新婚旅行に親友を連れていった夫を捨て、弟君と幸せになりました
― マリーアと旅行に行ってくる。愛の新婚旅行だ。お前は適当に過ごしてくれ -
ゾフィアはため息をついた。
アレントスと結婚したのはマリーアではない。ゾフィアだ。
アレントスは、ゾフィアの親友マリーアと、王立学園で付き合っていた。ゾフィアと婚約中であるにも関わらずである。
アレントス・サラディス伯爵令息と、ゾフィア・マリド伯爵令嬢である二人は婚約した。
ゾフィアの幼馴染で、マリーア・カルド伯爵令嬢がいる。
ゾフィアがほっそりした黒髪碧眼であるに比べてマリーアは、金髪碧眼で肉感的な美人だ。
マリーアもゾフィアと親友であるにも関わらず、アレントスと堂々と付き合っていた。
ゾフィアに向かって、マリーアは、
「わたくしが婚約したかったのに、ゾフィアが婚約してしまうのですもの。アレントスはとても綺麗でわたくし達は付き合っていましたのに。でも、わたくしはアレントスが好き。付き合い続けるわ」
付き合っていたのはマリーアが先である。ゾフィアとアレントスが婚約する前から二人は付き合っていた。
アレントスは金髪碧眼の美男で、マリーアとお似合いだ。
しかし、貴族の結婚は政略が絡んでくる。カルド伯爵家と結ぶより、ゾフィアの家のマリド伯爵家と関係を持ちたいと願ったのは、アレントスの家のサラディス伯爵家だ。
だから、婚約を1年前に結んだ。
婚約したのだから、自分を大切にしてほしい。マリーアと別れて欲しい。
そう何度も言った。
「わたくしと貴方は婚約したのです。マリーアと別れてわたくしを大事にして。わたくし達は結婚するのですから」
しかし、アレントスは、
「私はマリーアと付き合っている。我が父が勝手に君との婚約を決めたんだ。私はマリーアと付き合い続ける。君とは政略だから仕方なく婚約を続けてあげるよ」
イラついた。マリーアもマリーアだ。
アレントスと堂々と付き合い続けた。
誰が婚約者だ?皆がそう言う程、アレントスとマリーアはイチャイチャと王立学園で付き合い続ける。
ゾフィアはマリーアと親友付き合いをやめようと思った。
でも、マリーアは、
「貴方とわたくしは幼い頃からの付き合いよね。ずっと親友よね?」
図々しくそう言って親友であることを公言していた。
ゾフィアは嫌だった。マリーアと付き合い続けたくなかった。
距離を取ろうとしてもマリーアは付きまとってくる。
そして、アレントスを連れて見せびらかすのだ。
「わたくし、アレントスと愛し合っているの。将来、貴方とアレントスが結婚しようが、ずっとアレントスの傍にいるわ」
愛人にでもなるつもりなのか?マリーアも婚約者がいるはずだが、さっさと婚約解消をしてしまったようだ。
アレントスはわたくしの婚約者なのよ。何で、貴方は諦めないのよ。
そう叫びたかった。
でも、気が弱くて言えない。
アレントスの事を愛している?ええ、だって、彼はとても素敵なのですもの。
マリーアと付き合っていると知っていたけれども、婚約話が出た時は嬉しかった。
マリーアはいつも自慢していたから。
アレントスに素敵な花を貰ったのよ。アレントスに素敵なアクセサリーをプレゼントされたのよって。
わたくしだって、素敵な婚約者からプレゼントを貰いたい。
アレントスがわたくしの婚約者になったのなら、きっと素敵なプレゼントを贈ってくれる。
そう信じてくれたのに。
ちっとも大事にしてもらえない。ずっとマリーアと付き合い続けている。
何で?わたくしは婚約者なのよ。
婚約破棄はしたくなかった。
だってアレントスはとても美しくて、素敵で、顔を見るだけでうっとりして。
だからプレゼントはこちらからあげた。
彼が喜びそうな焼き菓子を王都の有名店で手に入るように手配して、王立学園で渡したら、アレントスは、
「有難う。ここの菓子、好きなんだ。マリーアと食べるよ」
と言って持って行ってしまった。
わたくしと食べてよ。わたくしが貴方にプレゼントしたのよ。
涙が零れる。
そんな学生時代も過ぎて、卒業と共に結婚した。
王都の教会で大勢の貴族を呼んで結婚式を挙げたのに。
アレントスは新婚旅行だと言ってマリーアと共に出かけてしまった。
一人、王都の新居で残されたゾフィア。
ゾフィアは初夜を迎えるはずだった寝室のベッドに腰かけて思った。
ずっと、このような関係が続くの?
