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おやすみ、灰かぶりの眠り姫。  作者: 彩白 莱灯
本音を隠しながら縮む距離は、罪悪感と反比例する。
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第6話

 学校で物思いに耽る。そんなことは特段珍しくもない。珍しさで言えば、普段は勉強で悩んでいる俺が、今に限っては女性関係で悩んでいる。



「はぁ……」



 夜の辛城と出会ってから三日後。未だにあの日のことが思い出されて、胸を掻き毟りたくなる。一人で抱えるには少し重い。しかし誰かと分け合うにしても、誰に話したらいいのか。

 友人? 辛城は同じ学校の同じクラスだ。迂闊には話せない。受験前だし、話す内容に少し気を遣う。そもそも、辛城のことだと明言は避けるにしても、近しい人間に話すのは気が引ける。

 というか。そんな話をできるほどの友達がいるのかというレベル。たとえ話せるほどの仲だったとしても、それはそれで負担になりたくない。

 学校の先生? 指導されて終わり。そんな話をできるほどの仲でもない。

 塾の仲間? 受験を前にして何をしているんだと。それこそ話せない。勉強以外の話は全て雑談。雑談している暇があるなら勉強するという人間たちばかり。

 親? ……一番ない。

 兄姉? ……姉なら話せるかもしれない。けど、あの人は家に帰ってくることも少ない。帰ってくる日がわかっていることもない。兄は……出来の悪い自分とは、違うから。



「はぁ……」



 結局、自分の中に留めるしかない。留めて、考えないように別のことに没頭する。

 けれど、そのおかげか、勉強は妙に捗る。夜の辛城が昼の辛城と同一人物だとわかったおかげで、少しすっきりした気分。

 そしてその、昼の辛城は。あの日のことがあってから、休み続けている。



「次の問題を、この一列の人……一人休みで五人ですね。一つずつ解いてください」



 数学の授業。先生は大雑把に生徒を指名し、黒板に回答を書かせる。指定された一列の生徒たちは気だるげに立ち上がり、先頭から一問ずつ、特定の問題に向き合う。先生は教室の後ろの方から教室を見渡している。

 辛城の席より後ろにいる俺は、みんなが黒板で解かされている間、使い主のいない机を見る。机の中の、ノートか教科書かわからない本は切り刻まれている。隙間にはゴミが詰め込まれている。なんか、垂れてる。

 いつも通りの光景。教室の中を見回る先生たちも気付いているだろう。クラスメイトも。俺も。けれど、誰も指摘しない。何もしない。

 吐き気しかしない。



「はい。全員回答終わりましたね。一人ずつ見ていきます」



 回答を終えた生徒が戻ってくる。入れ違いに黒板付近に寄った先生が、黒板に書いた回答を一人ずつ、公開処刑していく先生。



「うん。皆できています」



 気分が暗くなる。自分のノートは二つ、バツ。単純な計算ミス。なぜこんな間違いをしたのか。ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟る。



 ―― ……上手くいかない。



 チャイムが鳴る。先生は宿題だと黒板を汚して教室を出た。

 次の授業も教室だ。教科書を入れ替えて、気持ちを切り替える。



「この前、別の模試を受けたんだよ」

「ん、おお」



 前の奴が振り向いてくる。外部の模試の話か。



「そしたらまた最高記録行ってよー。志望校変えようかと思ってんだわ」



 ―― ……へー。



「いいじゃん。まだ時間あるし、とりあえず上を目指せるなら目指すべきじゃね?」

「だよね!! やってやるぜ!」



 ―― ああ、いいなぁ……。



 なんで。

 なんで俺は穴ができるほど足踏み状態なのに、コイツや他の奴は上手くいってるんだろう。俺だって頑張っていないわけじゃないのに。なんで自分以外の奴ばかりうまくいってるんだ。なんで報われてるんだ。どうすれば報われる。結果ってなんだなんでできるんだなんでそんな幸せそうなんだ。



 ―― ……いいなぁ……。



 ・♢・



 部活の号令が聞こえる。暑い中ご苦労様です。

 教室に誰もいない状態で、頬杖をつきながら西日を浴びる。今の時期は暑いはずなのに、頭も体も、心も冷めている。ホームルームが終わって、何時間過ぎたのか。

 今日は塾だ。いや、塾だった。今から行っても遅刻だ。



 ―― あぁ……、どうしよう。



 焦ってはいない。思うだけ。つまり「どうしよう」じゃなくて、「こうしようかな」。ほぼ決まっている。



「少し、やるか」



 全く何もせずぼーっとしているのは……さすがになんだかなぁ、という。その程度。

 塾に行くつもりで持ってきていたルーズリーフ一枚と、数学の問題集を開いた。

 数学はいいな。どんな方法でさえ、計算さえ合っていれば、決まった答えに辿り着くから。



 ・♢・


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