第25話:看板娘の「最適化」とシグルドの受難
学園祭も昼時に差し掛かり、特Aクラスのメイド喫茶は限界を超えていた。
「もうダメ……。リピーターが多すぎて、パフェの容器が足りないわ!」 リナが悲鳴を上げ、厨房ではカサンドラ教官が「私の愛の魔力で皿を増殖させてやるわ!」と怪しげな黒魔術を唱え始め、エレオノーラはパッドのズレを直す暇もなく、フラフラになりながら紅茶を運んでいた。
そんなパニック状態の店内に、「カツン、カツン」と、軍隊のように正確な足音が響き渡った。
「(……業務効率が著しく低下しています。ご主人様の笑顔に悪影響を及ぼすと判断。最適化を開始します)」
入り口の看板から抜け出した実体化看板娘――通称「看板ちゃん」が、無表情に、しかし完璧なメイドの所作でフロアへと踏み出した。
「え、ちょっと……あの子、誰!? あんな可愛い子、クラスにいたっけ?」 クラスメイトのマルクスが目を丸くする。
看板ちゃんは、まずリナの手からお盆を奪うと、まるで重力を無視したかのようなステップで客席を舞った。一度に十人分の注文を完璧に配膳し、ついでに空いた皿を指先一つでスタックしていく。
「な……何ですのあの子!? 動きに一切の無駄がありませんわ。まるで給仕の概念をそのまま形にしたような……!」 エレオノーラが驚愕する中、看板ちゃんは次に、厨房の入り口でうろついていたシグルドに目を向けた。
「(未確認物体。戦力外と認定。……有効活用します)」 看板ちゃんがシグルドの襟元を掴み、そのまま裏庭の洗い場へと引きずっていく。
「な、なんだ貴様は! 私は誇り高き執事……っ、あぁっ!?」
看板ちゃんはアルトが描いた「超高速洗浄タワシ」をシグルドの手に握らせると、冷徹な声で告げた。 「(一秒に十枚洗ってください。できない場合は、ご主人様の看板から『不純物』として削除します)」
「ひ、ひぃぃ!? 目が……目がマジだ、このメイド!!」 こうして、シグルドは学園祭中、泡にまみれて「人間皿洗い機」として酷使される運命となった。
一方、フロアでは一般生徒たちが看板ちゃんの「完璧すぎる接客」に震えていた。
「おい、見たか今の? あの子、客がメニューを開く前に『今の貴方の気分はこれですね』ってオムライス置いていったぞ」 「しかも、アルト君がケチャップで描いた絵が、あの子の指が触れた瞬間、立体的なホログラムになって踊り出したぞ!?」
クラスメイトのケビンが、アルトの元へ駆け寄る。 「アルト! お前、看板娘にどんな設定を組み込んだんだよ! あの子、カサンドラ先生がアルトに抱きつこうとした瞬間、目からレーザー(のような威圧魔法)を出して先生を撃退したぞ!」
「え? 僕はただ、『みんなを助けてあげてね』って言っただけなんだけど……」 アルトがのんびりとパフェの盛り付けをしていると、看板ちゃんが彼の隣にスッと立ち、無言でトッピングのイチゴを差し出した。
「(ご主人様。この角度で乗せれば、パフェの幸福度は120%に上昇します)」 「あ、ありがとう。……君、すごく頼りになるね」
アルトに褒められた瞬間、看板ちゃんの頬に、わずかに朱色が差した。 それを見たリナとエレオノーラの危機感がMAXに達する。
「ちょっと! 看板のくせに、アルト君をたぶらかさないでよ!」 「そうですわ! 所詮は絵ですもの、実体のあるわたくしたちの『厚み』には勝てませんわ!」 エレオノーラが意地で胸を張るが、看板ちゃんは無機質な瞳で彼女の胸元をスキャンした。
「(……計測不能。数値に不自然な『嵩上げ』を検知。誠実さに欠けます)」
「ぎゃああああ! 営業妨害ですわ! 削除! この看板娘を今すぐ削除なさい!!」
エレオノーラの絶叫が響く中、看板ちゃんによる「恐怖と完璧の学園祭支配」は加速していくのだった。




