099「業が深そうな別嬪さん——『如月 柑奈』登場(1)」
「初めまして、結城タケル君。私は如月 柑奈という者だ」
「は、初めまして⋯⋯結城タケルです」
いや〜、それにしても、エラい別嬪さんやなぁ〜⋯⋯と関西弁が出るくらいには別嬪さんである。しかし、何というか、少し怪しさというか、只者ではない雰囲気をビシビシ感じる。
ていうか、マジ何者⋯⋯って人、ここ多くない?
「あ! 如月さん!」
佐川がちょうど目を覚ますと、入ってきたこの『如月 柑奈』さんを見るや否や、満面の笑みで声をかけた。いや、佐川の顔がキラキラしてるんだけど! ど、どゆことぉぉ⋯⋯!?
「ん? どうした、佐川君? なんだか少し疲れているような⋯⋯?」
「あ、いえ、ちょっと⋯⋯。で、でも、大丈夫です!」
「ふ〜ん、そう」
というやり取りをすると、今度はその如月さんが⋯⋯俺の横に座った。
「⋯⋯え? ええええっ!?」
「ちょっ! か、柑奈さんっ?!」
「まぁまぁ、いいじゃないか。私だって、たまには若い子のエキスをもらいたいときもあるんだよ〜」
「それ、おっさんの発想!」
「はっはっは。まぁ否定はしない」
「してよ!」
などと、如月さんと理恵たんの気さくなやり取りを見て、俺は思わず、
「え〜と⋯⋯理恵た⋯⋯理恵さんの⋯⋯お姉さんですか?」
と口走っていた。すると、
「! あははは⋯⋯ううん、違うよ。でもまぁ、そんな感じの関係かな? そうだよね、お嬢?」
「! ま、まぁ⋯⋯」
あ、理恵たんの顔がカァァとすごく赤くなった。姉妹ではないけどそれに近いくらいに仲良しってことなのかな?
「私はこの雨宮バリューテクノロジーで働いている研究者だ。職場はこのビルの地下になる。それで、さっきお嬢の親父さんから噂の君が来ていると連絡が入ってね。それで挨拶に来たってわけさ」
「な、なるほど。ていうか噂って⋯⋯理恵さんは家族や如月さんたちに俺の何を話しているんですか?」
「あ⋯⋯!」
「!」
すると、理恵たんの顔が少し青くなったように見えた。⋯⋯いや、気のせいか?
「はっはっは! タケル君、ダメだよ? 本人を目の前にそんな野暮なこと聞くのは」
「ちょ、ちょっと⋯⋯柑奈さんっ?!」
さっきの青い顔から一変⋯⋯今度は朱色に変わる理恵たん。情緒がだいぶ忙しい。ていうか、学校で『クールビューティー』の異名を持つ理恵たんにしては珍しい顔リアクション芸である。
しかし、そんな理恵たんの「あわわ⋯⋯」ぶりなど気にせず如月さんは話を続ける。
「いいかい、タケル君? わざわざ家に帰ってまで君の話をする⋯⋯それがどういうことかくらい⋯⋯わかるだろ?」
「っ!?」
ま、まさか⋯⋯!
まさか、理恵たんは⋯⋯俺のことがっ!?
い、いやいや落ち着け、俺。だって、理恵たんとは出会ったばかりだし⋯⋯たしかにあの交通事故で「命の恩人」て言ってくれたけど、でも、それで好きになるってそんなこと⋯⋯あるのか?
い、いやいやいやいや⋯⋯ないないない! だって、理恵たんは佐川と仲良しだし! さっきだって2人の『ラブコメ波動砲』を2発も食らったんだぞ?!
い、いやでも、ワンチャン⋯⋯あるのか?
いや待て⋯⋯落ち着け俺! と、とりあえず、この話は終わらせよう⋯⋯墓穴を掘りかねん!
「そ、そうですね⋯⋯あはははは」
「うんうん。わかってくれるか〜。いや、さすがお嬢の認めた男だけはあるよ!」
とりあえず、その話は双方ともにそこで終わらせる形となった。
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「さて、さっきの話⋯⋯というか、そんな話をしているということは、もしかして3人でクランを組むのかい?」
「ど、どうして、わかるんですか?!」
「それくらいわかるよ。さっきの話を聞いたら⋯⋯」
いや、まぁそうかもしれないけど⋯⋯この人すごいな。
などと感心していると、
「たりめーだろ! ていうか、タケル! この人が誰なのかわからないのかよ?!」
さっきまで『ラブコメ代償』で気を失っていた佐川がそんな煽り文句を放ってきた。
「この人はな、雨宮バリューテクノロジーの、あの『AMAMIYAシステム』を開発した天才科学者の如月 柑奈だ!」
と、自分事のように言い放つ佐川。うん、ちょっと気持ち悪い。
ただ、その佐川の説明を受けた俺は単純にビビる。さすがの俺でもその凄さはすぐにわかった。
「はっはっは、語弊があるよ、佐川君。私はあくまで開発者の一人だからね? 私だけで作ったわけじゃないから」
「い、いや、それでも、如月さんってすごい人なんですね⋯⋯」
それにしても、俺と変わらない歳の人が『AMAMIYAシステム』なんてすごいものを開発したとは⋯⋯。
でも、こんな有名人とこうして出会うことができるなんて⋯⋯正直、異世界に転移して帰ってきた今の人生じゃなければ絶対に会うことはなかっただろうなぁ⋯⋯などと俺はつい感慨に耽った。
そんな中、俺の横では理恵たんがこれまでの事情を如月さんに説明。すると、それを聞いた如月さんがすぐに話を始めたので俺の『感慨タイム』はすぐに終わりを告げる。
「つまり、タケル君たちはDストリーマー活動をする上で顔出しをするかどうかで迷っていると⋯⋯そういうことでいいかな?」
「「「はい」」」
「うん、そうだね。私が思うに顔出しはしたほうが⋯⋯絶対にいいと思うよ」
「え?」
「絶対⋯⋯に?」