第8話:波乱の合同授業と、自称「光の貴公子」
カサンドラ教官が放った一言が、学園に激震を走らせた。 「補修クラスのアルト・ウォーカー君。君の『特異な魔力特性』をサンプルとするため、今日から特Aクラスの授業に体験参加してもらうわ」
それが彼女の個人的な執着……アルトの魔力に当てられて「デレ」に突き落とされた結果であることは、件の一件を見ていた二人の生徒を除いて誰も知らない。
「……というわけで、アルト君。君の席は私の教卓のすぐ隣、ここよ」 「えっ、先生、近すぎない? 教科書も見えないよ」 「いいの。私が耳元で全部教えてあげるから……ふふっ」
頬を赤らめ、吐息混じりに囁くカサンドラ。 その光景に、特Aクラスの教室内には「殺意」と「羨望」が渦巻いた。
「(……あの女教官、完全に箍が外れたわね)」 「(アルトくん、あんな女に丸め込まれちゃダメだよ……!)」
リナとエレオノーラが、最前列でペンを折りそうな勢いで睨みつける中、一人の男子生徒が立ち上がった。 輝くような金髪をかき上げ、制服をこれ見よがしに着崩した青年――騎士爵出身で、自称『光の貴公子』こと、シグルド・フォン・ライオットである。
「カサンドラ教官、異議があります! そのような薄汚れた補修生が、我ら選ばれし特Aクラスの神聖なる教室に足を踏み入れるなど、侮辱も甚だしい!」 「あら、シグルド君。何か文句があるのかしら?」 「当然です! 彼は先の試験で、マトモな術式すら描けなかった無能。……おい、アルトと言ったか。貴様のようなゴミは、リナさんやエレオノーラ様の視界に入る資格すらない。身の程を弁え、這いつくばって去るがいい!」
シグルドの取り巻きたちが「そうだそうだ!」「補修生は帰れ!」と野次を飛ばす。 アルトは困ったように眉を下げた。
「ええと……。確かに僕、テスト12点だったし。やっぱり迷惑だよね、リナ」 「アルトくん、そんなことないよ! 迷惑なのは、今うるさく吠えてる金髪のほう!」 「左様ですわ! シグルド、貴方のような有象無象が、アルト様の深淵なる知恵を測ろうなどと、片腹痛いですわ!」
ヒロイン二人の辛辣すぎる一撃に、シグルドの顔が引き攣る。 「なっ……リナさん! エレオノーラ様! 騙されてはいけません。彼はただのペテン師だ。……いいだろう、ならば実力で分からせてやる。次の『魔力出力演習』で、どちらがこの教室に相応しいか、決闘といこうじゃないか!」
シグルドはそう言って、アルトの足元に手袋を投げつけた。 アルトはそれを拾い上げ、不思議そうに首を傾げる。
「……これ、落としたよ? あと、決闘とかよくわかんないけど、魔力のお勉強なら教えてほしいな」
「(……やはり賢者様。あえて『教えてほしい』と下手に出ることで、相手の増長を誘い、絶望の淵に叩き落とすおつもりですのね!)」 エレオノーラの勘違いは、今日も絶好調だった。




