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422話:超越を謳う、月夜と反逆の物語

 氷結瑞穂には親友と呼べる人間が二人(、、)いる。

 一人は親友と言う言葉を教えてくれた、火憐。そして、もう一人は――。

 時は新暦1998年11月某日某時間。その日は雪が降っており、初雪となっていた。瑞穂と有栖は廊下を歩いていた。有栖はマフラーにジャージ、タイツと言う出で立ちであるのに体中が寒そうに震え上がっている。

 対する瑞穂は普通の冬服の制服を羽織って有栖の後ろを歩く。

「ううっ……寒ぅっ……! 本当に今日は寒いなあ。雪降ってるし」

「そう、だね……」

 瑞穂は暗い表情で外を見つめる。外を見るとまだ雪が降っている。

「……どうした、氷結」

「私、さ。お気に入りのマフラーが、あるんだ」

 ぽつりと、だがはっきりと瑞穂は呟いた。有栖は白い息を吐き、かちかちと葉鳴らしながら喋った。

「ほ、ほう、そそれはいいな。で、なな何で付けないんだ」

「……私達姉妹はね、肌が弱いんだ。冬になると手がかさかさになるんだ。だから、二人で一緒のクリームを塗るんだ。

 冬は好きだった。

 お気に入りのマフラーを出して、首に巻いて、ミトンを付けて寒い寒い言いながら外に出る。妹はいつも嫌だって言うのに人に雪玉を投げつけてきて、しょうがないから付き合うんだ。それで飽きたら姉妹で雪だるま作り。妹の友人も呼んで、皆でわいわい騒ぎながら雪だるまを作るんだ。

 違和感に気付いたのは、14歳の冬だった。

 妹が寒いと言うまで寒さを感じなくなった。そこから全部がおかしくなり始めたんだ――その次の年には肌が荒れなくなった。妹とお揃いのクリームを買いに行こうと言われたとき、私の手はいつもと変わらなかった。次の年には妹に雪玉を投げつけられるまで寒いと言う感覚が分からなかった。雪が降っているのに何故か寒いと思えずに外に出ると先に出ていた妹に雪玉を当てられて、初めて寒いと思った。

 そして今年は……何も感じない」

 気づけば、瑞穂は目から雫が零れていた。

「ねえ、有栖。これ何なの? 私、寒さを感じないよ。寒いって思わないよ。妹も、最近私の体が冷たいって言う。こんなんじゃ、こんなんじゃ……っ!」

「氷結……」

「こんなんじゃ、化物だよ……っ! 魔法使いになるって、こう言う事なの? こんな、化物になることが」

「氷結」

 気づけば、有栖は瑞穂の前に立って右手にボールペンを握っていた。

「問おう。化物とは、何だ? 一体何を持って化物とする? 人と違うことか? 手足が4本以上あることか? 皆、化物と言うものは血の色が違うと言う。で、あるなら私の血の色はなんだろうな。青か、緑か、紫か」

「あ、りす?」

「私の持つボールペンはな、護身用に魔力を抜いたものだ。故に人を殺そうと思えば出来なくもないが、まあ、血を見るには容易い道具だ」

 有栖は言って、ボールペンの尻を押してペン先を露出させ、その先端部分を自分の指先に向ける。

「有栖、何を」

「さて、私は魔法使いだ。お前の言う、化け物だ。ならば、私の血の色は何色かな?」

 言って。有栖は躊躇無く逆手で握ったボールペンを振り上げて自分の掌を突き刺し、皮膚を貫いた。更に皮膚の穴を広げるようにボールペンをぐりぐりと動かし、有栖は苦悶に満ちた表情を見せる。

