第3話:合格発表と縦ロール令嬢の急襲
翌日。魔導アカデミーの正門前には、合格発表を確認しに来た少年少女たちが溢れかえっていた。 アルトは、銀色の「首席合格者」バッジを胸に輝かせたリナに手を引かれ、人混みを縫うようにして掲示板へと近づく。
「……やっぱり、ないよね。一枚目にも、二枚目にも」 「アルトくん、諦めちゃダメだよ。あ、あそこ! 一番端っこの、……ゴミ箱の隣に貼ってある紙!」
リナが指差したのは、雨風で少し端が丸まった、別紙の『補習対象・特例合格者リスト』だった。 そこには、たった一行。 【アルト・ウォーカー:魔導実技(判定不能)につき、最下位補習クラスへの編入を許可する】
「うわ、受かっちゃった……。しかも『判定不能』って、どんだけひどかったんだろ。やっぱり僕、才能ないんだなぁ」 「よかったね、アルトくん! これで毎日、一緒に学園に通えるよ! 私、アルトくんの分のお弁当、毎日一生懸命作るからね!」
感極まったリナがアルトの腕にギュッとしがみつく。首席特待生として注目を集める美少女のその姿に、周囲の男子生徒たちからは殺意に近い嫉妬の視線が向けられた。 だが、その熱気さえも凍りつかせるような、高飛車な笑い声が響き渡る。
「おーっほっほっほ! ついに見つけましたわよ、隠れ賢者!!」
人混みが割れ、そこから現れたのは、昨日路地裏で会った金髪縦ロールの令嬢――エレオノーラだった。 彼女は、まるで国宝でも見つけたかのような熱い視線をアルトに突き刺し、扇子をバサリと広げる。
「昨日のあの方に間違いありませんわ……! さあ、正体を明かしなさい! あの路地裏で世界を再構築していた貴方の真の姿を!」 「ひゃっ、昨日の怒ってる人だ!? ご、ごめんなさい! あの落書き、すぐ消そうと思ったんですけど、お腹減ってたからそのままにしちゃって……!」
アルトは、昨日の魔法陣が「不敬罪」か何かに触れたのだと思い込み、リナの背中に隠れてガタガタと震え出す。 そんな二人を、エレオノーラは怪訝そうに、しかし深く納得したように見つめた。
「(……なるほど。あくまで『無能な劣等生』のフリを突き通し、最下位クラスに潜伏する……。このわたくしの目を欺き、平穏な隠遁生活を送るおつもりですのね? なんて底知れない賢者様ですの……っ!)」
一方、リナの瞳からは光が消えていた。 自分の知らないところで、アルトと「昨日」密会(?)していたという派手な女。 リナはアルトを守るように一歩前に出ると、周囲がビクリとするほど冷ややかな声を出した。
「……アルトくん。この、さっきから縦ロールのうるさい人、だれ?」 「縦ロールのうるさい!? 貴女、わたくしをド・ラ・メール家の長女、エレオノーラと知っての狼藉かしら!?」 「アルトくんは、私の幼馴染です。変な言いがかりで彼を怖がらせるないでください」
リナの背後で、物理的な風が巻き起こる。首席合格を勝ち取った彼女の魔力が、威圧感となってエレオノーラにぶつかった。 エレオノーラは驚き、即座に身構える。
「(この娘、平民の分際でこの魔圧……。なるほど、賢者様の正体を隠し、側で仕える『守護聖女』といったところですのね。……おのれ、羨ましいっ!)」
勘違いを宇宙規模まで加速させるエレオノーラと、独占欲の炎を静かに燃やすリナ。 その真ん中で、アルトはただ胃をさすりながら呟いた。
「ねえ……なんか二人とも怖いんだけど。あと、お腹減った。学園の食堂、パンの耳とか置いてないかなぁ……」




