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神の術式それとも落書き? 〜それよりなによりお腹が空いたので帰ります~  作者: にゃん


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第33話:後夜祭のキャンプファイヤー・ダンスバトル


 キャンプファイヤーの巨大な炎が夜空を赤く染め、フォークダンスの軽快なリズムが響き渡る。  この学園には、「最後に曲が終わった瞬間に手を取り合っていた男女は、一生結ばれる」という、どこにでもあるが、乙女たちにとっては国家存亡レベルで重要なジンクスがあった。


「さあアルト様、迷うことはありませんわ。このローゼンベルク公爵家に伝わる華麗なるステップ、貴方に捧げますわ!」  エレオノーラが強引にアルトの手を取り、ダンスの輪へと引きずり込む。


「ちょっとエレオノーラ様! 公爵家のステップなんて、アルト君には難しすぎるわ。ここは幼馴染の私が、優しくリードしてあげる!」  リナが反対側の手を掴み、一歩も譲らない。


 二人に左右から引っ張られながらも、アルトは動じない。以前なら目を回していたはずだが、今の彼は、炎を見つめる瞳にどこか悟ったような静かな光を宿している。


「いいよ。みんなで楽しく踊ろう」  アルトが優しく微笑み、二人の手にそっと触れる。その瞬間、リナとエレオノーラの脳内に「至福のイメージ」が直接流れ込み、二人は一瞬、恍惚トランス状態に陥った。


「(……警告。感情の混線により、ダンスの歩数が乱れています。……シオリが、アルト様のパートナーとしての最適解を提示します)」


 そこに割り込んだのは、学生服に身を包んだシオリだった。  彼女はアルトの正面にスッと立つと、感情を排した無機質な声で告げた。


「(ダンスとは、物理的な重心移動の連続です。……シオリの関節可動域は、ご主人様を0.01ミリの狂いもなくホールド可能です)」


 シオリはアルトの腰をガッチリと掴むと、人間離れした超高速の「最適化ステップ」を開始した。


「ちょっ……あの子、動きが早すぎて残像が見えるわ!」 「ステップというより、もはや旋風サイクロンですわ!!」


 アルトを中心に、シオリが驚異的なスピードで回転し、周囲の生徒たちを風圧で吹き飛ばしていく。リナとエレオノーラは必死に食らいつこうとするが、シオリの「物理演算に基づいた完璧なガード」に阻まれ、アルトに指一本触れられない。


「甘いわね、みんな! 若さだけでは、ダンスの深みは出せないわ!」


 火の中から現れたかのような勢いで、カサンドラ教官が乱入した。彼女はダンス用のドレス……ではなく、なぜか「露出度の高いメイド服(夜用)」のままだった。


「アルト君! 先生が教えた『夜の個別指導』のステップ、ここで披露しましょう!」


「先生、それ絶対ダンスじゃないですよね!?」  リナが叫ぶ。カサンドラは強力な魔力で周囲を強引に自分たちの「ダンスホール」へと変え、アルトを奪い取ろうとする。


 四人のヒロインが火花を散らし、もはやダンスの輪は崩壊寸前。一般生徒たちは「巻き込まれたら死ぬ!」と避難を始めていた。  それを見たアルトは、少し残念そうに目を細めた。


「せっかくの学園祭なのに、みんなで踊れないのは寂しいな。……そうだ。みんなが仲良く踊れる『魔法の靴』を描こう」


 アルトは空中に、黄金色に輝く「無数の舞踏靴」を素早く描いた。  彼が指を鳴らすと、実体化した魔法の靴が、会場にいる全員――ヒロインたち、一般生徒、そして泡だらけのシグルドの足元にまで、強制的に装着された。


「え、なに!? 足が勝手に動き出すわ!」 「こ、これ……! 喧嘩する気が失せて、自然にリズムに乗ってしまいますわ!」


 魔法の靴の力により、全員のステップが完璧に同期される。  シオリの超高速ステップも、リナとエレオノーラの焦りも、カサンドラの欲望も、すべてが「平和なフォークダンス」という一つの大きな流れの中に飲み込まれていった。


「(……計算外。……ご主人様の慈愛(魔力)が、本機の排他的論理和(嫉妬)を上書きしました。……これでは、みんなで幸せになってしまいます)」  シオリが少し不満げに呟く。


 曲の終わりが近づく。  炎がひときわ大きく燃え上がり、最後の旋律が流れる。


 アルトは、流れるような動作で四人の手を取り、一つの輪を作った。 「最後は、みんなで一緒だよ」


 曲が終わった瞬間。  アルトの手は、リナと、エレオノーラと、シオリと、そして乱入したカサンドラ……さらには、勢い余って隣にいたシグルドの手までもが、大きな円陣となって繋がっていた。


「……アルト、貴様……。なぜ私と手を繋いでいる……?」  シグルドが震える声で尋ねる。


「あはは。だって、みんな仲間だもん」


 アルトの屈託のない、しかしどこか超越した笑顔に、全員が戦意を喪失した。 「一生結ばれる」というジンクスは、アルトの規格外な優しさによって、「全員がアルトの運命共同体になる」という、とんでもない形で成立してしまった。

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