091「結城亜美の告白『嘘のような本当の話』(1)」
さて、次は『嘘のような本当の話』なのだが⋯⋯それは、実は現在の私の話である。
正直、その悩みは今も尽きない。ていうか⋯⋯、
今、実際に困ってるんですけどぉぉぉぉっ!?
「それで⋯⋯決心はつきましたか、亜美さん?」
「えっ!? あ、いえ⋯⋯そのぅ、まだですぅ⋯⋯」
私はその質問をしてきた人に思わず愛想笑いを浮かべながら返事をする。すると、
「なぜ? どうして悩む必要があります? 亜美さんは探索者として最速で強くなりたいのですよね? でしたら、わたくしソフィア・ナイトレイ自らがお教え差し上げますと言っているんですよ? 大丈夫、遠慮はいりません。なんせ私、『オメガ様ガチつよ勢』真の運営者ですから⋯⋯うふん!」
「は、ははは⋯⋯」
私は今⋯⋯世界探索者ギルド協会イギリス総本部副ギルドマスター『四天王キング』のソフィア・ナイトレイ様から「直接の弟子として亜美さんを個人指導したい!」と力強い口調と少し焦点がおぼつかない瞳で声をかけられていた。⋯⋯つまり、スカウトだ。
正直、現実に思考が追いついていない。
だって、探索者世界ランキングのナンバー2⋯⋯『四天王キング』のソフィア・ナイトレイ様だよ! その人が私の目の前にいて「弟子にしたい!」だなんて⋯⋯そんな世界線、現実味が無さすぎてゲシュタルト崩壊レベルで訳わかんないよ!
しかも、最悪なことに(あ、いや、外から見れば羨ましがられると思うけど)、スカウトは一人ではなかった。
「ソフィアお姉ちゃん、その強権発動はどうかと思うよ? あ、ボクはエレーナ・ツヴァイコフ。『三賢人』のリーダーをやってるよ。え? 知ってる? 嬉しいなぁ! ボクも亜美ちゃんのこと知ってるよ! だって、オメガ様の妹ちゃんだからね、ちゃんと何でも知ってるよ! だって、亜美ちゃんはゆくゆくはボクの『義妹』になるわけだからね。というわけで、ここは『未来の義理の姉』であるボクが直接指導するのが『筋』だと思うんだよね。亜美ちゃんもそう思うでしょ? 思うよねぇ?」
めちゃめちゃにはちゃめちゃなことを喋りまくるその人は⋯⋯あの『三賢人』のリーダー、エレーナ・ツヴァイコフ。探索者世界ランキング第6位⋯⋯『ナンバー6』や『男の娘神』と呼ばれる超有名人だ。
どうやら彼女(彼?)の中では、タケル兄ぃと結婚する未来が確定しているようで、その結果、義理の妹となる私の指導はぜひ親族(予定)のボクが⋯⋯という話になっているらしい。
あれ? 日本で男同士の婚姻って認められているんだっけ?
いやいや、違う違う。これはそういう話ではない。
ていうか、タケル兄ぃとそもそもどういう関係なのだろう?
というのも、タケル兄ぃが私たち家族に『オメガが自分であること』を告白した日からずっと会えていない。
だから、その後にやってきたソフィアさんやエレーナちゃん(本人からそう呼んでと言われた)たちとタケル兄ぃの関係性がよくわかっていないのだ。
櫻子様の話だと「ただのダンジョンの調査じゃ。な〜に、すぐに帰ってくる」と言ってたけど、あれから3日経っている。「タケル兄ぃが探索で1日以上家に帰ってこないなんて初めてだから心配です」と櫻子様に伝えると、「ちょっと待っておれ。もしもーしタケルか? お主の妹が心配しておるぞ⋯⋯」とタケル兄ぃに電話をかけているようだった。
すぐさま私は櫻子様と替わって話をした。電話の相手はたしかにタケル兄ぃだった。
久しぶりのタケル兄ぃだったので『タケル兄ぃ成分摂取』のため「テレビ電話で話して」と頼む。するとタケル兄ぃは快諾してすぐにテレビ電話に切り替えてくれた。
テレビ電話に映るタケル兄ぃはたしかにタケル兄ぃで間違いない⋯⋯が、何だろう? 少し違和感を感じる。とはいえ、そんなことを特には伝えることなく話を進めた。
私の話が一段落すると今度はタケル兄ぃから「母さんには5日以内には戻ると伝えてくれ。あと、こっちは心配ないってことも言っておいてくれよ」と伝言を頼まれたので肯定の返事をして電話を終えた。
何とも言えない違和感を感じつつも、でもタケル兄ぃが無事であることを確認できたので私はホッとした。
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——少し脱線したので話を戻そう。
そんなタケル兄ぃがいなくなった後、入れ替わる形でソフィア様とエレーナちゃんが日本へ⋯⋯新宿御苑ギルドへやってきた。
そして、どこから聞いたのか二人は『タケル兄ぃがオメガ』であることを知っていて、さらには私がタケル兄ぃの妹であることも知っていた。
私はそれを聞いて驚いたのだが、しかし櫻子様は驚いていなかったのでおそらく櫻子様には話が通っていたのだろう。
いや、櫻子様! それ当事者の私にも教えて欲しかったんですけどぉぉ!
ちなみに、私はまだ探索者にはなっていない。つまり、登録証も持っていない。⋯⋯にも関わらず、私はほぼ毎日櫻子様のいる新宿御苑ギルドのギルマス部屋に通っていた。
どうしてそうなったのか櫻子様に理由を聞くと「探索者になるための特訓じゃ。ワシが直接指導してやるのじゃ!」ということで、櫻子様の直接指導を受ける日々を送っていた。
正直、探索者を目指す私にとって、櫻子様は『天上人』のような存在だ。そんな人に直接指導されるのは信じられないほどの幸運であることは間違いない。
ただ、個人的には少し『過保護』な感じも見受けられた。つまり何が言いたいかというと、
「私がここに通うことになった本当の理由は⋯⋯別にあるのでは?」
ということ。