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せっかくの婚約ですが、王太子様には想い人がいらっしゃるそうなので身を引きます。  作者: 木山楽斗


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第1話 王太子の浮気

 アルドラ王国の王太子アヴェルド殿下の婚約者として選ばれたことは、名誉なことであるといえるだろう。

 といっても、それは私の力で成し遂げたことではない。偉大なる父、ルダール・エリトン侯爵の努力の賜物だ。

 数ある貴族の中で、国王様から最も信頼を得た。そんな父のことを、私は尊敬している。


 だからこそ、この婚約は成功させなければならないものだと思っていた。

 次期国王となるアヴェルド殿下の妻になるということは、要するに次期王妃となることだ。しっかりと務めなければならない。


 そんな風に考えていた私は、今となってはお笑いだったといえるだろう。

 アヴェルド殿下の姿を視界の端に捉えながら、私はそのようなことを思っていた。


「ネメルナ、君と会えることは僕も嬉しく思っているよ。しかしだ、王城まで訪ねられると困ってしまう。僕と君との関係は、決して公表できるものではないということは、君だってわかっているはずだ」

「申し訳ありません、アヴェルド殿下。しかし、私はまだ今回のことには納得していません。どうしてあのような、何のとりえもない女がアヴェルド殿下の婚約者になるのですか? あなたの婚約者に相応しいのは、私のような者です」

「気持ちはわかるが、どうか落ち着いてくれ」


 アヴェルド殿下は、見知らぬ令嬢と親しそうに話をしていた。

 その話の内容は、私のことであるだろう。ネメルナ嬢からすれば、私のことが気に食わないということらしい。

 自らが嫉妬されるような立場であるということは、考えるまでもないことだ。そのことについて、思う所などはない。


 問題なのは、彼女の主張にアヴェルド殿下が同意している点だ。

 彼は、正当なる婚約者である私のことを軽んじているということだろうか。それなら私にとっては、大きな問題だ。


 浮気については、百歩譲っていいとすることもできる。

 王太子としての役目を忘れないというなら、多少は見逃しても良い。

 しかし彼女に必要以上に入れ込んでいるとなると、話は別だ。いざという時になってから、彼女の方を優先されたりしたら、溜まったものではない。


「まずはアヴェルド殿下の真意を聞かなければならないわね……」


 この場に出て行って彼を糾弾することは可能だ。

 しかし、それで王家との婚約が壊れてしまったら大変である。私はあくまでも慎重に、ことにあたらなければならない。

 故にここは、とりあえず成り行きを見守っておくことにした。こうして私は、アヴェルド殿下とネメルナ嬢が親しそうに話すのを見守るのだった。




◇◇◇




「アヴェルド殿下、少しよろしいでしょうか?」

「リルティア? どうかしたのかい?」


 ネメルナ嬢との会話が終わったアヴェルド殿下の元を、私は訪ねていた。

 彼はいつも通りの紳士的な笑みを浮かべながら、私を快く受け入れてくれている。


 それだけ見ていれば、好青年にしか見えない。だが、実際は婚約者がいる身でありながら、他の女性と関係を持っている。

 なんというか、あの一瞬の出来事で彼に対する信頼というものは、なくなっていた。


「ネメルナ嬢という令嬢のことを聞きたいのです」

「……何?」


 回りくどいことは嫌いだったため、私はすぐに本題を切り出すことにした。

 それに対して、アヴェルド殿下は目を丸めて驚いている。私の存在など、まったく気付いていなかったということだろう。

 しかしそれはなんとも、愚かな考え方である。私がいる王城で浮気相手と会ったりしたら、バレる可能性だってあるだろう。


「……僕には何のことだか」

「隠さなくても結構ですよ」


 アヴェルド殿下は、私の質問を誤魔化そうとした。

 それは、当然といえば当然のことではある。しかし、同時に無駄なことでもあるだろう。私が名前を出した時点で、誤魔化せる段階などは終わっているのだから。


「別に、浮気を咎めようと思っている訳ではないのです。まあもちろん良いことではありませんが、しかしあなたがどうしてもそうしたいというなら、許容しても良いとは思っています。問題は浮気相手にどこまで入れ込んでいるか、ということです」