「あ、有栖何してるの!?」

「見ろ」

 瑞穂が一歩寄ると有栖は掌を突き出す。そこにあったのは。

「これが、私の血だ。どうだ? 青いか? 緑か?」

「……赤い、血」

 真っ赤な血が、指先から痛々しく流れている。それは間違えようも無く命の水であった。それが彼女の掌の上からから零れて下へと滴り落ちる。

 更に有栖は瑞穂の手を取りそのボールペンの先を瑞穂の手にに向ける。

「さて、お前の血の色は如何だ?」

「有、栖?」

「化物なのだろう? では血の色は何だ? 青か? 紫か? 緑か?」

 有栖はボールペンをくるりと回すと瑞穂の掌にすっと突き刺し、思わず瑞穂は目を閉じた。

「見てみろ、氷結」

 有栖の柔らかい声に誘われて目を開く。そこにあったものといえば。

「何だ、立派な赤い血じゃないか」

「……うん」

 引き抜かれたボールペンの先から瑞穂の赤い血が光っていた。

「分かったか、氷結。お前も私も、化け物などと言う存在じゃない」

「……うん」

 傷の痛みか、それとも別の何かか。瑞穂の瞳から涙が零れていた。でも、その涙の理由は変わっていた。

「我々魔法使いは決して化物などではない。ただ、人とは違った力を持っているだけだ。それを忘れるな、お前は決して一人じゃない。うぅ、寒い。こんな事していては授業に遅れる、さっさと行くぞ」

「うん……!」

 瑞穂はぽろぽろ涙を流してこくんこくんと頷いた。

 この時、この瞬間。正にこの時、瑞穂が魔法使いとして向き合って生きていくと決めた瞬間である。

 ――氷結瑞穂の親友は二人居る。親友の言葉を教えた火憐と、その言葉に意味を入れた彼女。久城有栖。彼女こそ、瑞穂のもう一人の守るべき親友である。



 タマムコガネシティ中央魔法研究所。某月某日、ある一室で髪が伸びきっていて目にくまをためた女性がパソコンに向かってキーボードを打ち込んで画面を見つめている。酷く眠たげではあるが、その瞼が落ちる様子は微塵も見受けられない。

 そんな彼女に向かって白衣を着た老人が一人歩み寄る。

「有栖君」

「何ですか、所長」

 有栖と呼ばれた人物は振り返る事も無く己の上司、それも最上級の存在に対して無視する様に作業を続行する。

 一見無礼に見えるが、此処ではこれが常識だ。此処の所属研究員は皆が自分の研究をしたくて仕方が無い人達しか居ないのだ。故、彼女に限らず誰もがこの様な対応を行う。寧ろ所長などに挨拶されて一々顔を向けて頭を下げるなど新入所員くらいなものだ。

「先日は新人賞おめでとう。いやぁ、君の様な優秀な人間がこの研究所に来てくれて嬉しいよ。姫になるのも、夢ではないかも知れないね」

「はあ」

 所長は楽しそうに話を続けるが有栖の頭の半分近くが目の前の研究に割り引いている。故に相手は所長ではあるが話半分にしか聞いていない。それはそれで問題しかないだろうが、それが此処の当たり前なのだ。

「それはそうと、話が少し変わるのだが構わないかね」

「ええ」

「君。漆黒の氷姫、氷結瑞穂と言う女性を知っているかね?」

 ぴたり、と有栖の指が止まる。その名には聞き覚えがある以上の物があるからだ。有栖はキィと音を立てて椅子を回して所長へと眠たげな目を向ける。

「……学生時代までの、元が付くかと思いますが友人です」

「それで、だ。最近の姫連合の話を知ってるかね?」

「噂だけなら。しかし、あんなの現実味が無さ過ぎるので正直眉唾物です」

 彼女と所長の言う噂と言うのは、言わば革命だ。

 分かり易く言ってしまえば、現状の支配構造の逆転だ。すなわち、魔法の使えない者達による非魔法文明が表立つ様な今の状況を改竄し、魔法文明を表立たせると言うものだ。正に、ある意味の世界征服計画といっても良いだろう。それをこの世界の政界にも影響力を持つ集団が行おうと言うのだ。

