花と遊びの二人組み(2)
「え? 刺繍?」
本売り場から少し離れたベンチに移動し、三人で座る。
「そう。一応、これでも手芸部の部長も務めてるし、評判なの」
ユウナ先輩がバッグからトランプを出して準備している間、花波さんがある提案をしてきた。俺の制服に刺繍をしても良いかと。
「ほら、私とユウナの制服にもしてあるでしょう?」
言われて、初めて気が付いた。花波さんとユウナ先輩の制服の胸ポケット。ちょうど胸ポケットから花が顔を出す形で刺繍がしてあった。
「刺繍してもらえるのは光栄ですけど、裁縫道具とかは……」
「それは大丈夫。常時持ち歩いてから」
「時間がかかるんじゃ……」
「慣れてるから一、二時間あれば大丈夫よ」
花波さんは既に針に糸を通してやる気満々。
これはお言葉に甘えておくべきだろう。
「じゃ、お願いします」
制服を脱いで渡す。
それから、もう一度花波さんとユウナ先輩の制服にしてある刺繍に目をやる。と、一つ不思議に思うことがある。
「あれ? お二人の制服にしてある刺繍、違うみたいですけど……」
「うん。一人一人、違う花を刺繍してあげてるから」
「そうなんですか。何か理由でも?」
「花言葉を考えてその人に合う花を刺繍してるの」
なるほど。花言葉、ね…………ん?
「え、でも今みたいにその場で刺繍する時なんかは困らないんですか?」
「困るって?」
「花言葉ってたくさんあるじゃないですか」
「大丈夫よ。かなりの数覚えてるもの」
「かなりって、どのくらいですか?」
「だいたい百から二百くらいかしら?」
百から二百って、そもそも、そんなに花の名前言えないぞ? どれだけ覚えているんだよこの人……。
「ちなみに、花波さんの花はなんですか?」
「紅花よ。花言葉は、愛する、几帳面、包容力、夢中とかよ」
あ、すげえ。ぴったりだな。
「それって自分で決めて刺繍したんですか?」
「そんなわけないでしょう。それじゃあ自分は包容力ありますよ、って自己主張してるみたいじゃない。ユウナがそう言ってくれたの」
何も考えてなさそうなユウナ先輩が?
案外人を見る目はあるのかな? それともいつも一緒にいる花波さんのことだから分かったのか?
ま、なんでもいいけど。合ってるのには変わりないことだし。
「じゃあ、ユウナ先輩のは?」
「ヒヤシンス。結構有名な花だから聞いたことくらいはあるんじゃない?」
「はい。確か、青とか、紫とか、いろんな色がある花ですよね?」
「そう。花言葉は、遊戯、運動、勝負とかかしら。三月から四月くらいに咲く花だから今の時期だと、探せば見つかるかもしれないわね」
これも、ピッタリだ。
いきなり遊ぼうとか言ってきたし、なんとなくユウナ先輩っぽい。
「しかし、よくそんなピッタリの花を見つけられますね」
「別に大したことじゃないわよ。多少の量覚えてしまえば簡単に見つかるから」
こういう人ってすごいよな……。
物凄く大したことしてるのに、涼しい顔してそつなくこなす。本人達はそれが普通になっているから気付かないんだろうけど、俺達からすると憧れの的になる。
綾が、尊敬するのも頷けるかな。
「花波お姉様」
ぽつり。ユウナ先輩が両手でトランプを握り締めたまま、泣きそうな顔で呟いた。
あ、花波さんとの会話で時間使い過ぎたか。
「……っ!」
童顔ツインテールの上目遣いは脅威だな。小動物みたいで抱きしめたくなる。
断じて、ロリコンなどではないが。
「あ、ごめんユウナ。私は縫ってるから二人で遊んでて」
「うん!」
「分かりました」
かくして、ユウナ先輩とのトランプが始まった。




