透明人間は侯爵令嬢
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透明人間の侯爵令嬢
侯爵家の血を引く者として、私は幼い頃から自分が特別な存在であることを知っていた。
母が亡くなったのは私が七歳の時。侯爵家の直系である母を失い、父は伯爵家の出自に過ぎないため、私はこの屋敷で次第に「特別すぎる存在」となっていった。
十歳の誕生日の一週間後、父が再婚した。
新しい義母は美しく優しげな女性で、連れてきたのは九歳の娘、エミリアだった。父は彼女を「私の実の娘」と紹介したが、屋敷の誰もが知っていた。父が伯爵家の三男坊として侯爵家に婿入りしたのは、血統を保つためだけの政略結婚だった。母が他界した今、父の中で実の子と呼べるのは、侯爵の血を引かないエミリアだけなのだろう。
その日から、私は透明人間になった。
朝食の席には私の椅子がなくなった。昼食はトレイに載せられて私の部屋に運ばれるようになった。夕食も同様だ。
父はエミリアに新しいドレスを買い与え、彼女のピアノのレッスンに付き添い、彼女の話に笑いかける。
私の居場所だったはずの父の隣にはエミリアと義母がいる。
私は二階の窓からそれを眺めるだけだった。
屋敷の使用人たちも変わった。
以前は「お嬢様」と丁寧に話しかけてくれた執事やメイドたちが、今では視線を合わせようともしない。
廊下ですれ違っても、まるで空気を通り過ぎるかのように無視される。
私が話しかけても、彼らは「侯爵様のご指示で」とだけ呟き、去っていく。
無視と言うのは私をわたしと言う人間が存在しない透明人間にさせる。
家庭教師もピアノの先生もエミリアの担当になったらしく私の所には来ない。
ただ一人、メイドのアンだけが違った。
アンは母がまだ生きていた頃から屋敷に仕えている中年のメイドで、母のことを「お姫様のように美しい方でした」と懐かしそうに語る人だった。
今では他のメイドたちと同じく私の世話係ではないが、夜になるとこっそり私の部屋を訪れ、温かいミルクとビスケットを持ってきてくれた。
「お嬢様、お寒くありませんか」
ある冬の夜、アンは暖炉に薪をくべながら小声で言った。
「父上はなぜ、私を無視するのですか?」
私は絨毯の上に座り、膝を抱えて尋ねた。
アンは一瞬言葉を詰まらせ、深いため息をついた。
「侯爵家の血を引くお嬢様は、十二歳になると学園に入られます。あそこは侯爵家直系の子女だけが入れる特別な場所。お父様は…伯爵家の出ですから、あの学園には縁がありません。エミリア様も入れません」
「それで?」
「お父様は、お嬢様が学園に行かれる日が来るのが怖いのでしょう。侯爵家の世界に完全に引き取られて、二度と戻ってこなくなるのが」
アンは私の前に跪き、優しく私の手を握った。
「でも、お嬢様。あなたは透明人間なんかじゃありません。この屋敷で一番輝くべきお方です。ただ、みんなその輝きに目がくらんで、まともに見ることができないだけです」
その言葉に、私は初めて泣いた。母が亡くなって以来、初めて涙を流した。
それからも日々は変わらなかった。
父と義母とエミリアは居間で笑い合い、私は部屋で一人食事をとる。だがアンの言葉は私の中で小さな炎のように燃え続けた。
私は母の書斎にこっそり入り、彼女が残した書物を読み始めた。侯爵家の歴史、紋章学、宮廷のしきたり、外国語。母は膨大な蔵書を残していた。私はそれらを貪るように読み、学び始めた。家庭教師から学んだ知識を活かして更なる知識を学ぶ時間は私を透明人間から10歳の私になる事ができた。
時折、父が書斎の前を通りかかると、中でページをめくる音が聞こえるらしく、足を止めることがあった。だが彼は決して扉を開けようとはしなかった。
二年の歳月が流れた。
私が十二歳の誕生日を迎える一週間前、屋敷に厳格な身なりの老紳士が訪れた。侯爵家の執事長、ロジャースだった。
「エレノア・マリー・フォン・ハーケン侯爵令嬢」
彼は私の前に深々と頭を下げた。
「ご入学の準備が整いました。明日、学園へお連れ致します」
その夜、父が私の部屋を訪れた。彼が私の部屋に来るのは、母の葬儀以来初めてだった。今更何の用だろう?母を裏切り愛人との間に子供まで。
「エレノア」
父は戸口に立ち、私を見つめた。彼の目には、私が長い間見たことのない感情が浮かんでいた。悲しみ、後悔、そして誇り?愛情は感じられない。私を透明人間にした男。名前を呼ばれたのは何年ぶりだろう?もう覚えていない。
「学園では…侯爵家の令嬢として振る舞いなさい。君の母は、君が立派な女性になることを願っていた」
「父上は?」
私は静かに尋ねた。
「父上は、私がどうなることを願っていますか?」
父は長い間黙っていた。そして、かすれた声で言った。
「幸せになることを」
次の朝、私はわずかな荷物と母の残した数冊の本を持って、ロジャースの待つ馬車に向かった。屋敷の門を出る時、振り返ると、二階の窓に三人の影が見えた。父と義母、そしてエミリアだった。
