表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異変部  作者: yuyu
1/8

第1話 幽霊ピアノ (上)

連日降り続いた雨のせいで、校舎の周囲は湿気でぬかるみ、廊下のタイルも踏むたびにきゅっと水音を立てた。

午後三時過ぎ、薄曇りの空から差す西日が、水たまりの表面にわずかな光の帯を描く。透は鞄の重さと同じくらいの気怠さを肩に引っ掛け、部室棟の階段をのぼった。


桐原透は、鞄の重さと同じくらいの気怠さを肩に引っ掛けて、部室棟の階段をのぼった。

――行かなくても死なない。けど行かないと後で面倒。

現実主義はときどき、面倒の最小化という名目で自分を動かす。

ただ、それ以上の目的は見つからない。最近は特に。


部室のドアを開けると、整頓された机、窓の近くの観葉植物、そして白石紗月がいた。

背筋がまっすぐで、身体がやけに凛として見えるのは、余計な動きが一切ないからだろう。


「来てくれたのね、桐原くん」


「“来てくれた”って、呼び出したのは部長でしょ」


「依頼したの。異変部はボランティア精神で動く部だから」


ボランティア、という言葉に透は目を細める。無償労働の香りがする。


紗月が一枚のメモを差し出した。


昨日午後四時、音楽室でピアノの音

生徒三人が同時に“きらきら星”を聞いた

音楽室は放課後施錠済み


「三人」が線で強調されている。紗月の字は、几帳面で迷いがない。


「流行の怪談でしょ。誰かが“きらきら星”を鼻歌で歌って、それがたまたま音楽室で聴こえたようにみえたってだけ」


現実主義の初手は、だいたい“そんなもん”。

けれど紗月は、唇にうっすら笑みを宿したまま首を横に振った。


「三人は別々の場所で、同じタイミングで“同じフレーズ”を聞いているの。偶然が三回重なる確率って高くない」


「確率は低いけど、ゼロじゃない」


「じゃあ仮説を三つ。①侵入者、②自動演奏、③環境要因による自然発音。どれから潰す?」


理屈好きの目が、楽しくて仕方ないと光った。透は心の中でため息をつく。

噛み合わない歯車が、いま回り始めた音がした。


「侵入者から。現実はたいてい人為的に

⸻」


その時、ドアが勢いよく開いて、青木蓮が顔を出した。


「やっほー! 幽霊が“きらきら星”弾いたってマジ? ねえ、僕も幽霊と連弾してみたい!」


「青木くん、落ち着いて。幽霊ではなく人間と合わせる練習をしましょう」


紗月が即切り返す。


続いて椎名優香がスマホを振りながら入ってくる。


「きたきた。“#幽霊ピアノ”で校内SNSバズってる。しかも“施錠済みなのに鳴った”ってのが胡散臭い──あ、良い意味でね」


「良い意味で胡散臭いって何」


透は眉を寄せた。


「じゃ、現場を見よう。そんで会議と解決も現場で終わらせる」


「よっぽどの自信家のようね 向かいましょ」


紗月の声は柔らかいのに、決定事項みたいに人を動かす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