第14話:魔導の森に湧く「奇跡」の湯
アルトが創造した北欧風ログハウスの裏手。
そこには、もはや郊外学習のさなかとは思えないほど豪華な、総檜造りの露天風呂が鎮座していた。
「……信じられませんわ。このお湯、浸かっているだけで魔力回路の汚れが剥がれ落ちていくようですわ」
エレオノーラは、脱衣所で最高級の絹のタオルを胸元に巻き、鏡に映る自分を見つめていた。
貴族としての気品溢れる容姿、透き通るような白い肌。
しかし、彼女の視線は一点――自身の胸元に固定され、わずかに険しくなる。
「(……いえ、決して小さくはありませんのよ。ただ、少々……『機能美』に寄りすぎているだけですわ。ええ、そうですわとも)」
自分に言い聞かせながら浴室の扉を開けると、そこには既に「戦場」が広がっていた。
「あ! エレオノーラ様も来た。見て見て、このお湯、肌がすべすべになるよ!」
アルトが無邪気に、湯船の中で『アヒル隊長』を突っついている。
「アルト君! だから、男の子が女の子をそんな風に誘わないの!」
リナが真っ赤になりながらも、アルトを「防御」するように立ちはだかる。
しかし、その動きに合わせて、リナの豊かな胸元が、お絵描き製石鹸の泡と共に**「たぷん」**と暴力的なまでの質量を持って揺れた。
それを見たエレオノーラの動きが止まる。
「……(ピキッ)」
「あら、どうしたのエレオノーラ様? 早く入らないと体が冷えちゃうよ?」
リナが何気なく(本当に悪気なく)言ったその瞬間、エレオノーラの扇子(お風呂用・耐水仕様)がリナに向けられた。
「リナさん……貴女、今わざとやりましたわね? その、無駄に魔力が詰まっていそうな『それ』を誇示して、わたくしを挑発いたしましたわね!?」
「えっ!? 何のこと!? 私はただアルト君を……」
「言い訳は無用ですわ! 王家が長年培ってきた美的センスからすれば、貴女のそれは『過剰積載』ですのよ! 運動の邪魔になりませんこと!? アルト様、見てくださいまし! わたくしのこの、風の抵抗を最小限に抑えた高貴なシルエットを!!」
「あ、うん。エレオノーラちゃん、シュッとしてて綺麗だね」
アルトの天然な褒め言葉が、逆にエレオノーラの心に「刺さる」。
「『シュッと』……!? それはつまり、『凹凸が少ない』という意味の婉曲表現ですのね!? ああ、アルト様までそのような……! この屈辱、歴史の教科書に刻んでやりたくなりますわ!」
そこへ、這々の体で魔道テントから抜け出したたシグルドが、アルトを探しに露天風呂までやってきた。
だが、どうしたことか風呂に浮かぶ『アヒル隊長』の目が光る。
「(ターゲット確認。不純物、および『デリカシーのない男』を排除します)」
「なっ、また……ぎゃあああーーー!」 アヒル隊長が放った、お湯によるウォーターカッター。
シグルドは再び、全裸のまま月夜の空へと射出され、遠くの森へと消えていった。
シグルドが星になった直後、岩陰から怪しい影が忍び寄る。カサンドラ教官だ。
彼女は熟練の隠密スキルで、お湯の蒸気に紛れながら、アルトの背後わずか数センチまで肉薄していた。
「(フフフ……揉めているがいいわ、小娘ども。アルト君のこの、お絵描きで鍛えられたしなやかな筋肉を、一番に味わうのは私よ……!)」
カサンドラの手が、アルトの肩に触れようとしたその時。 リナとエレオノーラの視線が、一瞬で鋭利な刃へと変わった。
「「……見つけましたわ(見つけたわよ)、女狐」」
「あら、バレちゃったわね?」 カサンドラが余裕の笑みで姿を現す。
彼女は彼女で、大人の色香を全開にした、圧倒的な「山脈」を誇示していた。
「教官……それは職権乱用を通り越して、犯罪ですわ!」
「そうよ! アルト君は私たちが(胸の格差はさておき)守るんだから!」
リナとエレオノーラは、先ほどまでの胸の大きさによる内紛を一時休戦。
カサンドラという共通の「強敵」に対し、湯船の中で即席の共闘戦線を張った。
その光景を、アルトはアヒル隊長を頭に乗せながら眺めていた。
「みんな元気だなぁ。……ねえ、お風呂上がりはコーヒー牛乳かフルーツ牛乳、どっちがいい? 描いてあげるよ」
結局、女子三人の争いは「どっちの牛乳をアルトに渡してもらうか」という新たな闘争へと発展し、魔導の森の夜はさらに騒がしく更けていくのだった。