 しかし、この噂には色々不審な点がある。

 そもそも、何故こんな噂が流れる? 事実として、こんな噂がただの冒険者達に流れているということ自体が既におかしい。魔法社会にとって最大の敵とは何かといえば、無論武術者達だ。魔法とは言っても実態は学問に通ずる所が多く、屈強な武術を操る者達には互いに互いが天敵としあう仲だ。そんな革命が実行されれば、その敵となるのは間違いなく戦士系の人間達だ。

 更に加えればもう一つ。

 で、実際のところその方法とは一体何か。噂だけが流れているものの、その形が一向に見えないのだ。どの様に、どんな手段でこの世界構造を入れ替えると言うのか。具体的な案が全く見えず、噂だけが横行する中、久城有栖からすればどうでもいい噂話の一言に終わる。

「そう思うだろう?」

「実は違う、と言うのですか?」

「勿論だとも。この話は事実だよ」

「……ほう。では、どの様な感じに?」

「それについては私も知らぬ。それほどの極秘情報なのだよ。しかし、それは真実だと言う情報のみを持っている」

 所長はそう言うと一度言葉を切る。そこに挟みこむように有栖は口を開く。

「それで、何故私と氷結の友人であるか否かを問うのですか?」

「君は我が研究所の現状を考えて見たことはあるかね?」

 ああ、と有栖は妙な納得がいった。簡単だ、この研究所は此処1、2世紀ほど姫を輩出していない。つまりそれがどう言う意味を示すのかと言えば。

「今、我々は姫連合や貴公子同盟との関係性は薄い。つまるところ」

「その革命とやら実現すれば、この研究所は切られる……と言う事ですか。そこで氷結、漆黒の氷姫と友人であった私ですか。彼女にこの研究所を姫連合に進言して貰えるように」

「そう言うことだ。どうだね?」

「構いませんよ」

 有栖の返事は至って淡々としていて、はっきりと断言していた。

「ですが、問題が色々ありますよ。彼女はまず、そう言う事を気にする人物ではありません。言っても、一瞬で切られると思いますよ」

「問題ないさ。彼女は友人を大事にする人物だと聞く、ならば(、、、)君の(、、)命が(、、)かかって(、、、、)いたと(、、、)したら(、、、)?」

「……は? どう言う事ですか」

 所長は有栖の肩を掴むとそっと顔を寄せる。

「要するに、君の後の処遇を彼女の意見次第でどうとなる、と言う事だよ」

「ちなみに、主な処遇は?」

「一部の貴族が若い女研究者を欲しがっていてね。そこへ再就職の手引きをしよう。何、相手は少々(、、)とある(、、、)女性へ(、、、)手が早い(、、、、)と言う噂を持つだけだ、何も問題は無い」

