第13話:魔道の森のディナー
アルトが創造したログハウスのテラス。
夕闇が迫る中、シグルドがどこからか調達してきた「ひょろひょろのキノコ」と「泥の付いた木の根」をテーブルに叩きつけた。
「いいか、これぞサバイバルの真髄! 飽食に慣れた貴族共には分からんだろうが、この『ニガニガダケ』こそが魔力を活性化させるのだ。さあ、アルト! 貴様もこれを齧って、野生の厳しさを――」
「あ、ごめんシグルド君。僕、じいちゃんに『外でご飯を食べる時は、賑やかなほうがいい』って教わったんだ」
アルトはシグルドの言葉を1ミリも聞かずに、スケッチブックを広げた。
彼がサラサラと描き始めたのは、皿の上に乗った**「山盛りのエビフライ」と「キラキラ輝くオムライス」。そして、なぜか楽しそうにラッパを吹く「コック帽を被ったカニ」**の絵だった。
「よし、できた。『おなかいっぱい、踊るお子様ランチセット』」
アルトが絵を指でトントンと叩く。
次の瞬間、テラスの上に豪華絢爛な銀食器が並び、そこには物理法則を無視した「温度」と「輝き」を放つ料理が実体化した。
それだけではない。絵に描かれた「カニ」までもが立体化し、テーブルの上でハサミをカスタネットのように鳴らしながら陽気なステップを踏み始めた。
「な、な……なんだこの料理は!? 湯気から魔力が溢れ出しているぞ!? それにこのカニ、生きて……いや、事象として存在しているのか!?」 シグルドが驚愕でキノコを落とす。
「……信じられない。このエビフライ、一口食べただけで魔力回路が全回復したわ。それどころか、上限値が少し増えてない……?」 リナが頬を押さえ、あまりの美味しさに瞳を潤ませる。
「このオムライスも……卵の一粒一粒が、まるで黄金の精霊と契約しているかのような芳醇な味わいですわ。アルト様、これはもう『料理』という概念を超えた、一種の儀式ですわね……!」
エレオノーラも、貴族としての矜持を忘れ、夢中でスプーンを動かしていた。
「あ、そのカニさんは食べちゃダメだよ。盛り上げ役だから」
アルトがニコニコしながら言うと、カニはさらに激しくラッパを吹き、周囲に「食べるとハッピーになる粉(物理的な多幸感をもたらす魔力粒子)」を撒き散らした。
森の不気味な夜の音は、アルトの演出した陽気なBGMにかき消されていく。 そんな中、シグルドだけが、自分の持ってきた「ニガニガダケ」を虚空を見つめながら噛み締めていた。
「……苦い。私の人生と同じくらい、このキノコは苦いぞ、アルト……」
一方、茂みの中ではカサンドラ教官が、望遠鏡を片手に激しく震えていた。
「(……事象の具現化による、栄養素の再定義。彼はただの食事で、生徒たちのポテンシャルを底上げしているわ。ああ……アルト君。私も、あなたの『お子様ランチ』の一部になりたい……。旗を立てて……私の胸に、あなたの情熱という名の旗を……っ!)」
カサンドラの妄想が暴走し、彼女の周囲の草花が、彼女の放つ熱気でしおれ始める。
「アルト君、美味しいね。……あ、お口にケチャップ付いてるよ。取ってあげる」
「あ、ずるいリナ! わたくしが、わたくしが拭いますわ!」
豪華なログハウスのテラスで、幸せな夕食の時間は過ぎていく。




