第21話:特Aクラスの日常と、揺れる「公爵家の誇り」
特Aクラスの放課後。いつもは魔導理論の議論に余念がないエリート生徒たちも、今日ばかりは学園祭の準備という名の「カオス」に巻き込まれていた。
「おい、聞いたか? 今年のうちのクラス、出し物が『メイド喫茶』に決まったらしいぞ」 男子生徒の一人が、机を運びながら小声で仲間に話しかける。
「ああ。しかもカサンドラ教官のゴリ押しだろ? あの先生、アルトが入ってから明らかに暴走してるよな。……でも正直、リナさんやエレオノーラ様のメイド姿が見れるなら、俺は教官を支持するね」
「馬鹿言うな、命がいくつあっても足りんぞ。さっき見たか? リナさんがアルトに『どの衣装がいいかな?』って聞いた瞬間、エレオノーラ様の周囲の気温がマイナスまで下がったんだぞ」
そんな男子たちのヒソヒソ話を切り裂くように、教室の隅から鋭い声が響いた。
「そこ! 手を動かしなさいな! 当クラスの模擬店は、ローゼンベルク公爵家の名誉がかかっているのです。埃一つ、妥協は許しませんわ!」
エレオノーラが、指示棒を片手にテキパキと采配を振るっている。しかし、その視線は時折、メイド服の採寸表を眺めているリナの背中に向かい、そして己の胸元へと落ちては、深い溜息へと変わっていた。
「……リナさん。貴女、その……。採寸、間違っていませんこと? 布が……布が足りていないように見えますわ」
「え? ちゃんと測ったよ? でもカサンドラ先生が『アルト君をドキドキさせるには、ワンサイズ下が鉄則よ!』って言って……ちょっと苦しいかも」
「ぐ、ぬぬぬ……っ!」 エレオノーラは拳を震わせた。リナのそれは、ワンサイズ下げたことで強調され、もはや凶器に近い視線誘導を行っている。
「(……不本意。あまりに不本意ですわ。ですが、このままではアルト様の視線がすべて、あの『過剰な魔力貯蔵庫』に奪われてしまう……!)」
エレオノーラは周囲の生徒たちが作業に没頭しているのを確認すると、こっそりとカバンの中から、公爵家秘蔵の(?)「魔導パッド」を取り出した。それは、装着者の魔力に反応して自然な弾力とボリュームを再現するという、貴族社会の社交界が生んだ闇の傑作である。
「……これ、使ったら負けのような気がしますけれど……。いえ、これもアルト様を正しき美意識へ導くための、聖なる偽装ですわ!」
「エレオノーラ様、何してるの? それ、なあに?」 背後からアルトがひょっこりと顔を出す。
「ひゃ、ひゃあああ!? ア、アルト様! な、なんでもありませんわ! これは、その……ええ、魔導触媒の新型ですの! 決して、中身を盛ろうなどという卑怯な考えでは……っ!」
「魔導触媒? へぇ、面白い形だね。……あ、そうだ。リナちゃんが衣装きついって言ってたから、僕、お絵描きで『苦しくない布』を描いてあげようかな」
「待ちなさい、アルト君! それをやったら、私のワンサイズ下の努力が台無しじゃないの!」 カサンドラ教官が廊下から滑り込んでくる。
「教官! 貴女はまず、その……御自身のボタンを留める努力をなさってくださいまし! 一般生徒たちが赤面して、作業が滞っておりますわよ!」
エレオノーラの指摘通り、一般生徒たちはカサンドラのあまりの迫力に、釘を打つ手を止めて呆然としていた。
「おい、見ろよ……。リナさんとエレオノーラ様が、アルトを取り合ってまた火花散らしてるぞ」 「カサンドラ先生まで参戦して、もはや特Aクラスはアルトのハーレムだな……」 「……俺たち、当日接客できるのかな。あの空間、一般人が入ったら魔圧で潰されそうじゃないか?」
一般生徒たちの不安をよそに、学園祭の準備という名の「アルト争奪戦」は、さらにヒートアップしていく。
「アルト君、私のメイド姿……楽しみにしててね?」 「わたくしの……完成された(予定の)シルエットも、お見逃しなく!」
二人の宣言に、アルトは首を傾げながらも、楽しそうに笑った。 「うん、楽しみだなぁ。あ、シグルド君の執事服も描いてあげようか?」
「だから、私は自前の最高級品を着ると言っているだろうがぁぁ!」 シグルドの叫びが、今日も平和に(?)教室へ響き渡るのだった。




