090「結城亜美の告白『私の犯した罪』(2)」
そんな『オメガ』なる不審者を観た衝撃で、私の脳裏からタケル兄ぃの探索者の件は一瞬にして忘我の彼方へ吹き飛んでいった。無理もないだろう。
ちなみに横のいる由美もまた呆然としている。無理もない。
そんな私がオメガの配信を食い入るように観ていると、ある異変に気づく。
というのも、どうやらこのオメガという探索者⋯⋯チャット欄にコメントが入っているのにまるで気づいていない様子。そのため彼は特にチャット欄のコメントに反応することなく、ただ黙々と探索活動を続けていた。
そんな、探索活動を黙々とこなす彼を観て、
「え? な、何なの、こいつ⋯⋯? 魔物を⋯⋯素手で破裂させてるんですけど! ていうか、破裂ってなにっ!?」
と、目の前の配信映像に映る意味不明な光景に私と由美はただただ呆然となる。
しかも、チャット欄の人たちが「オークが出る森林地帯ってことは20〜29階層の『中層』あたりか?」などとやり取りしているのを観て、
「な、なんで、中層の魔物をあんなに簡単に倒せるのよ!? このオメガって奴、本当に一体何者っ!?」
と、思わず叫んでしまった。
すると隣の由美が一瞬ビクッと驚いた様子を見せる。でも、由美本人も同じ感想だったようで、特に「うるさい!」と怒られることはなかった。⋯⋯ホッ。
そんな配信を観続けていると、ここで私はあることに気づく。
「待って⋯⋯? ということは、このオメガって奴⋯⋯もしかして『E級』もしくは『D級』の探索者なのでは?」
そう、中層は主にE級からD級の探索メインエリアだ。なので、そういう見解に達した⋯⋯のだが、
「いや、違う! E級もしくはD級ならばここまで魔物を圧倒するなんてできないはず。⋯⋯ってことは、もしかして、C級⋯⋯いやB級ってこと?」
と、すぐに見解を改め、私の中でオメガの探索者ランクは「CまたはB級」という予想となった。
しかし、そんな私の予想は、この後のオメガがチャット欄に気づき視聴者とやり取りする中で、大きな間違いであったことが判明する。
いや、それ以上に、オメガのその言葉に私は大きなショックを受けた。
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「はい、そうです。今日F級探索者の登録証もらってきました」
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「き、今日⋯⋯F級の探索者の登録証を⋯⋯もらった? そ、そんなバカなっ?!」
ありえない! 絶対にありえない!
だって、今こいつのいる場所って⋯⋯、
「新宿御苑ダンジョンの29階層⋯⋯中層最深部だよ?」
つまり、それは『階層ボス』がいる場所を意味する。
「な、何がどうなってるの⋯⋯? 本来、新人であるF級探索者は10階層までの上層付近で実力をつけて、それから少しずつ深度を下げていくんじゃないの? だって、そうしないと命に関わるから。で、でも、それなのに、このオメガは⋯⋯F級になって初めての探索で29階層まで来ているだなんて⋯⋯どう考えたっておかしいよっ?!」
私は由美が隣にいるにも関わらず、そんなのお構いなしにひとり言をぶつぶつと呟く。それほど余裕がなかった。
正直、この時の私はこのオメガのデタラメさにむかついていた。
そんな時だった。
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:あーなるほど。これ、CGで仕上げた配信風ニセ映像だわwww
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と、チャット欄にそんなコメントが書き込まれた。
すると、そのコメントに多くの人たちが賛同していく。
そして、それを観た当時の私は「そ、そうなんだ。やっぱそうだよね! こんなのありえないもの!」とその意見に賛同。
ただ、隣に由美がいたことと由美は「こいつら何もわかってない! これがCG映像なわけないじゃん!」と憤慨していたというのもあって、その場では私の本心は隠し、
「そうだよね。この人が嘘を言っているようには見えないもんね」
などと、由美に合わせるようなセリフを吐いていた。
そうして、配信が終わり由美が部屋を出て行ったあと、私はすぐに配信のチャット欄にコメントを書こうとした。しかし、その頃にはオメガが配信のチャット機能をオフにしてしまっていたのでコメントを書くことはできなかった。
しかし、私はこの時ピンと来て、すぐに『Dストリーマー掲示板』へと移動。すると予想通り、そこでは『CGニセモノ野郎勢』と『オメガ様ガチつよ勢』が言い争いを繰り広げていた。
そうして、当時の私は当然『CGニセモノ野郎勢』として書き込みをした。
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82:Dストリーマー名無し
オメガの配信動画はやっぱりCGだと思う。
だって、F級探索者の登録証をもらったばかりの人が
その日に29階層まで行くだなんてありえない!
278:Dストリーマー名無し
逆に、CGじゃないなら
オメガは世界一の探索者ってことになる
だって、29階層の階層ボス『レッドオーク』を素手で頭を破裂させたんだよ?
そんなF級探索者がいてたまるかって話!
384:Dストリーマー名無し
オメガの力がもしも本物なら誰も勝てないと思う
でも、そんなのありえない
だから結論、オメガはインチキCG野郎ってこと!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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その後⋯⋯新宿御苑ギルドから家に戻ってきたタケル兄ぃに、私は何食わぬ顔で、
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「だって、オメガさんが嘘をついているようには見えなかったもん!」
「それにね、私けっこう初めから観てたけど、あれがCGで作った映像だなんてあり得ないと思うし、それ以上にオメガさんは良い人だと思ったもん。あんな人の良い探索者さんがわざわざそんなことするとはどうしても思えない!」
「だから、私は由美の言葉を信じるし、そもそもそのオメガさんのことだって信じるもん!」
「だからね、タケル兄ぃ。もし、いつかそのオメガさんと会うことができたら言っといて! 私たちはオメガさんの無実を信じているからまたチャット機能を元に戻して視聴者とのやり取りを再開して欲しいって!
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などと言っていた。
ああああああああ⋯⋯ごめんなさぁぁぁい!
タケル兄ぃ、ごめんなさぁぁぁいっ!!!!
当時の私を『グーパンチ』で往復殴打したい。
ちなみに、『オメガの正体はタケル兄ぃ』という真実を知った今では、それは私の『黒歴史』となり、タケル兄ぃや妹の由美に何かとチクチク言われている。
はい、その節は本当にすみませんでした。⋯⋯ぐすん。
これが『私の犯した罪』のすべてである。
そして、次は『嘘のような本当の話』。