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ブルースターズ  作者: 彩坂初雪
第三章
13/23

花と遊びの二人組み(2)

「え? 刺繍?」

 本売り場から少し離れたベンチに移動し、三人で座る。

「そう。一応、これでも手芸部の部長も務めてるし、評判なの」

 ユウナ先輩がバッグからトランプを出して準備している間、花波さんがある提案をしてきた。俺の制服に刺繍をしても良いかと。

「ほら、私とユウナの制服にもしてあるでしょう?」

 言われて、初めて気が付いた。花波さんとユウナ先輩の制服の胸ポケット。ちょうど胸ポケットから花が顔を出す形で刺繍がしてあった。

「刺繍してもらえるのは光栄ですけど、裁縫道具とかは……」

「それは大丈夫。常時持ち歩いてから」

「時間がかかるんじゃ……」

「慣れてるから一、二時間あれば大丈夫よ」

 花波さんは既に針に糸を通してやる気満々。

 これはお言葉に甘えておくべきだろう。

「じゃ、お願いします」

 制服を脱いで渡す。

 それから、もう一度花波さんとユウナ先輩の制服にしてある刺繍に目をやる。と、一つ不思議に思うことがある。

「あれ? お二人の制服にしてある刺繍、違うみたいですけど……」

「うん。一人一人、違う花を刺繍してあげてるから」

「そうなんですか。何か理由でも?」

「花言葉を考えてその人に合う花を刺繍してるの」

 なるほど。花言葉、ね…………ん?

「え、でも今みたいにその場で刺繍する時なんかは困らないんですか?」

「困るって?」

「花言葉ってたくさんあるじゃないですか」

「大丈夫よ。かなりの数覚えてるもの」

「かなりって、どのくらいですか?」

「だいたい百から二百くらいかしら?」

 百から二百って、そもそも、そんなに花の名前言えないぞ? どれだけ覚えているんだよこの人……。

「ちなみに、花波さんの花はなんですか?」

「紅花よ。花言葉は、愛する、几帳面、包容力、夢中とかよ」

 あ、すげえ。ぴったりだな。

「それって自分で決めて刺繍したんですか?」

「そんなわけないでしょう。それじゃあ自分は包容力ありますよ、って自己主張してるみたいじゃない。ユウナがそう言ってくれたの」

 何も考えてなさそうなユウナ先輩が?

 案外人を見る目はあるのかな? それともいつも一緒にいる花波さんのことだから分かったのか? 

 ま、なんでもいいけど。合ってるのには変わりないことだし。

「じゃあ、ユウナ先輩のは?」

「ヒヤシンス。結構有名な花だから聞いたことくらいはあるんじゃない?」

「はい。確か、青とか、紫とか、いろんな色がある花ですよね?」

「そう。花言葉は、遊戯、運動、勝負とかかしら。三月から四月くらいに咲く花だから今の時期だと、探せば見つかるかもしれないわね」

 これも、ピッタリだ。

 いきなり遊ぼうとか言ってきたし、なんとなくユウナ先輩っぽい。

「しかし、よくそんなピッタリの花を見つけられますね」

「別に大したことじゃないわよ。多少の量覚えてしまえば簡単に見つかるから」

 こういう人ってすごいよな……。

 物凄く大したことしてるのに、涼しい顔してそつなくこなす。本人達はそれが普通になっているから気付かないんだろうけど、俺達からすると憧れの的になる。

 綾が、尊敬するのも頷けるかな。

「花波お姉様」

 ぽつり。ユウナ先輩が両手でトランプを握り締めたまま、泣きそうな顔で呟いた。

 あ、花波さんとの会話で時間使い過ぎたか。

「……っ!」

 童顔ツインテールの上目遣いは脅威だな。小動物みたいで抱きしめたくなる。

断じて、ロリコンなどではないが。

「あ、ごめんユウナ。私は縫ってるから二人で遊んでて」

「うん!」

「分かりました」

 かくして、ユウナ先輩とのトランプが始まった。


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