第7話:カサンドラ墜(堕)つ!
「……ふふ、どうしたのアルト君? そんなに赤くなって。お姉さんにドキドキしちゃったかしら?」
研究室のソファ。カサンドラは、アルトの至近距離で潤んだ瞳を向け、勝ち誇ったように微笑んでいた。通気口から覗く二人(リナ&エレオノーラ)の殺気を感じながら、彼女はさらなる「トドメ」を刺そうと指先でアルトの顎をクイと持ち上げる。
だが、そこでアルトの表情が変わった。 いつもの「へにゃっ」とした脱力感が消え、スッと焦点が合う。
「……先生。さっきから無理して笑ってますよね?」 「え……?」
アルトが、カサンドラの手首を優しく、だが力強く掴んだ。 そのまま彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、一歩、彼女のパーソナルスペースに踏み込む。
「この術式、先生が一人で書き換えたんですか? ……これ、使うたびに先生の魔力経路に負担がかかって、熱が出てたはずです。……今も、すごく熱いですよ」
アルトの手が、カサンドラの額にそっと触れた。 その瞬間、カサンドラの思考が真っ白に染まる。
「っ……あ、これは……研究の、過程で……っ」 「ダメですよ、先生。……自分を大事にできない人に、教え子の才能なんて守れないって、じいちゃんが言ってました」
アルトは真剣な顔で、カサンドラの額に当てた手のひらに、一瞬だけ光を灯した。 極小規模、かつ神速の『魔力経路修復術式』。カサンドラが長年悩んでいた魔力過負荷による慢性的な痛みが、嘘のように消えていく。
それと同時にえもいわれない快感が全身をつらぬく。
「……はい、もう大丈夫。先生の魔力、すごく綺麗なんだから、もっと大切にしてください。……ね?」
そう言って、アルトはいつもの「へにゃっ」とした笑顔に戻り、手を離した。
「あ、ケーキごちそうさまでした! 美味しかったです。……リナたちも外で待ってるみたいだし、僕、そろそろ帰りますね!」
嵐のように去っていくアルト。 後に残されたのは、顔を真っ赤にし、心臓の音をバクバクと鳴らしながら、自分の額を両手で押さえてへたり込むカサンドラだった。
「……な、なにあれ……。あんなの、聞いてないわよ……っ」
彼女の「大人の余裕」は完全に粉砕された。 今や彼女の脳内は、アルトの真剣な眼差しと、触れられた場所の熱さで支配されている。
「アルト君……アルト君、アルト君……っ。……ああもう、どうしよう。私、明日からどんな顔して彼に教えればいいのよ……!」
「何、何が起きたの今?」顔を赤らめながら聞くリナ
「わ、私もわかりませんわ」と動揺しながら答えるエレオノーラ
しかしこれだけは二人とも同時に思った。 「((……カサンドラ先生が、完・全・に、落ちた……!!))」




