089「結城亜美の告白『私の犯した罪』(1)」
——これは、今より少し先のお話
私の名は『結城亜美』。
これから私は自分の犯した『罪』と『嘘のような本当の話』をしようと思う。
まずは『私の犯した罪』の話から。
私は結城家の長女で妹の由美とは双子だ。顔も双子なだけに似ているので、お気に入りのさくらんぼの髪留めを妹の由美とは非対称に留めている。ちなみに私は左だ。
一応、これは別に由美と仲が悪いとかそういうことではない。ただ双子だからって二人とも同じ格好というのには何となく抵抗があったのでそういう風にした⋯⋯ただそれだけだ。
まー『個性を出したい』という感じに近いと思う。それはたぶん由美も同じだろう。
そんな顔が似ている二人だが違うところもある。例えば身長は私の方が由美よりも10cm以上高く、私が165cmで由美が153くらいだったと思う。
でも⋯⋯でもである!
胸のサイズは妹の由美の方が、私よりもなんと、じゅ、10cm以上⋯⋯大きい!
身長は小さく可愛いサイズなのに胸は全然可愛いくないサイズだ!
「な、なんで、双子なのに⋯⋯ここまで違うのよぉぉぉ!!!!」
はっ!? 取り乱してしまった! いけない、いけない。
——閑話休題
さて私、結城亜美は自分で言うのもなんだがスポーツ万能だ。頭の方は⋯⋯ま、まあまあだ。
で、そんなスポーツ万能な私は今とても悩んでいる。何に悩んでいるか、それは⋯⋯『探索者』についてである。
みんなには今でも隠しているけど、実は私は今年の夏休みからずっと探索者になるかどうかずっと考えていた。
ちなみに「探索者になりたい」と最初に思ったのは小学5年生の時。その時にテレビでやっていた『ザ・プロフェッショナル〜仕事の矜持〜』の『ダンジョンといういまだ謎に包まれた構造物を探索する者たち〜ダンジョン探索者を生業とする者〜』の放送回を観た時だった。
その中で探索者を仕事にしている人たちの話を聞いた時、私の胸はドクンドクンと高鳴り、
「私、探索者になりたい!」
と、私の中でその想いが爆発した。
その後、すぐにネットで探索者になるにはどうすればいいのかを徹底的に調べた。すると、探索者として活動できるのは『16歳以上』というのを見つけ落胆した。だって、本当ならすぐにでもなりたかったから。
でも、少し冷静になって「そりゃ、そっか」と納得する。だって、ただでさえ危険と隣り合わせの職業⋯⋯それが『ダンジョン探索者』なのだから。
そして、私は考え決断する。
「16歳になるまでのこの6年間は探索者になるための体づくりをする!」
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そうして、私は16歳になるまでの6年間——体づくりに全振りした。
元々、運動神経が良かった上にさらに私は自分の体をいじめ抜いた。そのおかげで、中学に入ってからはスポーツに関するものすべて、他の生徒を圧倒した。
わかりやすい例で言うと、毎年の校内陸上大会で本家の陸上部の選手をごぼう抜きした⋯⋯そんな感じだ。
ちなみに部活動はやっていない。理由は『探索者になるための体づくり』がメインだったから。ただ、中学では生徒はもちろん先生たちからも「亜美が何らかの運動系の部活に入れば絶対に全国レベルなんだけどな〜」と何度も言われていたし、通知表にも書いていた。
私的にはそういった外部の声が通知表に反映されたのが一番嬉しかった。なぜならそれが『探索者』になる時の母さんを説得するときの『武器』となるからだ。
そうして、探索者になるための準備を万端にした私は高校へと入学。歳も16歳となり、ついに『探索者』の登録ができる年齢となった。
本当なら16歳の誕生日にお母さんに「探索者になる!」と伝えたかった。⋯⋯が、それは一旦待った。
というのも、小学校の時に観たあの番組の中で、女性でしかも現役高校生で探索者になった子が「今は両親も応援してくれてますが、探索者になると言ったときはかなり反対されました」と言っていたからだ。
実績は中学の時に作った。母さんからも「どうしてこんなに先生に褒められるくらい運動神経が良いのに部活やらないの?」と聞かれたこともあった。そんな時、私は「やりたいことがあるんだ。でも、今はまだ秘密!」とはぐらかした。
母さんもそんな私を見て「何か目指しているものがあるのかな?」くらいには思っていると思うし、それが私の狙いだ。
つまり、それらはすべて『探索者になること』と『家族にも応援して欲しい』という願いを成就するための計画なのだ。
だから、私は焦らずに機会を伺っていた。
しかし、そんな時だった⋯⋯。
「えっ? タケル(兄ぃ)が探索者になるぅ?!」
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私はタケル兄ぃの告白に耳を疑った。
あのタケル兄ぃが⋯⋯探索者に?
しかも、話によるとF級探索者になるのに必要な『レベル2』にはすでになっているという。夏休みに密かに部屋から抜け出して『探索者養成ダンジョン』に通っていた⋯⋯と。
え? そ、そんなに早く?!
だって、夏休みの間って約2ヶ月くらいだよ!
正直タケル兄ぃは運動神経が良い方ではない。だから、その話は到底信じられなかった。でもタケル兄ぃは「明日F級探索者の登録に行く」という。「登録料は貯金で出せるから心配しないで」とも。
そこまで言うということは『本当に探索者になれる状況』だということだ。
私はまさか家族から⋯⋯しかも自分より早く探索者になる人が現れるなんて想像すらしていなかった。まして、運動神経は可もなく不可でもないタケル兄ぃがなるなんて⋯⋯。
その場では、そんなショックは微塵も見せないよう振る舞っていたが、私の心は大きく掻き乱されていた。
そして、次の日——私はタケル兄ぃが家に帰るのをずっと待っていた。理由はもちろん『本当に探索者になれたのかどうか』を知りたかったから。
そんな時だった。
突然、友達から連絡が入ったので取ると「なんか今めっちゃ面白いDストリーマーが現れたー! このチャンネル観て!」とワーワーと興奮気味な様子で早口であるDストリーマーの配信を観るよう言ってきた。
「わ、わかったから!? そんなに急かさないでよ!」
まー実際タケル兄ぃが帰るのは夕方くらいだろうと思っていたので、その間どうやって時間を潰すか考えていたところだったのでタイミングがよかった。
ということで、早速そのDストリーマーのチャンネルの配信を由美と一緒に観た。
「え? 何、これ?」
そこには『オメガ』なるサングラスとマスク、それに格好は青のチェック柄の長袖シャツにジーパンという、何とも残念な出立ちをしていた。
そんな私の初見の感想は、
「ただの不審者じゃん!」
である。