第22話:公爵令嬢の決断と、深夜の絶体絶命
学園祭前夜、深夜2時。特Aクラスの教室は、最終確認の喧騒と、疲労による異様なハイテンションに包まれていた。
「……よし。これで、全員の衣装チェックは終わりね」 カサンドラ教官が、自身のボタンが今にも弾け飛びそうなメイド服を無理やり着こなしながら、満足げに頷いた。
「リナさんも、その……『はち切れんばかりの若さ』が強調されていて、アルト君への攻撃力は十分よ」
「……先生、表現がいやらしいです。でも、アルト君が喜んでくれるなら……っ」 リナもまた、普段の制服よりタイトなメイド服に顔を赤らめつつ、鏡の前でポーズを確認している。
その光景を、エレオノーラは血の滲むような思いで見つめていた。 彼女が選んだのは、公爵家令嬢としての気品を保ちつつも、胸元のフリルを三倍に増量した「特製・盛り盛りエプロンドレス」そしてその内側には、禁断の魔導具「超・高密度魔導パッド」が二重に仕込まれていた。
「(……勝てますわ。この、計算し尽くされた黄金比のシルエット。これこそが、ローゼンベルク公爵家の底力……!)」
自信を深めたエレオノーラは、椅子に座って看板を描き始めようとしているアルトのもとへ、優雅に歩み寄ろうとした。
「アルト様、わたくしの……わたくしの勇姿(メイド姿)を、一番にご覧になって……」
しかし、運命は残酷だった。 深夜の掃除でワックスが効きすぎていた床に、エレオノーラの足元が滑る。
「あ……っ!?」
派手にバランスを崩すエレオノーラ。その瞬間、あまりに激しい動きに、無理やり詰め込まれていた「魔導パッド」が、魔法的な反発力を起こしてエプロンの隙間からズルリとせり出してきた。
「(なっ……ななな、なんですの、この重力に逆らう挙動は!? 飛び出しますわ! 公爵家の威信が、物理的に飛び出してしまいますわ!!)」
空中で必死に胸元を押さえようとするエレオノーラ。しかし、慣性の法則には抗えない。 そのままアルトの目の前で転びそうになった彼女の胸元から、半透明の光を放つパッドが、今にもアルトの顔面に「射出」されようとしたその時――。
「わっ、危ないよ、エレオノーラちゃん!」
アルトが反射的にスケッチブックを掲げた。 彼が咄嗟に描いたのは、『絶対に中身が漏れない魔法のホック』のお絵描きだった。
カチッ!!
空中で謎の魔力結界が発生し、飛び出しかけていたパッドは、エレオノーラのメイド服の内側へと、凄まじい勢いで「パチン!」と吸い込まれるように戻っていった。
「……え?」
エレオノーラはアルトに抱きとめられる形で、なんとか転倒を免れた。 だが、アルトの魔法によって「超強力に固定」されたパッドは、本来の位置よりも少し……いや、かなり「上」の方でガッチリと固定されてしまった。
「……大丈夫? エレオノーラちゃん。なんだか、メイド服が不自然な着こなしになってる気がするけど……」
「………………(絶句)」
「あらエレオノーラ様。……斬新なスタイルね? 公爵家では、今それが流行りなのかしら?」 カサンドラが意地悪くニヤリと笑う。
「ち、違いますわ……! これは、その……心臓を守るための公爵家流の装甲でして……あ、アルト様ぁぁぁ!! 見ないでくださいまし!!」
エレオノーラは顔を真っ赤にして、不自然に盛り上がった胸元を押さえながら、更衣室へと猛ダッシュで逃げ帰っていった。