結婚してもマリーアと付き合い続けて。わたくしはないがしろにされて。
あまりにも悲しすぎる。
翌日、サラディス伯爵夫妻が朝食の席で謝って来た。
「アレントスが申し訳ない。マリーアと別れるように何度も言っているのだが」
「本当にごめんなさい。どうしてもマリド伯爵家と縁続きになりたかったので、婚約破棄を言い出されない限り、結婚を進めてしまったわ」
アレントスには弟がいる。
ルシェルだ。
ルシェルは歳は14歳。アレントスやゾフィアより、4つ年下である。
ルシェルはゾフィアに向かって、
「あんな兄上を追い出して、僕がこの家を継げばいいんだ。義姉上を泣かせるなんて、兄上はどうしようもない」
そしてゾフィアの傍まで行って手を取って、
「義姉上。僕はまだ14歳で結婚出来る歳ではありません。でも、義姉上を泣かせる兄は許せない。どうか僕と、いえ、私と婚約してくれませんか?家と家の関係でどうしても我が伯爵家はマリド伯爵家と縁を繋ぎたい。私は貴方の事を絶対に泣かせない。後、4年待って下さい。立派な男になりますから」
ルシェルの事はあまりよく知らない。何度か伯爵家に来た時に一度、紹介されてちらっと見かけた程度だ。
ゾフィアの家のマリド伯爵家だって事業の関係で、サラディス伯爵家と繋がりたい。ゾフィアは頷いた。
「わたくしは構いませんわ。ルシェルが望むなら4年、待ちます。この家で暮らして構わないでしょうか?ルシェルと結婚した時に、サラディス伯爵家の為に役立てるように準備をしていきたいと思いますわ」
本人の承諾が無くても両親の承諾があれば離縁は出来る。
アレントスと離縁をして、ルシェルと改めて婚約を結んだ。マリド伯爵家の両親に手紙で知らせたが、相手が弟に変わったところで縁が結べればいいと返事が来た。
派手に結婚式を挙げてしまったので、招待客には事情を知らせる手紙を謝罪の品と共に贈った。
ゾフィアはルシェルの婚約者として、サラディス伯爵家で暮らすことになった。
サラディス伯爵夫人に屋敷の事を教わりながら、ルシェルと親交を深める。
ルシェルは王立学園に通って勉強中だ。
ルシェルは学園から帰ってくると、ゾフィアに抱き着いて。
「ああ、ゾフィアの匂いだ。ゾフィアの香りだ。いいにおいがする。幸せだな」
と言って甘えてくる。
とても可愛くて可愛くて。
プレゼントも、美味しい王都の流行のケーキや、菓子を買ってきて、ゾフィアや伯爵夫妻と共に食べて、仲良く過ごす。
なんて幸せなんでしょう。
ゾフィアはルシェルと共に、テラスで先行きの事を沢山、話をする。
ルシェルはケーキを食べながら、
「僕は、いえ、私はゾフィアを幸せに絶対にします。こんな綺麗な人を、こんな優しい人を泣かせる事は絶対にしません。だから、ゾフィア。私の事を愛してくれるかな?」
大きな目で甘えるように言われると、ゾフィアはドキッとする。
「ええ、可愛いルシェル。貴方の事を愛しますわ。結婚するのが今から楽しみ」
「ああ、愛しいゾフィアっ」
立ち上がって抱き着いてきた。
本当に可愛くて愛しくて、ゾフィアは幸せを感じた。
一月後、新婚旅行だと言って出かけていたアレントスがマリーアと共に帰って来た。
しかし、ルシェルが門の前に立ちはだかり、アレントス達を屋敷の中に入れなかった。
「兄上は廃籍されました。この家から出て行って下さい」
「何だと?私が廃籍?あり得ない。父上母上はどうした?ゾフィアは?」
「父上母上も承知しております。ゾフィアは私の婚約者になりました。だから、兄上、サラディス伯爵家の事はご心配なく。愛するマリーア嬢と幸せにどことなりとも行って暮らして下さい」
マリーアが怒り出す。
「わたくし、家を追い出されているのよ。婚約者のいる男に付き纏っているからって。行くところないわ。入れなさいよ。ここはわたくしとアレントスの家よ」
ゾフィアはその様子を見て頭に来た。
だから、門の前まで出て行って言ってやった。
「あら、おかえりなさい。そして、さようなら。わたくしはルシェルと結婚することになっているわ。アレントスとマリーア、貴方達が戻る家ではありません。どこへなりとも行って下さいな」
アレントスが慌てたように、
「すまなかった。私が悪かった。だから家に入れておくれ。私とゾフィアは結婚したよな?」
「離縁は成立しています。聞こえなかったのかしら?わたくしはルシェルと結婚するって言いましたわ」
「行くところがないんだ。金も使い果たしてしまった。だから、どうかっ」
ルシェルがゾフィアの手を取って、
「戻りましょう。これ以上、馬鹿達の相手をする必要はありませんよ」
「そうですわね」
門の前で喚き続けている二人を、街の衛兵に通報しておいた。
二人は連れて行かれた。
どうなろうと知った事ではない。
愛しいルシェルと過ごせる未来をゾフィアは楽しみに思うのであった。
後に、衛兵に連行されて牢に入れられ、出されてすぐ、アレントスは行方不明になったと聞いた。
マリーアは二年程、娼館で働いていたらしい。その後、姿を見かけなくなった。身請けされたか、亡くなったのか定かではない。
4年後にゾフィアはルシェルと結婚した。
二人の間には3人の男の子に恵まれて、幸せに生涯過ごした。
ゾフィアは思う。
ルシェルが結婚してくれなかったら、ずっと自分はアレントスとマリーアに踏みつけにされながら生きなければならなかった。
三人の子供達と、庭で楽しく遊ぶ夫ルシェルを見ながら、ゾフィアは改めて幸せに浸るのであった。
とある変…辺境騎士団のムキムキ達
釈放されたアレントスとマリーア。
「なんだ?お前達は。その馬車は?」
「わたくし達に何の用よ」
「街の衛兵達から連絡があった。賄賂を渡しておいた甲斐があった」
「屑の美男をしっかり拉致」
「女は知らん。我らの管轄ではない」
「さぁ、行くぞ。我らが辺境騎士団へ」