第15話:1DK(1アルト・奪取・決戦)
お風呂の狂騒が終わり、ログハウスの寝室。
そこには、アルトが「おじいちゃんの教え」を忠実に守った結果、とんでもないものが用意されていた。
「……アルト様。わたくしの目が正しければ、このお部屋にはベッドが『一つ』しか見当たりませんのだけれど?」 エレオノーラが、頬をぴくつかせながら尋ねる。
「うん。じいちゃんが『みんなで寝れば、薪も節約できるし暖かいぞ』って言ってたから。はい、特製『みんなでぎゅうぎゅう・クラウドベッド』!」
アルトが枕をポンと叩くと、巨大なベッドからパフッという音と共に、抵抗不能なまでの「ふかふかオーラ」が溢れ出した。
「なっ……し、信じられませんわ! 男女が同じ寝床なんて、王家のしきたりでは、結婚初夜の儀ですら三メートルの距離を置くのが作法ですのに!」
エレオノーラは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
しかし、その視線はアルトの隣、**「一番柔らかそうなスポット」**を鋭く値踏みしていた。
「エレオノーラ様、作法が大事なら別室で寝ればいいじゃない。私はアルト君の幼馴染として、彼が寝冷えしないように隣で監視してあげるから!」
リナが素早くアルトの右側を確保しようとダイブする。
「お待ちなさい! 監視というなら、わたくしの方が最適ですわ! それに、アルト様の寝相でリナさんの『無駄に大きいそれ』が潰れてしまっては大変でしょう? 安全のために、わたくしの『平坦……ではなく、スマートな空間』を提供しますわ!」
二人がアルトの左右を巡って火花を散らしていると、天井裏からズルリとカサンドラが降りてきた。
「あら、若い子は元気ねぇ。でも、夜の森は寒いのよ? 生徒を温めるのは、教官の温もり……いえ、義務だわ」
「「先生、いい加減にしてください!!」」
リナとエレオノーラがカサンドラをベッドから押し出そうとする。
しかし、アルトは既に眠気の限界だった。
「ふわぁ……。みんな、おやすみ。……あ、そうだ。誰かがベッドから落ちないように、これ描いとくね」
アルトが空中にサラサラと描いたのは、**「巨大な抱き枕に変身したタコ」**の絵だった。
「メェ〜」という羊の鳴き声(安眠概念)が部屋に響いた瞬間。
三人の意識が、ふっと遠のく。
「あ……アルト……くん……」
「わたくしの……気高き、不戦敗……」
翌朝、窓から差し込む光で目を覚ましたエレオノーラは、自分の状況に絶叫しそうになった。
右側には、アルトの腕を抱き枕にして涎を垂らしているリナ。 足元には、なぜかアルトの足を幸せそうに抱えているカサンドラ。 そして自分は――アルトの胸板に顔を埋め、彼のパジャマをぎゅっと握りしめていた。
「(な、ななな……なんですの、この破廉恥な状況は! 昨夜のわたくし、寝言で『アルト様ぁ、もっと……』とか言ってませんでしたかしら!?)」
さらに最悪なことに、アルトが描いた「タコ」が実体化しており、八本の足で四人をガッチリとホールドして「絶対に離さない」という鉄の意志を見せている。
「あ、エレオノーラちゃん、おはよう。よく眠れた?」 アルトが至近距離で、天使のような寝起きの笑顔を見せる。
「ひゃ、ひゃわわわわ……! お、おはようございますわ、アルト様! こ、これは、その、王家の護身術の一環でして……決して、貴方の匂いを嗅いでいたわけでは……っ!」
一方、その頃のシグルド
ログハウスの外。 泥の穴の中で、全身が朝露でびしょ濡れになったシグルドが、虚無の表情で太陽を見上げていた。
「……鳥が鳴いている。……腹が減った。……なぜ、私の朝食は、昨日から地面に落ちていた『ニガニガダケ』しかないのだ……」
ログハウスから漏れ聞こえる楽しげな笑い声が、シグルドの心に最後の一撃を叩き込むのだった。




