第4話:ランチタイムの聖戦
学園生活初日。
午前中の講義(アルトにとっては呪文のような子守唄)が終わり、待望の昼休みがやってきた。 アルトが「ふぅ、やっとお昼だ……」と席を立った瞬間、左右から凄まじい風圧が押し寄せた。
「アルトくん、今日はお弁当作ってきたよ! はい、あーん」 右からは、特Aクラスから駆けつけた幼馴染のリナ。彼女の手には、少し形は不揃いだが愛情たっぷりの、パンの耳を再利用したフレンチトースト風サンドイッチ。
「待ちなさい! 賢者様……ゴホン、アルト様にそのような質素な食事、相応しくありませんわ! わたくしが用意させた、王宮御用達のフルコースを召し上がれ!」 左からは、入学初日にして「風紀委員長」の座を(半ば強引に)手に入れたエレオノーラ。風紀委員長の特権を乱用して他クラスに乱入してきた。
「……リナ、これ、昨日余ったパンの耳? 美味しいそう!」 「でしょ? アルトくんの好きなハチミツ、いっぱいかけておいたから」 「なっ……ハチミツ!? そのような安価な糖分ではなく、こちらの最高級ドラゴンの涙(※超希少なシロップ)を……!」
エレオノーラが割り込もうとするが、アルトはすでにリナのサンドイッチを頬張っていた。
「んむ……美味しい。やっぱりリナの料理は落ち着くなぁ」 「えへへ、よかった……」 「(くっ……敗北感……。いえ、これも賢者様の『庶民に擬態する修行』の一環ですの!? あえて粗食を口にすることで、精神を研ぎ澄ませていらっしゃる……なんてストイックなんですの!)」
エレオノーラは一人で感動し、手帳に『賢者様はハチミツを好まれる(※おそらく高純度エネルギーの隠語)』と書き込む。
「アルト様! ならば、せめてお飲み物だけでも、この魔力回復効果のある聖水茶を――」 「あ、それなら蛇口の水でいいよ。あそこの水、冷たくて美味しいんだ」 「蛇口の水!? 大地の恵みをダイレクトに……。聖水すら不純物として切り捨てるというのですか……っ!」
もはやエレオノーラの脳内では、アルトのあらゆる行動が「神の領域」に変換されていた。 そんな彼女を、リナはジト目で睨みつける。
「……ねえ。アルトくんが困ってるから、あっち行ってくれる? 縦ロールがパンに刺さりそうなんだけど」 「なんですって!? これはわたくしの家系の誇りですわ! それに、わたくしはアルト様の正体を……」 「正体? アルトくんは、私のアルトくんだよ。……それ以上、変な名前で呼ばないで」
二人の間にバチバチと火花が飛び交う様が見えるようだ。 アルトはそんな二人の火花に気づかず、最後の一口を飲み込んで幸せそうに笑った。
「ふぅー、ごちそうさま。……あ、午後は実技の授業だっけ。また僕の絵を見て怒られないといいんだけどなあ」
その呟きを聞いたエレオノーラは「(また新たな術式を披露してくださるのね!?)」と目を輝かせ、リナは「(また変な女に絡まれないようにしなきゃ)」と決意を固めるのだった。




