(5)彼の母からの手紙
しかし、そこに雄一の文字はなく、封筒に書かれた筆跡と同じ文字があり、こう記してあった。
『ごぶさたしております。長期に渡る海外出張、お疲れさまでした。
お元気でお過ごしでしょうか。
雄一の母、ゆり子でございます』
「―――ッ!?」
理花は呼吸ことを忘れた。そして心臓すら止まったかのように思えた。
気を失ってしまえたら、少しは楽になれたかもしれない―――ほんの一瞬ではあるだろうが。
このままばったりと倒れてしまいたいのに、ショックがあまりに大きすぎて全身が硬直したまま止まってしまった。
今の理花は、まるで彫刻になってしまったかのように動けない。
人間はあまりに大きな衝撃を受けると、悲鳴すら上げられないという。
ただ、ただ、呆然とするだけ。
まばたき一つもできやしない……。
この短い文章だけで理花の心を打ちのめすには充分だった。
頭の上から冷水をバケツごと浴びせられたようでもあり、硬く重たい何かで突然後ろから思い切り殴られたようでもあり。
例えようのない衝撃が理花の全身を襲う。
―――な……んで?なんで、雄一からの手紙にお母さんの手紙が入ってるの?
理花の頭の中が真っ白になった。
目の前は真っ暗になった。
―――どうして……?どうして、雄一の手紙に続きがないの?
再び便箋を持つ理花の手が震え出す。
その震えは先ほどのものとは比べ物にならない。指先だけではなく、肩も、足も、がたがたと震える。 あまりの震えに、カチカチと歯が当たって音を立てるほどに。
背筋に冷たい汗が流れ落ち、額には嫌な汗がじっとりと浮かんできた。
手紙を持つ指先が痛いくらいに冷たくなり、自分でも分かるほど、顔から血の気が引いてゆく。
「どうして……?」
理花は手紙に向かって問いかけた。もちろん、答えが返ってくるはずもない。
カサッ。
ガサガサッ……。
部屋の中には、手紙の震える音だけが響く。
―――どうして?
グルグルと理花の頭の中が渦を巻く。
―――どうして?!
大きな手に心臓がわしづかみにされ、そのまま握りつぶされてしまいそうだった。
―――どうして、どうしてっ?!
この部屋だけ空気がなくなってしまったと思えるほど、理花は息苦しくてたまらなかった。
―――ま……さか?!
視線をほんの少し下にずらして、手紙の次の行を見た。
そしてそこには、一番知りたくなかった真実があった。