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ブルースターズ  作者: 彩坂初雪
第二章
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スーツの女と三題話

 それから、映画を観に行く日まで、目立ったことはなかった。毎日のように綾は朝からうちのクラスに来ていたが、それだけだ。入れとは言われてるが、強引な感じではないし。綾も俺の過去を知っている分、少しは遠慮しているのかもしれない。

「よーっす」

 当日、案外時間に厳しい綾に合わせて集合十五分前に駅前へ行った。

 晴天ではなかったが、雨は降っていないし、出かけるにはちょうど良い天気だった。俺らのほかにも電車を待っている人達の姿が結構ある。牧町には休日遊べるような場所がほとんどないため、電車で遠出する人が多いのだ。

「久しぶり。だいたい二十時間ぶりってところかな?」

「まあな」

 しかし、それは久しぶりではないだろう?

「でも、違う意味で久しぶりだよね」

「ん? 違う意味?」

「最近、あたし達こうやって学校以外で会うことなかったじゃん」

「あー、そりゃそうかも」

 そう言われてみれば、と、綾を見る。

 私服を見るのは久しぶりだった。深紅と黒のチェックのスカートに、前開きの真っ黒のパーカー。飾りベルトも付けられていて、どこかワイルドな雰囲気だった。全体的に温和な顔立ちの綾には少し似合わないかなとも思ったが、押しの強い性格を考えるとこれはこれでありかもしれない。

「牛は?」

 いつも肩に乗っている牛が今日はいない。

 ま、わざわざ休みの日まで持ち出すものでもないか。

「いるよ?」

「は? どこに?」

「ここ」

 綾が指差した部分、パーカーのポケットを見ると、そこには頭と前足だけピョコっと出した牛が居る。その姿が妙に愛らしい。

「……ホントいつでも一緒だな」

「そりゃね。寝る時も一緒だもん」

 寝る時、か。ずいぶんと羨ましい……じゃなくて、可愛がられてるな。

「それで、その文芸部の友達とやらは?」

「まだみたい。でもきっちりしてる子だからそろそろ来るんじゃない?」

「ふ~ん。性格はどんな感じ?」

「えーっと、唐辛子とチョコレートとマンゴーを足して三で割った感じかな?」

 どんな感じだよおい。甘いのと辛いのにマンゴー追加してどうすんだ。どう考えたって面白い方向にしか行かない気がするんだが。

「こんにちは」

 綾の解読不能な説明に頭を悩ませていると背後から声をかけられた。振り向くと――

「初めまして。(とも)()(れい)です」

 できる女性がそこに居た。

「あの、零。その格好は……?」

「何か変ですか?」

 無表情に言うその女性は、鋭い目つきに黒縁の眼鏡。タイトスカートに……というかどう見たってスーツだ。さらさらのショートヘアーがそれにまたよく似合っている。

 どうも、この人が文芸部の子、らしいのだが、なんだろう? このやるせなさは。『唐辛子とチョコレートとマンゴーを足して三で割った感じ』という表現がしっくり来てしまうこの微妙な脱力感は。

「変っていうかなんていうか……」

 綾もこれは予想してなかったようで、頭を抱えている。

 いや、別に変なわけではない。逆に、非の打ち所がないほど完璧だ。

 自分達と同じ年齢なのを除けば。

「あの、こちらの方は?」

 と、二人で戸惑ってると朋野零と名乗った彼女は俺の方を見てきた。

 おっと。あまりのインパクトで調子が狂ったが、名乗られたのだからこちらも自己紹介しなければ。

「初めまして。椎歌勝史です。よろしく」

「……………………………………笑える」

「は?」

 しばらく返答がないと思ったら、今「笑える」と聞こえたような……。

 朋野さんの顔を覗き込んでみるが、変わった様子はない。聞き間違いか?

「と、とにかく、この子が文芸部の友達の朋野零。あたしとクラスも一緒だよ。見て分かるように、彼女、たまに奇妙なことするけど基本的には真面目でしっかりしてる。作品に対して一切、手を抜かない人だから、勝史とは話が合うかもね」

 気を取り直して説明してくれた綾に感謝。

 ま、これじゃあ確かに奇妙なことをするかもな。

 真面目だけど、天然ってとこかな?

「あ、それよりそろそろ時間だ。行こう」

 時計を確認すると、あと数分で電車が出る時間だ。これを逃すとあと一時間待たなきゃいけなくなる。牧町の交通の便の悪さは折り紙つきだ。

「そうだな。続きは電車の中で」


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