「……ああ、そう言う人間。才女のみ手を出したがる連中と。それで、最低ランクだと?」

「前人未踏の土地へ送る、と言うことも出来るが、如何かね?」

 有栖はその言葉に眠たげな瞳でやれやれと首を振った。

「大丈夫だ、この話が上手く行けば君にはそれ相応の報酬を用意しよう。まず、君には長期休暇と資金を与えよう。流石にその姿で外を出歩くことはあれだからな」

「分かりました」

 有栖はそう言って頭をかいて椅子から立ち上がる。



 そして、今に至る。

 事実を知った氷結瑞穂は冷静に考えた。つまり、彼女は自分を利用したと言うことを。それを十二分に理解して、言い切った。

「おい――オマエ」

 狂おしく、激しく、一途で切なくなるほどに思いつめた、怒りと憎悪を一言につめて彼女は相手を蹴り飛ばして言った。

「オマエ、誰を足蹴にしている……ッ!」

 そう、オマエが踏み付けて傷つけたそいつは。

「私の親友を何勝手に踏み付けているオマエ……! 潰すぞっ……!」

 そう、搾り出すように瑞穂は吼えていた。男は直ぐに立ち上がると服にこびり付いた砂ぼこりを払う。

「……親友、ねえ。あんた、その下種を許すってのか?」

「許すも何も」

 瑞穂は言葉を切り、獅子や虎が威嚇する様な波動を見せ付けて。

「友人って、そう言うものだろ」

「――っ!?」

 はたして、その言葉に最も衝撃を受けたのは他の誰でもない、久城有栖本人だ。何故ならば。

「友情の定義なんて、それこそ人それぞれだ。利用し利用し合うだけでも人によっては友情だ。ようは、本人が納得すればいいんだ」

「そ、れは……っ!」

 その言葉を有栖は深く知っている。知っていて当然だ、その言葉をまるで自分の言葉のように知っていた。いや、自分の(、、、)言葉(、、)なのだ(、、、)。それを思い出さされた。何故ならその言葉を言ったのは、久城有栖本人だ。

 かつて、学生時代によく口にした言葉だ。友人からノートを貸して欲しいと頼まれた時などによく言っていた。それこそ何時も。どうしてこんな昔の言葉を。

「覚えて、いたのか?」

「覚えているよ。忘れたの有栖? 私、忘れる事が(、、、、、)出来ない(、、、、)んだよ(、、、)

「へえ、何か盛り上がってるところ悪いがね。氷姫さん、あんたそいつを庇うって言うのかよ?」

 男はポケットに両手を突っ込みながら瑞穂に問う。

「悪い?」

「いやね、悪いかって言うと悪いわな。一応、俺もあんたを連れて来いって命令が研究所から出てんだよ。正直、乗り気はしないんだがな。

 だってよ、漆黒の氷姫って調べりゃ調べるほど男嫌いで学生時代は何人か定額どころか退学にまで追い込んだらしいじゃねえか。そんな女、どうやって口説けって言うんだよって話だよ」

「男嫌いじゃなくて、男性恐怖症なんだけど」

「男怖いが男蹴り飛ばせるかよ」

 そう言って白衣の男は溜息をこぼした。

「まあ、そんなこんなでうちには女研究員なんていねえし、なんつー無茶振りだと思って出て来たんだよ。一応、漆黒の氷姫以外にも姫は居るしよ。でもな」

 一度言葉を切ると、さっきまでのゆるい空気が一変し男は鋭い視線を有栖へと向ける。

「こっちにゃ確かに姫とのパイプもねえし、向こうがそれを利用しようってのも別に良いのさ。だがな……利用して良いものと悪いものってのがあるだろうが……ッ!」

「……それが、オマエの言い分か」

「そうだよ。その女は許せねえ。友情を利用しようなんて腐れた思考如何考えてもありえねえし許せねえ。

 ああ、だから言わせて貰うか。

 あんたがそいつの味方をしようと一向にかまわねえ。どっちにしろ、姫を連れて来いって言われてんだ、それがボコって誘拐したもんだろうと、別に差異は無いだろ。てーことだ、そいつ寄越してオサらばするか、それとも二人ともボコられるか」

 言った直後、瑞穂から冷たく鋭い殺気が、研ぎ上げられた氷の刃の如く男に向けられる。

「そいつが答えかい」

「言っただろう」

 瑞穂は自身の体内魔力に溶け込んだメイスを握り拳の中に具現化させる。体の表面をたゆたっていた氷の魔力が彼女の纏うオーラとして動きを見せ始める。

「オマエは――叩き潰す」

 戦闘の構えを見せ付けて、瑞穂は全てを――それこそ時さえ凍て付かせる様な氷の魔力を噴出させる。

『理不尽持って、世界は停止する』

「甘ぇよ」

 瑞穂の言葉によって理不尽と世界の一部は凍りついた――と同時、凍った世界は解けて砕け散った。その現象瑞穂は僅かに眉を顰める。

 対する男の手にはナイフが一本。しかし、幾つものナイフが宙に浮いて男の周囲を囲んでおり、その動きは統率姓を持って男の周りを回っている。

「俺の属性は火だ。研究内容は物質の空中操作って奴さ。熱気による空気制御で此処までのことが出来るのさ」

「時間凍結を解除したか」

「何驚いてんだよ。そもそも時間凍結の術式自体発見されたのは最近だが、その情報は全世界へと既に発表済みなんだぜ? 対策なんざとっくに出来てるよ。あんた、魔法嫌いの情報もマジとはな。世間知らずにも程があんだろ」

