牛の女とライバル関係
『文芸部に入部しない?』
そう彼女からメールが送られてきた時、俺はピンときた。
これは、嵐になるぞ、と。
ブブブ……ブブブ……ブブブ……
さっきから俺の携帯はひっきりなしに振動し続けている。
ほらな? 彼女はいつもこうなのだ。何か事あるごとに過剰な言動をしてみせる。それが彼女の良いところでもあるのだが、何年も付き合ってると疲れてくる。
「いい加減にしろよ……」
送られてくる内容はほぼ統一されていた。
『文芸部に入らないか』
という、勧誘メールだ。俺は断じて入部する気はない。ユン○ルとコーヒーをブレンドして飲むというくらいない。マ○ドナルドの定員さんに「スマイルを一つ下さい」というくらいない。
ブブブ……ブブブ……ブブブ……ブブブ……
しかし、いつになっても止む気配がない。諦めて携帯を開くとその数四十六件。勘弁してくれ……。
確かに俺は彼女と同じく小説家を目指す身ではある。本に対する情熱は誰にも負けないつもりだし、先日、ついに千冊読破を達成した。もちろん、ライトノベルではあるが。しかし、部活となると話は別だ。お互いを高められるという点においては認めるが、個人的にどうも団体で何かをするというのが嫌いなのだ。苦手と言い直しても良い。
だいたい、文章を書くなんていうのは完全に個人作業だし、部活に入ったからといって何かが大きく変わるとは到底思えない。
プルルル……
今度は電話がきた。いくら送っても返事がないから痺れを切らしたのだろう。
ため息をつきつつ、しょうがなく出ると、
「文芸部に入部しない?」
メールと同じことを言われた。プチッと切って机の上に置――
プルルル……
諦める気はないらしい。
「なんだよ?」
「入部しない?」
「いつまで言ってんだ。もう入部期間過ぎただろ? それに、何回も断ってるはずだ」
「期間なんて関係ないでしょ? 入部はいつでもできるし」
「だとしても、入る気ないんだって」
「え~」
「いや、え~じゃなくて。そんな駄々こねられても入らないぞ」
「……む~」
「唸ってもダメ」
「……モー」
「牛のマネしても意味ないから……切るぞ!」
やれやれと、今度こそ机の上に携帯を置く。
彼女の名は天空綾。
小学校の頃からの幼馴染で、家も近い。昔はよく遊んだものだが、最近は勉強が忙しくてそんな暇はない。
時刻はもう午前零時を過ぎている。少しは時刻を考えて欲しいところだ。
「さて、と」
俺はカタカタとノートパソコンを操作する。
「小説大賞……は、無理だよなぁ」
いろいろな文庫の小説大賞の結果をチェックしているが、どこも倍率が半端ではない。約五千作品の応募を記録している文庫があるが、単純計算で大賞だけを狙うなら、五千倍。中学三年生の時に経験した受験なんて比較にならない数字だ。
それから、文庫によっては審査員の評が出ている文庫あるため、それもチェックする。
「…………」
カチカチ。
なんとなく、自信がなくなったのでパソコンの電源を落とす。
自分の書いている小説が通用するとは思えない評だった。
小説に賭ける気持ちなら誰にも負けない、なんて思っちゃいるが、それとは全く別の問題として小説大賞で入賞することの難しさを確認する毎日である。
「ま、それより今は綾をどうあしらうかが問題だよな」
明日、いや正確には今日だが、また綾に責め立てられるかと思うと憂鬱だ。
ベッドに倒れこみ、どうあしらおうか考えているうちに俺は夢の世界へと落ちていった。