第16話:公爵令嬢の矜持と、磁石(?)の導き
翌朝。アルトの創造したログハウスの朝食(食べると一日中疲れ知らずになる「太陽の目玉焼き」)を終えた一行は、カサンドラ教官の指示により、郊外学習の主目的である「魔導結晶の採取」へと向かっていた。
「いい、みんな。魔導結晶は、この森の奥にある『魔力が結晶化した岩場』に自生しているわ。それを傷つけずに採取するのが、繊細な魔力操作の訓練になるのよ。……まあ、アルト君なら丸ごと描き出しちゃいそうだけど」
カサンドラが熱い視線を送る中、公爵家令嬢としての威厳を取り戻したエレオノーラが、泥だらけのシグルドを視界から排除しながら口を開いた。
「当家に伝わる魔力探査術をもってすれば、そのような結晶など、造作もなく見つけ出せますわ。……アルト様、どうか見ていてくださいまし。これこそが、高貴なる血筋にのみ許された真の魔導ですのよ」
エレオノーラは優雅に指先を組み、深呼吸をする。昨夜の「タコに抱き枕にされた」という醜態を上書きするかのような、完璧な貴族の立ち振る舞いだった。
「……えっと、僕も何かお手伝いしたほうがいいかな? 探しものなら、じいちゃんが『大きいやつに全部吸い寄せてもらえば早い』って言ってた」
「フフッ、アルト様。おじい様は少々……豪快すぎるようですわね。探しものとは、風のささやきを聞き、大地の鼓動を――」
エレオノーラが格好良く言いかけた、その瞬間。 アルトがスケッチブックに、巨大な**「真っ赤なU字型の磁石」**を描き上げた。
「はい、『なんでもくっつく魔法の磁石』!」
アルトが磁石をひょいと頭上に掲げると、空が震えた。 カチッ、カチカチカチッ!! という、凄まじい硬質の金属音が森中に響き渡る。
「な、なんですの……!? 地面が……地面が揺れていますわ!」
次の瞬間、森の奥から、数多の「魔導結晶」が弾丸のようなスピードで飛来し、アルトが持つ磁石の先端に吸い付いていった。 それだけではない。
「おい、待て! 私の剣が! 私のフルプレート(予備)がぁぁ!」 汚名を返上しようとこっそりフル装備に着替えていたシグルドが、鎧ごと磁石に吸い寄せられ、アルトの目の前に「ベタッ」と貼り付いた。
「ちょっ……シグルド、あんた邪魔よ! どきなさいよ!」 「どけるわけなかろう! 物理的に、剥がれんのだぁぁ!」
さらに最悪なことに、磁石が引き寄せたのは結晶や金属だけではなかった。 魔力の核を体内に持つ、森の強力な魔獣――**「アイアン・ゴーレム」**までもが、その巨大な質量をアルトの磁石に引かれ、ズザザザザと地面を削りながら接近してくる。
「……アルト様。あそこに、岩のような巨大な魔獣が、必死に足を踏ん張っていますけれど……徐々にこちらに、引き寄せられておりますわね?」
「あ、ホントだ。大きな岩さんも遊びに来るみたいだね」
「遊びじゃないわよ! 磁力(概念)でゴーレムを釣り上げるなんて、公爵家の歴史にも載ってませんわ!!」
エレオノーラの優雅な探査術を披露する暇もなく、磁石の力でカオスな大行列がアルトの元へ形成され始めていた。