 男は更に手荷物ナイフの本数を増やす。有栖はよろけながら必死に立ち上がりながら友人を見る。

「ひょ、氷結……!」

「――おい、聞こえる?」

 対する瑞穂は静かにこぼした。言葉を向けた先は一体何処か。その先は、自分の心の中だ。そこには、自分の子供とも分身とも兄弟とも呼べる存在が住んでいる。

 ――ほいほーい。

(例の術式、使える?)

 ――どうしたん? 劣勢って訳でもないのに。

(やつは、徹底的に叩き潰す)

 ――了解。相当に切れてるね。

 瑞穂はあえて、もう一度時間停止に拘る事を選択する。そう、世界を騙す究極の時間停止。

 ――じゃ、試作品の試運転と行こうか!

「で、覚悟は良いかい?」

 浮遊するナイフが三桁を越えた辺りでその全てが瑞穂へと向けられ、一部が瑞穂の側へとセットされる。対する彼女は――。

「始めるか」

 ――謳おう、反逆と超越の楽曲!

「やろうか、貴方の……超越と反逆の物語を」

 メイスを構えなおし、彼女は詠唱の構えを取る。それ見た男は即座にナイフを動かすが瑞穂から冷気の波動が周囲のナイフを弾き飛ばす。

「な、に?」

 魔力が鼓動し、急な魔力運動によって鳴動が響く。時空にさえ干渉する魔力の冷気があふれ出す。そして続くは。

《世界は幅広く、永久を持ってしても見えぬ。深遠なる英知こそが、変わらず》

 精霊から思念として流れて来る詠唱文を読み上げていく。魔力を練り込む様に、思いを紡ぐ様に。

《かの空に浮かぶ永遠の月を掲げ、今こそこの荒野の果て駆け抜けよう》

 詠唱と共に描いていく魔法陣は円系の形が多く、まるでそれは月のようであり。

《どうか聞いて欲しい。かの美麗な月の如く、貴方はあの高みへと登ってくれと》

 そう、まさにそれは満ちて欠けていく月の円環。その術式の中央に描かれていくは、まるで時計のようで。

《その輝きを見上げ、今此処に祈らせて欲しい》

 術式の半分が構築されていき、徐々に世界までもがその氷に引きずられるように動きがゆっくりとなる。そして、二人が願う世界を此処に告げる。

《時よ、凍れ。その輝きは何よりも美しいから》

 ミズホが味わいつくしたあの地獄を、全てが凍った世界を。故に願うのだ、全てが凍った世界を。

「何だ、こい、つは……なん、で……止め、られ、な、い……?」

 男はこの冷気を前にして何も出来ない。いや、しようにも何も(、、)行えない(、、、、)のだ。時間も空間も凍結していく術式を前に何も出来ない。彼は自身を加熱し、体を動かそうとするが、魔力とは違う別のもの――そう、言うなれば神威とでも呼ぶべきものが男を縛る。

《永遠の月に願う、かの者を高みへと導いて――》

 紡がれる詠唱、その最後の一説を唱え終えると瑞穂は右手で顔を覆い、完成した術式が起動を初め。

起動(awaken)解放(liberation)――!」

 瑞穂の背後に氷霊ミズホが現れ、吹雪を纏って別世界、居次元の場所へとその存在をずらし――。

「超越を詠え――」

 そう、これは彼女に送る超越の物語。せめて貴方は永遠となって欲しいと願った、物語。その名は。

「月と反逆の物語!」

 人の世を支配する神の座へと辿り着いた偽神が万象凍結の法を全世界へと響かせていく。

 じゃ、またねー。

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