第20話:学園祭の火蓋と、揺れる乙女のプライド
郊外学習での「規格外の収穫」が評価され、アルトは特例でリナやエレオノーラが在籍する特Aクラスへと編入されることになりました。
そして、季節は学園祭。出し物を決めるHRは、アルトを巡る「女の戦場」と化します。
特Aクラスの教室。 アルトが隣の席に座っているという幸福に、リナとエレオノーラが密かに頬を緩めていたのも束の間。教壇に立つカサンドラ教官の一言で、空気は一変した。
「さあ、学園祭の出し物を決めるわよ。我がクラスは郊外学習でトップの成績を収めたから、場所は一等地のメインホール! 出し物次第で、アルト君の勇姿を全校生徒……いえ、国中に知らしめるチャンスね!」
カサンドラは、なぜかアルトの編入を機に「個別指導」という名の個人的な接触を増やそうと鼻息が荒い。
「先生、アルト君を晒し者にするようなのは反対です!」 リナが立ち上がると、すかさずエレオノーラが扇子を広げて補足する。
「左様ですわ。当家……ローゼンベルク公爵家が支援する以上、安っぽい出し物は許されません。……例えば、わたくしたちがアルト様をおもてなしする、気品溢れる『ティーサロン』などいかがかしら?」
「おもてなし? ……いいわね。それならいっそ、コンセプトを絞りましょう」 カサンドラがニヤリと笑い、黒板に大きく書き殴った。
【喫茶・アルト様のご奉仕(メイド&執事)】
「は、はいぃ!?」 リナが素っ頓狂な声を上げる。
「あら、いいじゃない。女子はメイド服、男子は執事服。アルト君には執事として、お嬢様(お客様)の手を取ってもらうの。……もちろん、試着と練習は私がみっちり指導するわ」
「「(絶対に別の目的がある!!)」」 リナとエレオノーラの思考が同期する。しかし、「メイド服」という響きには抗いがたい魅力(と危機感)があった。
「メイド服……。アルト君に見てもらえるかな」 リナが想像して顔を赤らめる。一方、エレオノーラはふと自分の胸元を見下ろし、顔を強張らせた。
「メイド服。あれは確か、胸元のフリルやエプロンの形状によって、その……『個体差』が顕著に現れる衣装ではありませんこと?」
その懸念は、すぐに現実のものとなる。 カサンドラが「参考資料よ」と取り出した三着のメイド服。
一つは、カサンドラ用の、ボタンが弾け飛びそうな特注Xサイズ。 一つは、リナ用の、標準的だが健康的な膨らみが予想されるMサイズ。 そして最後は、エレオノーラ用の、……心なしか布面積が少なく見えるスリムサイズ。
「…………(ぐぬぬ)」 エレオノーラは、カサンドラの暴力的なまでの「山脈」と、リナの柔らかそうな「丘陵」を交互に見つめ、己の「平原」に近い緩やかなカーブを意識せざるを得なかった。
「リナさん……貴女、その……やはり無駄に魔力が詰まっていますわね。エプロンの紐が食い込んで、苦しくありませんこと?」
「え? あ、うん、ちょっときついかも……。エレオノーラ様は、シュッとしててエプロンが似合いそうでいいなぁ」
「『シュッと』……! またその禁句を! 褒め言葉の皮を被った、高貴なる平坦への侮辱ですわ!!」
エレオノーラは悔しげに拳を握る。リナに悪気がないのは分かっている。リナもまた、カサンドラの「超弩級」の前では共に戦う同志なのだ。だが、それとこれとは話が別だ。
「いい? アルト君を一番近くで給仕するのは私よ! 経験の差を見せてあげるわ!」 カサンドラが挑発的に胸を張る。
「させませんわ! メイドの作法なら、公爵家の教育を受けたわたくしが一番です! 胸の装飾……いえ、胸のボリュームなど、気合でカバーしてみせますわ!」
「エレオノーラ様、一緒に頑張ろうね! 先生にアルト君を独占させちゃダメだよ!」
もはや「模擬店を何にするか」ではなく、「誰がアルトに最もふさわしいメイドか」という不毛な(?)争いへと発展していく。
そんな中、当のアルトは、クラスの隅で震えているシグルドに話しかけていた。 「シグルド君、メイド服着るの? じいちゃんが『似合うなら何でも着てみろ』って言ってたよ」
「着んわ! 私は執事だ! 執事として、お絵描き野郎の貴様に完璧なマナーを叩き込んでやるからな!」
こうして、学園祭に向けて「メイド喫茶(という名の修羅場)」の準備が幕を開けた。
少し趣をかえていくことになりそうですが、学園祭編として書いてみました。




