095「『結城タケル育成計画』——始動!」
「え? 今週末にダンジョンに行く?」
——記者会見から一週間経った月曜日の朝
ホームルーム前、俺は教室で佐川を見つけると開口一番そんな話をした。というのも、のじゃロリから世間が落ち着くまでしばらくは「オメガのDストリーマー活動を一旦止める」という話になったため、暇になったからである。
ただ、本来の俺⋯⋯『結城タケル』のDストリーマー活動がまったくできていなかったということもあったので「じゃあ、この待機期間は『新人F級探索者結城タケル』を育成していこう!」となった。
いや、なんか本人が『育成する』というのも変な話だが、しかし現在、俺は『オメガ』という『謎の凄腕探索者』というのを演じているのだが、正直そっちのほうが俺の素に近い状態なのだ。
しかし『新人F級探索者結城タケル』の場合だと、顔出ししていることもあり『オメガよりも低レベルの自分』を演じなければいけないため、余計に神経を使うのは必至。
ただ、そういった『縛りプレイでキャラを演じている』今、自分のことながら何だか『育成ゲーム』をしている感覚で少し楽しくなっている自分がいる。「オメガだとこう⋯⋯新人の結城タケルであればこう⋯⋯」みたいな。
ということで、俺は考えた⋯⋯「どうやって新人F級探索者結城タケルを育成しようか」と。
そして、熟考に熟考を重ねた結果——「クランを作って探索活動しよう!」ということになった。
理由としては、探索者として強くなるには魔物を倒しての『レベル上げ』が必要となるが、そのレベル上げは単体よりも仲間を組んで臨んだほうが効率的に成長しやすいためだ。
あと、それ以外にもう一つ理由があって、それは『ソロで強くなると目立ってしまう』ということで、その最たる例がオメガだ。
そんなわけで『結城タケル育成計画』は『クランを作っての探索活動』と相なった。
ということで⋯⋯、
「ということで、今週土曜日よろしくね、さがえもん!」
「いや、なんでぇ!?」
「だって、俺、F級探索者なったばかりじゃん?」
「そうだな」
「で、佐川もF級でしょ? ならダンジョン探索一緒にやろうず、って話。だって、単体よりもクラン作って動いたほうが効率的に強くなれるじゃん?」
「いや、まー⋯⋯たしかにそうだけどよ〜」
「ん? なんでそんなに躊躇ってんの?」
「いや、別に躊躇ってるというか⋯⋯」
あ! もしかして⋯⋯こいつ⋯⋯!?
「何? もしかして俺が新人だからって、足手まといだ、面倒くさいだとか⋯⋯そう思ってるな? 失敬な! 俺だって少しはできるし、すぐに佐川に追いつくっての!」
「い、いやいやいやいや⋯⋯!? それだけは絶対に思ってないからっ!!」
ん? なんか今、やけに『絶対』を強調した?
「え、えーと⋯⋯じゃあ、クラン組むのはOK?」
「あ、ああ、もちろん。あ、でもちょっと待っててくれ!」
「?」
そう言うと、佐川が急いで教室を出ていった。そして、しばらくすると雨宮⋯⋯理恵たんを連れて戻ってくる。
「じ、実はな⋯⋯前に雨宮がお前と一緒にダンジョン探索したいって言ってたのを思い出したから、声をかけに行ったんだよ!」
ふ〜ん⋯⋯佐川のくせにちょっと良い奴ムーブかましてくるじゃん。やるじゃん。
「あ、あの⋯⋯! できれば、わ、私も、一緒にクラン仲間としてダンジョン探索させてもらえませんか?!」
理恵たんが顔を紅潮させながら上目遣いでそう申し出た。
あああああ、可愛いなぁぁぁ!
「も、もちろん! D級探索者の理恵たんとクランになれるなんて⋯⋯こっちのほうからお願いって感じだよ! でも⋯⋯いいの?」
「も、もちろんです! こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして、俺と佐川と理恵たんでクランを結成することとなった。
********************
——放課後『校門前』
俺たち3人はクランを組むとなればいろいろと決める事があるよねということとなり、「それなら、どこかで会議をしよう!」という話になった。
いや〜、なんかこういうのってソロ活動では経験できないからすごく楽しいな〜。
そんなこんなで「じゃあ、どこでやる?」と校門前で話していると、
「それじゃあ、ぜひ、私の家でやりましょう!」
と、理恵たんが強めの口調で提案してきた。
「え? だ、大丈夫っ!? 男2人が女子の家に行くのって⋯⋯迷惑にならない?」
「大丈夫です! むしろ歓迎一択です!」
「え? 歓迎一択⋯⋯?」
「あ⋯⋯いえっ!? と、とにかく⋯⋯! ウチはそういうの問題ないので!」
「そ、そう? じゃ、じゃあ、お願いしていいかな?」
「はい、任せてください!」
と、理恵たんが元気な返事を返すと、すぐにスマホを取り出しどこかへ電話をかけだした。
「もしもし、如月さん? 今から⋯⋯うん⋯⋯一緒に結城君を連れて⋯⋯うん⋯⋯だから⋯⋯」
どうやら家に電話をしているようだ。まー、男2人が女子の家に行くんだ、親御さんに確認でもしているのかな? あ、でも、今『如月さん』って言ってけど⋯⋯。
あ、そうか! もしかしたらお手伝いさんとかかな? なんせ理恵たんは雨宮バリューテクノロジーの社長の娘さんだしな〜、お手伝いさんくらいいそうだよな〜⋯⋯などと考えていると、
「あ、あの⋯⋯今、家に電話したら学校に迎えに来させるって⋯⋯」
「ええっ?! そ、そんな⋯⋯悪いよ!」
「で、でも⋯⋯」
「え?」
キキィィィィィィーーー!!
「⋯⋯すぐに迎えるって」
バタン。
「お待たせいたしました。理恵お嬢様」
いや、ウソぉぉぉ!!!!
今、電話かけたばっかなのになんでこんな速いんだよぉぉ!
ていうか、何、この『いかにもできるセバスチャン風老執事』はっ!?
まるで異世界の貴族の執事じゃねーか!
てか、いたわ! こういうセバスチャン風老執事!
「それでは参りましょう。佐川様、そして⋯⋯結城タケル様」
「えっ?! お、俺の名前⋯⋯どうして?」
「理恵お嬢様から聞いております。極めて大事なお客人だと⋯⋯」
「ちょっ! こ、小五郎さん!? やめてください!」
いや、名前めっちゃ和風っ!?
いや、まぁ日本だからいいんだけど。でも、それにしても『小五郎』って『昭和テイスト』強めだな〜。
「⋯⋯失礼しました。では、早速参りましょう」
ということで、俺たちは『できる老執事小五郎さん』の華麗なるエスコートで車に乗りこむと、理恵たんの家へと向かった。