第1話:路地裏の絵描き歌
初めまして、 「にゃん」と申します。
本作は、**「自分を無能だと思い込んでいる少年」**が、無自覚にチョーク1本で世界の理を書き換えてしまう、勘違い系学園ファンタジーです。
圧倒的な神の術式。 それを「ただのお絵描き」と思っている主人公。 そして、それを見て「深読み」が止まらないヒロインたち。
ゆるい空気感で贈る、無自覚チートな物語を楽しんでいただければ幸いです。 まずは第1話、路地裏の奇跡から始まります。
「……やっぱり、才能ないのかなぁ」
王都、黄昏時の路地裏。 アルト・ウォーカーは、手垢で汚れた不合格通知――もとい、『魔導アカデミー入学試験・一次選考結果』を眺めて、力なく肩を落とした。
点数は、平均を大きく下回る「十二点」。 回答欄には、指定された数式ではなく「それっぽい図形」を書き連ねたせいで、採点官からは赤ペンで『ふざけているのか?』とまで書かれる始末だ。
「じいちゃんが教えてくれた通りに書いたんだけどな。……あーあ、お腹減った。今日、夕飯抜きにされちゃうかも」
アルトは重い溜息をつき、ポケットから使い古されたチョークの欠片を取り出した。 彼には、気分が落ち込むと無意識に「絵」を描く癖がある。 しゃがみ込み、石畳の上に白い線を走らせる。
「ま〜るかいて、チョン……」
鼻歌まじりに、彼は無心で手を動かす。 アルトにとっては、ただの気晴らし。子供の頃から繰り返してきた「絵描き歌」の遊び。
だが、その指先が描く奇跡を、偶然にも目撃した者がいた。
「(……信じられませんわ。このわたくしが、近道のつもりでこんな不潔な路地裏を通る羽目になるなんて)」
金髪の縦ロールを不機嫌に揺らし、泥だらけの裾を気にしながら歩いていた少女――エレオノーラ・ド・ラ・メールは、そこで足を止めた。 正確には、「魂を射抜かれたように、動けなくなった」。
彼女の視線の先には、粗末な平民の服を着た少年が、地面に描いている『何か』があった。
「(な……何、ですの? あれは……)」
エレオノーラは、国内でも有数の魔導貴族の令嬢であり、次代の天才と謳われる才女だ。 だからこそ、理解できてしまった。 少年が鼻歌まじりに描いているのは、現代の賢者たちが束になっても解読できない、神代の失われた禁忌術式――『因果律の調整陣』の構成式であることに。
「(あ、ありえませんわ! 第三階位の変数をあんな風に省略するなんて……っ。いえ、そもそもあの曲線の描き方、魔素の伝達効率が理論上の限界を超えていますわ……!?)」
少年の手元が動くたびに、路地裏の淀んだ空気が浄化され、世界が微かに震えている。 それは、神が世界を創造した時の「設計図」を書き換えるような、神聖で、あまりに美しすぎる光景。
「ま〜るかいて、チョン……と。うん、できた」
アルトが立ち上がり、満足げに鼻をこすった。 地面には、世界の理を支配する完璧な魔法陣が、チョークの粉で無造作に描かれていた。
「……あ、やばい。もうこんな時間だ。早く帰らないと、パンの耳もなくなっちゃう!」
アルトは、自身が完成させた『神の術式』を、何のためらいもなく自分のボロ靴で盛大に踏みつけ、その上をドタドタと駆け抜けていった。
「あ……っ、ちょ、ちょっと待ちなさい、貴方!!」
エレオノーラが裏返った声で叫び、手を伸ばした時には、少年はすでに夕闇の向こうへと消えていた。 残されたのは、無造作に踏みにじられ、判別もつかなくなったチョークの跡。
エレオノーラは、震える膝をついてその場に崩れ落ちた。
「……伝説の、隠れ賢者……。まさか、あのようなお若い方が……」
その瞳に宿ったのは、恐怖、驚愕――そして、生まれて初めて経験する、激しい好奇心と「恋」にも似た衝動だった。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
賢者たちが束になっても勝てない術式を、パンの耳のために踏みにじって帰るアルト……。 目撃してしまったエレオノーラさんの人生は、ここから大きく狂い(?)始めることになります。
「この勘違い、面白いかも」「アルトの無自覚ぶりがもっと見たい!」と思っていただけましたら、 広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の何よりの励みになります!
ブックマーク登録もぜひ、よろしくお願いいたします。
次回、第2話は**「ちょっと過保護な幼馴染・リナ」**が登場します。 アルトに描いてもらった「お絵描き」の本当の価値を知る彼女との、賑やかな夕食風景をお届けします!




