第12話:お泊りの時はお家を持ってくればいい。
「シグルド君、大変そうだね……。あ、そうだ。じいちゃんが『お泊まりの時は、お家を持ってくればいい』って言ってたのを思い出したよ」
「……お家を、持ってくる?」 リナが嫌な予感(期待)に頬をひきつらせる。
アルトは大きな岩をキャンバスに見立て、指先でさらさらと「絵」を描き始めた。 描かれたのは、積み木のような家。屋根には煙突があり、窓からは暖かそうなオレンジ色の光が漏れている――そんな、子供が描く理想の**「おうち」**の絵だった。
「よし、できた。『みんなで入れる、ふかふかのおうち』」
アルトが絵をぽん、と叩く。 刹那、空間が物理的な悲鳴を上げた。 描かれた「絵」の輪郭線が黄金色に輝き、膨れ上がり、実体化していく。
バキバキという音と共に、そこに出現したのは―― 魔導の森の景観を完全に無視した、「北欧風の最新式ログハウス(サウナ付き)」だった。
「な、ななな……なんですの、これ!? 概念どころか、建造物をそのまま降臨させましたわよ!?」
「しかもこれ、ただの家じゃないわ……。この壁、高密度の純粋魔力でコーティングされてる。どんな魔獣も、この『おうち』の平和な結界を破ることはできないわよ……」
アルトは無邪気にドアを開けた。
「あ、中には暖炉もあるよ。シグルド君の泥のお家より、こっちの方が暖かいと思うんだけど……どうかな?」
中から漂ってくるのは、作りたてのパンのような香りと、上質な羽毛布団の匂い。
シグルドが作った泥の穴が、あまりに惨めで、悲しい存在に見えてくる。
「ば、バカな……。建築魔法でもない、ただの『落書き』が、この世の物理法則を上書きして不動産を生成したというのか……っ! 私の努力は、私のエリートとしての誇りは!!」
シグルドは膝から崩れ落ち、咽び泣いた。
そんな惨状を無視して、女子たちの目は輝いていた。
「アルト君、すごいわ! これならお風呂も入れるんじゃない?」
「アルト様、わたくし、今日こそは貴方と同じ屋根の下で……ふふふ……」
そして、影から見ていたカサンドラ教官は、鼻血を拭いながら手帳にメモを走らせていた。
「(……家。彼は『帰るべき場所』さえも創造する。つまり、私が彼の『妻』として描かれれば、それは即ち世界の真理となる……! 素晴らしいわ、個別指導プランに『新婚生活編』を追加しましょう)」
こうして、魔導の森の夜は、アルトの「無自覚な規格外」によって、ただの豪華な合宿へと変貌していくのだった。