エミリアが小さく手を振っているように見えた。
話したこともないエミリアと義母。
父が幸せになることを望んでいるとは思えない。この二年幸せだった事は本を読んでいる時間だけだったから。
学ぶことが幸せって思うけど、そこに話しかけているのに無視されるのは心を殺せる最大の刃物だと思う。そこにいるのに居ない私。
馬車が動き出し、屋敷が遠ざかっていく。私は窓辺に寄り、これから始まる新たな人生を見つめた。
透明人間だったあの日々は終わった。侯爵家の血を引く者として、私は今、自分の居場所へと向かっている。
アンがこっそり私の手に握らせた小さな包みを開くと、中には母の形見のブローチと、一枚の手紙が入っていた。
「お嬢様、どうかご立派に。そして、どうかお父様をお許しください。彼もまた、自分の居場所を探すのに苦しんでいたのですから」
私はブローチを胸に留め、これから出会う学園での日々を想像した。
もはや透明人間ではない。
アンのように父親を許す事は今の私ではできない。
私はエレノア・マリー・フォン・ハーケン。侯爵家の令嬢として、自分の物語を歩み始めるのだ。
学園は全寮制で四年間過ごす場所になる。
部屋は個室でメイドは各部屋に専属メイドが配置される。
各家から連れてくることは禁止されている。
昔、気に食わないメイドに命じて毒をもった令嬢がいたらしく、全て王家のメイド。次期王妃候補の育成も兼ねてると歴史書に書いてあった。
私の部屋は二階の角部屋だった。
家具はシンプルな茶系で整っている。
広さは侯爵家の私の部屋と同じくらい。
メイドの名前はキャサリン、男爵家の次女で二年間王宮で学んだ事を一人で実践する期間のようで、学園での評価が王宮で昇進がかかってると言う。元気のいいおしゃべりなキャサリン。私はこのキャサリンが気に入った。
食事は一階の食堂で時間が決まっているようだ。
軽食は頼めば部屋で食べられる。
お茶会も申請すれば開くことができる。
学園の冊子を読みながらキャサリンに聞いてみた。
「入浴場って何?」
異世界の方が広めた大勢が入れるお風呂らしい。
ズキンと頭が痛い。
胸がドキンドキンとなり立ってられず膝をついてしまった。
キャサリンが慌てて抱き起こしてくれてソファーに座らせてくれた。
飲み物を用意してくれて侍医を呼びに行こうとするので昨日から興奮して寝不足だと話すと安心してくれた。
今日は早めに寝ましょうと言って食事は部屋で取る事になった。
次の日早くに目が覚めたのでキャサリンにメモを残して庭園を散歩をする事にした。
私の寮の少し離れた場所に大勢の男子が素振りをしていた。
母が亡くなってからはお茶会にも参加していなかったので見知った人は居なかった。
アレ、あの人足を庇ってない?
気になって見ていると大人の男性が話し掛けてきた。
「何か気になっることがありますか?」
足を庇っているように見えることを話すと昨日乗馬で落馬しかけた時にひねったのかもねと男子の所に言って抱き上げ、木陰に座らせて足の様子見ていた。
酷くはなかったらしく見学になったようだ。
素振りを見ているとやってみたいと言う衝動に動かされ見学している男子の木刀を借りて振ってみる。
楽しい。懐かしい。また頭が痛くなり走馬灯の様に頭の中に前世の記憶が蘇る。
私、剣道部だった。
叔父の道場に幼い頃から通っていた。
大会で優勝したこともある。
弟がふたりいて仲が良かった。
三人で素振りをやってた、
弟の名前も私の名前も思い出せない。
顔も思い出せない。
なのに記憶はある。
「大丈夫?」
不意に話し掛けられた、見学していた男子だ。
大丈夫だと答え素振りを再開した。
前世はよくやっていたのに筋力がないため10回も出来なかった。
見学していた男子は去年入学した辺境伯の三男でギルバート。
男子は毎日素振りをすること。
馬を一頭与えられ世話をする。
魔法を二つ以上覚えること。
ダンジョンでレベルを上げること。
知らなかった事を次々と教えてもらいワクワクが止まらない。
あと、入学式の時に洗礼式がありスキルが貰えるらしくスキルの数は多いほど良いようだ。
ちなみにギルバートは三個もらったと教えてくれた。
スキルの内容は秘密だと。
学園は把握しているようだ。
家族にも内緒なんだと。
ここでは私は透明人間ではない。
入学式は三日後なので楽しみで仕方ない。
入学式、寮で仲良くなった侯爵家のエリザベート。
私を含めて五人が新入生。
入学式が終わり洗礼式が始まった。
神像がある部屋でおこなわれる洗礼式は像の足元の水晶におでこをくっつけるというもので、水晶が光るとかは無いと聞いていたのにヘッドライトの光のようだ。
スキルを獲得しましたと頭の中に声が聞こえてくる。
ステータスと唱えると。
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