第6話:潜入! カサンドラの魔窟(研究室)
結局、カサンドラの「幻の極上ショートケーキがあるわよ」という甘い誘惑に勝てなかったアルトは、二人の静止も聞かずに研究室へと吸い込まれていった。
「……信じられない。アルトくん、あんなあからさまな誘惑(実はケーキにつられただけ)にあっさり付いていくなんて……!」 研究室の重厚な扉の前で、リナが拳を握りしめて震えている。
「落ち着きなさい、リナさん。アルト様はきっと、敵の本拠地に乗り込んでその喉元を抑えに行ったのですわ……! ですが、あのカサンドラ先生のこと、アルト様の純潔が危ういですわ。……ここは、共同戦線といきましょう」
エレオノーラが真剣な面持ちで提案する。リナは少しだけためらったが、扉の向こうから「あ、先生、そこ……っ、くすぐったいですよぉ」というアルトの間抜けた声が聞こえてきた瞬間、表情を凍らせた。
「……わかった。エレオノーラさん。……アルトくんを、取り戻そう」
初めて名前を呼ばれたエレオノーラが、一瞬だけ目を見開く。だがすぐに不敵な笑みを浮かべ、家宝の魔導杖を構えた。
「ええ。――いきますわよ!」
二人は隠密魔法(リナの「気配遮断」とエレオノーラの「光学迷彩」の合体技)を使い、研究室の通気口から中を覗き込む。
そこには、予想外の光景が広がっていた。
「……あら、ここをこう書き換えるだけで、術式の循環効率が四百%も上がるの? アルト君、あなた本当に……っ」 「あはは、だから、そこを繋ぐとポカポカするって言ったじゃないですか」
カサンドラがアルトのすぐ隣に座り、アルトが適当に描いたメモを見て、頬を紅潮させて興奮していた。……いや、興奮しすぎて、アルトの腕を自分の胸元に抱きしめるような形になっている。
「(あ、あの女……教育指導のフリをして、物理的に密着していますわ……!)」 「(……アルトくんの腕が、あのバインバインに埋まってる。……許せない。絶対に許さない)」
リナの背後から黒いオーラが立ち昇る。 その時、カサンドラがふと、通気口の方に視線を向けた。
「……あら? 可愛い子猫ちゃんたちが覗いてるわね。いいわ、せっかくだから見せつけてあげましょうか。大人の『教育』ってものをね」
カサンドラはわざとらしくアルトの耳元に唇を寄せた。
「ねえ、アルト君。ケーキ、お口に付いてるわよ。……取ってあげましょうか?」
「「ギギギギ……ッ!!!」」
通気口の網が、リナとエレオノーラの握力でひしゃげた。




