もし本当に安物だったら結局此処に戻って来るようなことにも」

「じゃあ、それで良いから買い取って」

 と、林檎が相談してると瑞穂は美奈を盾にしてそう名乗り出ていた。

「……は?」

「此処に100個入った袋が10個ある。これ全部一つ2000enで換金して」

 と、美奈はバッグから小と書かれた袋を10個取り出して近くのショーケースの上に並べていく。発言自体はその背後にいる瑞穂がしている。

「ほ、ほう。良いでしょう、少しお待ち下さい」

「あ、おい」

 林檎が声を絞り出すが呼び出された店員達が袋を持っていく。男はその後について店の奥に消えていく。林檎は怒り心頭に瑞穂の肩を掴み取る。

「おい瑞穂、貴様どういうつもりだ」

「いや? 邪魔だから売るだけだけど」

「貴様、ふざけてるのか!?」

「別に」

 瑞穂の何時もどおりの冷徹な対応に林檎の精神は逆撫でされ、とうとう胸倉に掴みかかるが。

「お待たせ致しました。合計で200万enです」

「美奈さん」

「え、あ、うん」

 男がお金を持って戻って来ると瑞穂の指示を受けて美奈が受け取る。

「じゃ、行こうか」

「って、おい瑞穂!?」

 瑞穂は美奈がお金を受け取ったのを確認すると林檎の手を払い、踵を返して出口に向かう。続いて林檎に美奈、刃燈と続いていく。外へ出ると瑞穂は更に迷う事のない足取りに林檎は慌てて呼び止める。

「だから瑞穂! 何処に行くんだお前は!?」

「ん、さっきの装飾屋」

 そう言って迷いも無く瑞穂はさっきの装飾屋へと歩いていく。その店に辿り着くと瑞穂はがらっと扉を開け、一歩入ると美奈を呼び寄せて彼女を盾にして奥に入っていく。

 ちなみに美奈が逆らわないのは一応、彼女の方が年上だからである。美奈18歳、瑞穂19歳。と言うのは半分冗談で半分事実だが、もう半分と言うか一番は瑞穂の強引さを身に染みて理解して諦めているからである。

「あいよ、どうしたんだい?」

「……はあ、いや。店主、ちょっと聞いて欲しい」

 と、林檎は先程の宝石店で起きた事を店主に解説する。黒曜石が偽物あつかいされたことにそれでも売り払ってきた事を。それを聞いた店主は。

「なるほどな……そいつは災難だったな」

「で、店主これについて如何思う?」

「俺の目に狂いはねえし、簡単に否定されちゃ俺が徹夜してやっと手に入れた鑑定士の証まで否定されるってことだからな、正直ただ事じゃねえのは分かってるが……そういや、最近どっかの宝石店じゃ冒険者に詐欺紛いの商売をしている宝石店があるって聞いた事があるな」

「それは本当か?」

「おう。最近来たお客が言ってたんだけどな、冒険者が持って来た値打ちもんを難癖つけて安く買い取り、その後それを掘り出し物と謳って高値で売りつけるってやり方らしい。何度か冒険者が訴えたんだがな、所詮相手は無職にも近い冒険者だろ? 逆に営業妨害だと訴えられるし、買い取った物によく似た安物を見せて騎士警察を納得させて追い返すらしい」

 それを聞いて一行全員が絶句する。確かに有効な手立てだがそれ以上に卑怯するやり方に林檎は怒りに体を震わせ。

「あの店、いっそ燃やしてくれようか」

「駄目だよ林檎ちゃん、そんなことしても犯罪者あつかいにされるだけだよ。私達の正体を明かして」

「いや駄目だよ、それで勝てたとして私達の冒険は多分終わると思うよ」

「……やっぱり、そうだよね」

「ねえ。さっき見せた宝石一つでどんなアクセサリーが出来る?」

 と瑞穂は美奈越しに店主にそう問いかける。

「ん? ああ、物に余るが大体あれ一個でアクセサリー一つってとこだな」

「じゃあ指輪とネックレスとカチューシャを二つずつ、髪飾りを一つ、腕輪と頭飾りを一つお願いできる?」

「……黒曜石の、か?」

「うん。出来るでしょ? 出来れば耳に穴を開けないタイプのピアスを……此処にいる全員分お願いできる?」

 店主は口元に手を当てて少し黙ると。

「黒曜石12個、2000enを置いていきな。一週間で拵える」

「じゃあ美奈さん」

「……うん」

 美奈は何かをいい加減に言おうかと思ったが、無駄だろうと思って止めてバッグから黒曜石を12個と1000enの札を二枚置く。

「じゃあこれで」

「あいよ、最高の仕事してやっから楽しみにしてな!」

 瑞穂はそんな言葉を背にして外に出る。外には水穂が丁度こちらに向かって歩いてきた。

「ああっ、皆さん! 宝石は如何しました!?」

「司祭か。宝石か? ……ええっと、実は、その」

 水穂は瑞穂達の下に駆け寄ると、林檎が苦い顔で応対する。

「まさか、売ってしまったんですか!? 何処にですか!?」

「えっと、此処から最寄の、大きな宝石店に、瑞穂が」

 林檎は責めるような視線を瑞穂に送ると、水穂の視線が瑞穂へと向く。

「で、司祭。何があった?」

「実は……巡礼仲間の司祭から聞いたのですが、此処の街にある宝石店では詐欺紛いの商売をしているものがあるそうでして」

 と、先ほど聞いたばかりの内容を聞かされた瑞穂達は手早く言った。

「それ、今さっき聞いた」

「……えと、で、瑞穂さん。それで、宝石の方は」

「売ったよ。騙されてるのは最初から知ってたから別にどうでもいい」

「……へ?」

 一行全員がぽかんと、口をあけて呆然としていた。林檎がようやっと。

「おい、待て瑞穂。説明しろ」

「説明? 何の?」

「いや、おい、騙されてる上で売ったって」

「ああ、それ? 言ったじゃない、邪魔だから売ったって」

 瑞穂は何が言いたいんだと言わんばかりに返す。

「邪魔って、向こうは」

「林檎、一つ聞くけどさ。冒険者にとって重要なのは何?」

「は、え、重要なもの? えっと、資金か?」

「じゃあ林檎は普通通貨が使えない国に餓死寸前で行ったら死ぬね。お金が大事なら」

 すまし顔で返す瑞穂の言葉に林檎は一瞬むっとするが、はっとして。

「まさか、食料か?」

「そうだよ。荷物いっぱいにお金や金銀財宝を詰めたって、それは全部食料や生活用品や武具に換える為に溜めてる物であり、使い潰すもの。私達は商人ではなく、単なる冒険者だよ? 埋まった荷物に空きを作る為にも、安くても良いから売る。寧ろ安値でも大量に買い取ってくれるなら何だっていいんだ」

「……なるほど、つまり瑞穂さんなりの冒険者としての商売観に沿って売ったと言うことですか?」

「そんな大層なもんじゃないよ。冒険者としてどっちが利益が出るかって考えただけ」

 瑞穂はそう言い切ると今度は地図を見始める。

「何をお探しで?」

「ホテルとお店各種。宝石はもっと売りたいと思うし、一部は武具に変えた方が効率が良い」

「ああ、ではノルメイア商店へ行くと良いでしょう。あそこなら宝石も高値で沢山買い取ってくれると思いますよ。確かこの街にもあったかと」

「ああ、あるね。じゃあ此処に行こう」

 瑞穂は地図と睨めっこすると顔を見上げて地図を畳み始める。

ノルメイアって聞いたことがあるって?

そりゃ有名な武器屋さんですから〜ではまた次回。

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