087「オメガ様ガチつよ勢運営(3)」
「そう。だから、もし櫻子ちゃんが本気を出したらアレクサンドル・アーサーとどっちが強いのか⋯⋯個人的にすごい興味があるわ」
「たしかに。見てみたいですね」
「ちなみに⋯⋯リンファはどっちが強いと思う?」
「私は櫻子さんの全盛期を知らないですから何とも言えませんが⋯⋯とはいえ、アーサー様の力を見たことがありますので、あれを見ると⋯⋯アーサー様が強いかと」
「たしかに。アーサーのあの力は私もよく知っているので、正直私もアーサーが上だと思うわ。でも⋯⋯」
「でも?」
「櫻子ちゃんはまだ何か私たちに言っていない『力』を持っていると⋯⋯私は思っているの」
「え? 何か知ってるんですか?」
「勘よ。ただ、櫻子ちゃんと過去に実戦で戦ったことがあったんだけど⋯⋯」
「えっ?! そうなんですか!」
「ええ。詳細は省くけど⋯⋯その対峙した時、私は櫻子ちゃんの中に『未知の力』を感じたの」
「未知の⋯⋯力?」
「ええ。だからどちらとも言えない⋯⋯というのが実際のとこね」
「ソフィア様がそこまで⋯⋯櫻子様ってすごい人なんですね」
「そうよ。櫻子ちゃんはとってもチャーミーな『のじゃロリ』よ!」
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「そういえば、今回の櫻子様の記者会見の前に日本支部の情報室から『オメガの49階層配信動画の非公開』の指示があったと思うんですが、あれもソフィア様の裁量で?」
「ええ、そうよ。櫻子ちゃんの頼みだもの」
「ええぇぇ⋯⋯」
と、リンファが怪訝な顔でドン引きする。
「あら? どうしてそこでドン引きするの?」
「い、いや、いくら櫻子様の頼みでも、あれはやり過ぎかなぁ〜と。だって、あの処置はイギリス総本部のDストリーマー運営側のミスってことになり、挙句、クレームも殺到したんですよね?」
「ええ、そうね」
「そこまでするのは正直あまりよろしくないのでは? そもそも今回の件、イギリス総本部の運営スタッフの中には納得いかない者も多い⋯⋯いえ、むしろ全員納得いってないんじゃないですか? だって、今回の件、本当はイギリス総本部は何も関係ないのに一方的に非難を浴びる形になったわけですし⋯⋯」
「ああ、なるほど。そういうことですか。では一つ真実を申しましょう。Dストリーマー運営スタッフに今回の櫻子ちゃんの指示で被害を被ったことで納得いっていない者は一人もいませんでした」
「⋯⋯え?」
「むしろ、『櫻子様のために泥を被る覚悟でこの仕事に臨んでいます。そして、それこそが私の誇りです!』とさえ言っていたわね」
「⋯⋯は?」
「だって、このDストリーマー運営陣及び運用スタッフは皆、櫻子ちゃんを『のじゃロリ神』と崇めている者たちで構成されているのだから」
「⋯⋯」
ポカーン。
空いた口が塞がらないリンファ。
「しかも、彼らは自ら志願して自主的にこのDストリーマー運営に参加してるのよ」
「志願⋯⋯?!」
「本来ならここまで偏るのはよくないとは思うのだけれど、彼ら彼女ら一人一人が優秀なスタッフでね⋯⋯。それで、結局採用したの。実際、その後は力を存分に発揮してDストリーマー運営を成長させていったわ」
「⋯⋯」
(な、何だろう⋯⋯? 電波ジャックの件で志願してきたエレーナの流れと⋯⋯似てる気が⋯⋯)
「それに、櫻子を『のじゃロリ神』と崇拝しているといっても特に何か怪しいことをしていることはないのよ。今回みたいにたまに櫻子の『無理難題な要求』があったりはするけど、でも、別にそれくらいで、大きな実害を受けたことは一度もないわ」
「で、ですが、Dストリーマー運営だけとはいえ⋯⋯櫻子様の信者がイギリス総本部の中枢の一つにいるのは⋯⋯危険なのでは?!」
「大丈夫よ。だって櫻子ちゃんだもの」
「え? い、いや、それはあまりにも危機感が薄い⋯⋯」
「大丈夫よ。櫻子ちゃんは絶対にイギリス総本部を危険に晒すようなことはしないわ」
「! な、何なのですか⋯⋯ソフィア様の⋯⋯その櫻子様への絶対的な信頼は?」
「え? だって私も⋯⋯『のじゃロリ神』を崇拝している一人だもの。うふん」
「⋯⋯」
ダメだ、この人。
早くなんとかしないと!
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「それでは失礼します」
「はーい。また来週よろしくね、リンファ」
「かしこまりました」
ソフィアに挨拶を済ませ、部屋を出るリンファ。
「⋯⋯ふぅ」
「お疲れ様です」
その時、部屋から出たタイミングで『小柄なマッシュルーム男』が声を掛ける。
「はい、お疲れ様です。チャン君」
そのマッシュルーム男にいつものように返事を返すリンファ。そのマッシュルーム男の名は『チャン・カーフェイ』。
『チャン・カーフェイ』
世界探索者ギルド協会中国支部副ギルドマスター。リンファの右腕として中国支部の運営を支えている者の一人。そして、探索者としての実力も『ナンバーズ』ではないもの探索者世界ランキング『第11位』と⋯⋯『ナンバーズ』一歩手前の実力を持つ男である。
「はぁぁぁ⋯⋯。あれで大丈夫でしょうか、ソフィア様やイギリス総本部は⋯⋯」
「どうしたのですか?」
「実は⋯⋯」
と、リンファがチャンにソフィアとのやり取りを話す。
「⋯⋯なるほど。たしかに櫻子様信者がそこまでイギリス総本部の中枢機関の一つ『Dストリーマー運営』にいるのは少々危機感が欠如していると⋯⋯私も感じます」
「ですよね、チャン。まぁ、たしかにこれまで大きな実害がないのも事実ですし、Dストリーマーがここまで成長したおかげで探索者人口が増えたのもまた事実。そして、それらを一手に支えたのが櫻子様信者らDストリーマー運営陣&スタッフであることも⋯⋯また事実なのです」
「⋯⋯リンファ様」
「しばらくは様子見ですが⋯⋯しかし、今後オメガ様が関わってくることになると、この『櫻子様信者』の影響力は無視できないようになるかも知れません。ですので、中国支部としてもDストリーマー運営陣&スタッフは独自で監視をしましょう。⋯⋯よろしくお願いしますね、チャン」
「かしこまりました」
そんな話を交わしながら、二人は屋上のヘリポートに着くと、そのままヘリに乗り込み自家用ジェットが待機してある空港へと飛び立っていった。