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096「理恵たんパパン——『雨宮 貞徳』登場」



「⋯⋯到着いたしました」


 そう言って、小五郎さんがわざわざドアを開けて降ろしてくれた。ていうか、


「す、すげえ⋯⋯」


 降りたその場所は30階以上はあるデカいビルの入口で、表には『雨宮バリューテクノロジー本社』と書かれたおしゃれなでかい看板の前だった。


「これが雨宮バリューテクノロジーの本社⋯⋯え? ていうか、ここで降りるってことは、理恵たんはここに住んでいるの?」

「はい。あ、でも居住スペースは最上階になりますけど」


 と、さも当たり前の様子で説明してくれた。


 たしかに、考えてみりゃ雨宮バリューテクノロジーって世界的大企業だもんなぁ⋯⋯。これくらい普通なのか。とはいえ「理恵たんって凄い人なんだなぁ」と俺は改めて感心した。


「どうぞ、こちらです」


 俺たちは小五郎さんの案内で目の前のでっかいビルの正面から入っていく。すると、


「「「「「「おかえりなさいませ、お嬢様!」」」」」」


 いきなりエントランスに6人ほどの美人受付嬢さんたちがズラ〜っと横一列に並んで挨拶された。


「ちょ、ちょっと! 小五郎さん!?」


 理恵たんが小五郎さんに何やら苦言を呈そうとする⋯⋯が、


「理恵お嬢様の大事なお客人ということで如月様と貞徳様からのご指示です。何卒ご容赦を⋯⋯」

「そ、そんな〜⋯⋯」


 理恵たんが小五郎さんの言葉に膝が崩れ落ちる。何となくだが、この接待にも似た状況が過剰演出ということで理恵たんが訴えたのだろう。しかし、如月様? 貞徳様? という人からの指示でやっていることだから諦めてね、といったところか。


 それにしても、その『如月様』とか『貞徳様』って誰のことだろ? もしかしたら両親とかかな? でも、それだと『如月様』ってのは何者なんだろう?⋯⋯などと考えながら歩いていると気づけばエレベーターに乗っていた。


「うおおお、すげえ高ーい!」


 このビルのエレベーターは外が見える仕様となっており、そのためこのビル周辺の街を上から見下ろせる。ていうか、こうやって眼下を見やると改めてこの場所が一等地にあるという事実を突きつけられた。


 雨宮バリューテクノロジー⋯⋯おそるべし!


 チーン!


「⋯⋯こちら、最上階の居住スペースでございます」

「うお! こ、これって、家の中⋯⋯?!」


 エレベーターを出るとそこからいきなり居住空間になっていた。


「左様でございます。なので、こちらのスリッパをお使いくださいませ」


 と言って、小五郎さんがふわっふわの白い毛が豊富なスリッパを渡す。履いてみると「なんかすんごい高いスリッパだ〜」と、語彙力の無さが露見した言葉が漏れてしまった。


 くっ!? 佐川の奴、なに笑ってやがる! 殺す!(裏声発狂)



********************



「す、すごい、家だね⋯⋯」

「え? そ、そんな、普通ですよ、フツー」

「⋯⋯」


 俺は一通り家の中を案内してもらった。ていうか、執事の小五郎さんが率先して案内してくれたのだ。とはいえ、庶民の自分からすればこの空間すべてが別世界。興味しかないので、小五郎さんが率先して案内してくれたことにすごく感謝していた。


 そうして、一周した後はリビングに戻ってきた。目の前にはめちゃめちゃデカいテレビが壁に埋め込まれている。え? この液晶⋯⋯100インチくらいあるんじゃないの? それ壁に埋め込むとか凄すぎなんですが⋯⋯。


 さっきからずっと別世界の家の中であんぐりと口を開けた状態だったが、その後「飲み物どうぞ」といってジュースを渡され一口飲むと少し落ち着いた。


「ふぅ〜。いや〜ごめんね、理恵たん。ちょっと僕ら庶民とは違う空間に圧倒されて⋯⋯心ここに在らずでボーとしてしまったよ」

「い、いえ、そんなやめてください! 自由にくつろいでください!」

「は、はは⋯⋯なんとか頑張ってくつろいでみるよ」

「いや、くつろぐのを頑張るとかやること真逆じゃねーか」

「うっせー! さがえもん、うっせー!」


 俺と違って余裕ぶっこいてる佐川にとりあえず悪態をついていると、


「やあやあやあ、佐川君。それと⋯⋯結城タケル君」


 と、入口から50代くらいのダンディーイケメン、ただしちょっと強面(こわもて)おっさんが入ってきた。


「ちょっ!? お、お父さん⋯⋯!」

「「お、お父⋯⋯さんっ!?」」


 俺と佐川は理恵たんの言葉に一気に緊張が走った。


 え? え? もしかして「男がなんでウチに入ってきとるんじゃー!」とか言われるっ?!



********************



「初めまして、父の雨宮 貞徳(あまみや ていとく)です」

「は、初めまして⋯⋯! さ、佐川 卓といいます!」

「ゆ、結城タケルです!」


 やべっ!? 緊張のあまり、ちょっと高い声が出ちゃった!


「はっはっは、そんなに緊張しないでください。理恵からはいろいろと話は聞いてるよ。学校では理恵と仲良くしてもらっているようだね。父として嬉しいよ」

「〜〜〜〜(かぁぁ!)」


 理恵たんは終始顔を赤らめながら下を向いている。まーそりゃ恥ずかしいよなぁ。


「こ、こちらこそ! 理恵た⋯⋯理恵さんとは仲良くさせてもらってます!」

「うんうんうん、そうか、そうか。それで今日は⋯⋯ここへは何しに?」

「は、はい! え、えーと⋯⋯今度俺の⋯⋯あ、いえ、僕のダンジョン探索に彼と理恵さんと3人で行くことになりまして⋯⋯」

「何? ダンジョン探索を? 3人で? それはつまり⋯⋯クランを結成するということかい?」

「は、はい! 僕が探索者(シーカー)になったばかりでまだダンジョン探索をしたことがないので、それで、二人にお願いしてクランを結成しました!」

「何と⋯⋯そういうことだったのか。ふむ⋯⋯」

「?」


 すると、突然『理恵たんパパン』が右拳を顎につけ、考え事を始めた。


 え? もしかして、理恵たんとのクランは⋯⋯NGとか?!


「⋯⋯理恵」

「は、はい!」

「このことは如月君は知っているのかな?」

「い、いえ! 今日決まったことなので、後から報告しようと思って⋯⋯」

「ふむ、そうか。ならば、私が彼女に報告しよう。理恵はそのままタケル君たちと一緒に楽しんでいなさい」

「え? お父さん自ら柑奈さんに? そ、そんな、忙しいでしょう? 私がちゃんと後から報告⋯⋯」

「いや、大丈夫だ。時間はある。それにこれは『最優先事項』だからね」

「あ⋯⋯。は、はい、わかりました」


 ん? 最優先事項?


 え? 理恵たんパパン歓迎ムードな感じと思ってたんだけど⋯⋯やっぱ怒ってるのかな?


 ていうか、その『如月さん』て何者なんだろ?


「それじゃあ、ゆっくりしていってください。では、理恵⋯⋯またあとでな(・・・・・・)

「は、はい!」


 そう言って、理恵たんパパンはまたエレベーターの方へと去っていった。


 ひぇぇぇ⋯⋯緊張したぁぁ!


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