「な、何?」

「その浮気相手を、私よりも優先されたら困ると言っているんです。例えば、彼女との間に子供を作るなどという愚行などを、犯すつもりではありませんか?」


 私はあくまで、淡々と言葉を述べていく。

 ここで求められているのは、きっとそういう会話であるだろう。

 ただアヴェルド殿下は、明らかに気を悪くしているように見える。これでも私は、結構譲歩している方だと思うのだが。


「私達の婚約というものは、王家とエリトン侯爵家との間の契約であるということを忘れないでいただきたい所です。私達には、責任があるのですよ?」

「……そんなことは、わかっているとも」

「失礼ながら、わかっているなら他の令嬢との関係なんて断ち切るはずです。私との婚約が成立する前から付き合いがあったのかもしれませんが、遊びなら遊びと割り切れるようにしてください。それが私の求めていることです」


 私は言葉を発しながら、アヴェルド殿下の様子を伺っていた。

 彼は、私に対して鋭い視線を向けている。私の言うことが、気に食わないということだろう。

 やはり彼は、本気ということなのだろうか。私を排除し、あのネメルナ嬢と結ばれたい。そう思っているのかもしれない。


「……君はいつもそうだな?」

「はい?」

「君はいつも合理的だ。冷たいくらいにね」


 私から言葉を受けていたアヴェルド殿下は、少しの沈黙を挟んだ後にそう言ってきた。

 彼はどうやら、かなり怒っているようだ。浮気の話をされたのが、そんなに嫌だったということだろうか。

 しかしそれは、はっきりと言って逆ギレでしかない。そもそも浮気したのが、悪いと思うのだが。


「確かに僕は、ネメルナと関係を持っている。彼女とは君との婚約が決まるずっと前から付き合いがあった。もちろん、恋愛的な意味での付き合いだ」


 アヴェルド殿下は、こちらを少し軽蔑するような瞳で見つめてきた。

 浮気したのは彼であるというのに、どうして私がそのような目を向けられるのかは、正直よくわからない。

 ただ納得はできなくても、理解することはできる。私もアヴェルド殿下が言う程合理的な人間ではない。彼の怒りも、理解しているつもりだ。


「ネメルナは素敵な女性だったよ。ただ、彼女はオーバル子爵家の令嬢だ。父上はそんな彼女を僕の婚約者としては認めてくれないだろう。だから僕は、婚約の話などを出そうとは思っていなかった。それは彼女だって、理解していると思っていた」


 国王様は寛大な方ではあるが、次期国王であるアヴェルド殿下の妻には、それなりの格を求めていることだろう。貴族であっても、最低でも伯爵家くらいまでしか認めないはずだ。

 そういう意味で、ネメルナ嬢はアヴェルド殿下と婚約することができなかった。それはともすれば、悲しいことかもしれない。

 ただ、それは私には関係がないことである。そういった恋愛的な情などは、今回の件では捨てて欲しい所である。


「アヴェルド殿下、私はあなたとネメルナ嬢の関係を容認しても構わないとは思っています。ただ、妾であるなら妾として扱ってください。それを彼女にも納得させてください。そうすることができないというなら、手を切るしかありません」

「……そんな簡単な話ではないんだよ」

「それなら、国王様に談判するしかないでしょうね。私との婚約を取り消して、ネメルナ嬢と婚約できるように説得すれば良いではありませんか」

「それができないから、困っているんだ!」


 私は、アヴェルド殿下の中途半端な態度に少しイラついていた。

 彼女を妾とすることもできない、関係を断ち切ることができない、正妻として迎え入れることもできない。先程から彼は、そうやってはぐらかしてばかりだ。

 王太子であるならば、もっと決断力を持ってもらいたいものである。何も決められない彼に、王位など渡して大丈夫なのだろうか。私は少し不安になっていた。

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